「入院していても学校に通える」という使われ方が一番うれしかった

吉藤さんは、今は孤独を克服されていますよね。どのようにしてコミュニケーション能力を高めていったのでしょうか。

吉藤 とにかくいろんなことをやってみました。ほかの人と同じように、例えば「学校の放課後にみんなでたこ焼きを食べに行こう」みたいなことに付き合ってみたり、先輩に付いていってパーティーに参加してみたり──。早稲田大学に入ったときには、片っ端からサークルに20個ぐらい入ってみたりもしました。入学したばかりの新入生というのは、先輩たちからするとサークルに入ってほしい人なわけで、一番市場価値が高いわけですよね。なので、ここ駄目でも次にすぐ移れる今の時期のうちにいっぱい失敗しようと思ったんです。そして、片っ端からサークルに入ってはみたけれど、なかなかうまくいかず……ということを繰り返していました。そのほか、(知らない人とコミュニケーションを取るため)ヒッチハイクをやってみたりとかもしましたね。

 そんなふうにいろいろやってみた中で、コミュニケーション能力を身に着けるのに一番大きかったのは何かというと、奈良県のキャンプ場で働いたことです。夜行バスで奈良に行って、土・日はキャンプ場で働いて、また東京に戻ってくるという生活を4年間続けました。スタッフの補助をするキャンプ補助員の仕事をさせてもらっていたのですが、チームワークや誰かと一緒に何かをするといったことの価値を強く感じることができた経験でした。

 この時の経験は、今の仕事で、プレゼンテーションをする時などにも役立っています。キャンプ場では、子供たちを10分以上放置すると気が散って言うことを聞かなくなります。そこで「10分でいかに興味を引きつけながら、どうやてちゃんと言うべきところを押さえて話を完結させるか」といった “修行”を、キャンプ場ですごくたくさんやってきたので、それで鍛えられました。

そういった経験を経て、OriHimeがつくられていったわけですね。OriHimeは、動けない人がパイロット(OriHimeを操縦する人の呼び名)となってコミュニケーションを取る手段としてだけでなく、飲食店や自治体の受付など、部屋にいながら外での仕事をすることもできます*3。コロナ禍の中でのコミュニケーションにも使われていますね。こうした広がりは当初から想定していましたか。

吉藤 こんなふうに使われてほしかった、という部分にも使われていますし、予想していなかった使われ方もあります。10年前に最初につくったときは、まだ小型化することは難しかったんですけど、その頃から一番やりたかったのが、持ち運びができるようにするということでした。OriHimeを介して遠足に一緒に行ったりとか、旅行に一緒に行ったり、遠隔で買い物をしたりとか──。OriHimeを連れて行けば、そういったことが病室から出られなくてもできるようになります。

 特に「入院していても学校に通える」という使われ方が一番うれしく思っています。OriHimeを使うことによって、本来自分がいるはずの場所で、休み時間もそこにいて友達と会話したりして同じ時間を過ごした思い出をつくることができるようになりました。

 今、コロナ禍の中においては、OriHimeというロボットは、感染症予防の観点でも有効です。例えば無菌室の子たちがパイロットとなり、外に行くツールとして使われたりもしています。逆に、ほかの病室の子たちがOriHimeで無菌室に入ったこともありました。そのほかにも、軽度感染の方々が宿泊されている施設の中でOriHimeが働いていたりもしています。最近の例では、自分の両親に会いに実家に行きたいけれど感染が怖いということで、OriHimeをどちらかの家に置いて、たまにOriHimeを操作して一緒にテレビを見たりとか、そういった使われ方も増えてきています。


注)
*3 難病や重度の障害で外出困難な人がパイロットとなり、分身ロボットを操作して接客を行う「分身ロボットカフェDAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)」。これまで期間限定で実証を繰り返してきたが、2021年6月にはいよいよ、東京・日本橋に常設店舗がオープン予定だ。201年5月9日に応募を締め切ったクラウドファンディングで4500万円近くの資金を集めるなど、反響は大きい。なお、ここで接客する分身ロボットはサイズの大きい「OriHime-D」が中心となる。
「分身ロボットカフェ」実験店 常設化プロジェクト!のクラウドファンンディング告知サイト。4458万7000円もの資金を集めた(201年5月9日応募締め切り)
「分身ロボットカフェ」実験店 常設化プロジェクト!のクラウドファンンディング告知サイト。4458万7000円もの資金を集めた(201年5月9日応募締め切り)

2019年に実施した「分身ロボットカフェ」の様子(写真:オリィ研究所)(写真:オリィ研究所)
2019年に実施した「分身ロボットカフェ」の様子(写真:オリィ研究所)(写真:オリィ研究所)
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