みなとみらい21地区は「コト志向」の象徴的なエリアになる

アリーナを持つことによる広がりは、自社のビジネスはもちろん、地域活性化にもつながりそうです。横浜では地域と連携しながらナイトタイム・エコノミーの発展に貢献しようという動きも進めていますね。

矢内 みなとみらい21地区は、横浜市としてはやっぱりそういうエンタテインメントの集積地にしたいという考えがあるようです。そういう意味では、ぴあアリーナMMに対しても大きな期待を寄せていただいています。

 昨年12月には「YOKOHAMAミッドナイトHAR★BAR2019」*4と題したイベントをぴあが旗振り役になって行いました。いつもより夜遅くまで街を楽しみましょうということで、レストランの営業時間を夜12時まで開けてもらったり、クルーズ船を夜間に運行したり、地域で連携して土曜の夜を盛り上げようというイベントです。

 こうして地域と連携していく場面がこれからも増えると思います。みなとみらい21地区は、IRはまだ決まっていませんが、既にKT Zepp Yokohama (スタンディング時2146人収容)もありますし、この後、2万人規模のKアリーナも完成します(2023年10月完成予定)。

 今、世の中は大きくエンタテインメント志向、モノからコトへという大きな流れになってきていますよね。そういった中で、横浜のみなとみらい21地区は非常に象徴的な地域になっていくんじゃないかと思っています。

(写真:鈴木愛子)

横浜については、市とも連携しながら地域活性化にも関わっていくことになりそうですね。ほかにも、エンタテインメントで地域を盛り上げたいと考えている自治体はたくさんあります。そういった自治体から相談を受けたりすることはありますか。

矢内 そうですね。行政の方ともよくお話をするのですが、まず「今、地方創生の時代だから」みたいなところから始まるわけです。でも「なぜ地方創生をしようとしているんですか?」と、動機を掘り下げていくと、意外にもちゃんと会話が成立しないことが多い。「こういう予算が組まれていますから」とか、そういう話になってしまうんですよね。せっかくある程度の予算が確保されているわけですから、「あなたのポジションだったら、本気になればもっといろんなことができるのに」って、そう思うわけです。

 これは行政のプロジェクトでも民間のプロジェクトでもいえることだと思うのですが、ある種の哲学を持って、本当にこうありたいとか、こうあるべきだと強く思って、枠を超えていこうという行動意欲のある人が中心に1人いれば、いろんな人が集まってきて、物ごとが動き出していくんです。

1人の中心人物の引力が、引き寄せてくるわけですね。

矢内 そう、引力なんです。もちろんお金がなければできないこともありますが、お金だけでもできないですよね。真ん中に誰かそういう、意思を強く持った、行動力、実行力のある人がいれば、動くと思いますよ。


YOKOHAMAミッドナイトHAR★BAR2019のチラシ
注)

*4 YOKOHAMAミッドナイトHAR★BAR2019
2019年12月14日の土曜日に開催。この日に限り、クルーズ船の夜間運航、観覧車の深夜営業、夜間レストランの営業時間延長、イルミネーションやライトアップの点灯時間延長などを行った。

【企画総合プロデュース】 ぴあ
【特別協力】トヨタ自動車
【協力】 ポートサービス、京浜急行電鉄、新港ふ頭客船ターミナル、横浜赤レンガ、MARINE&WALK YOKOHAMA、泉陽興業、横浜グランドインターコンチネンタルホテル、横浜ベイホテル東急、横浜ロイヤルパークホテル、横浜港大さん橋国際客船ターミナル、コカ・コーラ ボトラーズジャパン、横浜高速鉄道、 NEXT STAGE、Music & Aroma Intelligence、クリエイティブ・ライト・ヨコハマ実行委員会、横浜国際平和会議場(パシフィコ横浜)公益財団法人横浜観光コンベンション・ビューロー
※ 令和元年度 横浜クリエーションスクラム助成事業
インタビューを終えて

及川正通さんの表紙イラストで多くの方の記憶に残る情報誌「ぴあ」は、矢内廣さんが大学生の時に起業して作った“メディア”です。

その後、イベントなどのチケットを予約販売する“流通”、「ぴあフィルムフェスティバル」などの“コンテンツ”と、エンタテインメントを中核に多角的に事業を展開してきました。

2020年、ぴあアリーナMMという“場所”を手に入れたことにより、コンテンツ・流通・場所・メディアというエンタテインメントの4要素を、ぴあは手に入れたことになります。これは、チケットや情報の 流通のみならず、エンタテインメントの4要素のトータルにおいて「ぴあ」がプラットフォーマーになったとも言えるでしょう。

矢内さんは起業を志す多くの方と話しをする機会があるそうですが、得てしてマネー・メーキングのみが目的になっていることに警鐘を鳴らします。

上場してどうする? 利益を上げてどうする? 

What?を重ねていくと、多くの方は言葉に詰まる、と。

大切なのは“動機”で何のために起業しようとしているかを、しっかりと理解することだと言われています。明確な“動機”がないと、新しい事業にはつきものの“壁”にぶち当たったときに、乗り越える力が湧いてこない。

電話予約からインターネットでの予約、紙の雑誌からウェブメディアへ──。様々な時代の変革を乗り越え、エンタテインメントのプラットフォーマーにまで「ぴあ」を成長させてきた矢内さんの言葉はとても重く感じます。

インタビューをさせていただいた後、にわかに新型コロナウィルスの脅威が高まり、我々をとりまく世界は激変しました。ぴあアリーナMMもオープンと同時に大きな逆風に晒されています。しかし、矢内さんのエンタテインメントを愛する力強い動機は、この逆境をも必ず乗り越えられると思います。
高橋博樹(たかはし・ひろき)
日経BP総研 戦略企画部長/ソリューション・アーキテクト
高橋 博樹(たかはし ひろき) 日経BP入社後、インターネット草創期のビジネスモデルづくり、ICT、建設など幅広い分野を担当。2015年9月、日経BP総合研究所の発足と同時に戦略企画部長に就任、現職。「新・公民連携最前線」「Beyond Health」の2つのメディアを創案して立ち上げた(写真:栗原克己)