オリィ研究所が運営する「分身ロボットカフェ」では、ネットワークを介してOriHimeを遠隔操作することで、寝たきりの人でも接客ができます。それだけでなく、OriHimeが「もう一つの体」となってコーヒーを持ち運んでお客さんに届けることもできるのです。距離や障害を乗り越えて人と出会い、社会に貢献できる──。そんなOriHimeのソリューションは、様々な理由から動きが取れない人々のQOL(生活の質)を大きく高めるツールとなりうるポテンシャルを秘めています。
吉藤さんは、「孤独の解消」をミッションとして*1、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」*2を中心とした事業を展開してきました。「孤独の解消」というテーマやその事業化はいつごろから考えていたのでしょうか。
吉藤 会社をつくろうと思ったのはずっと後なんですが、「孤独」という問題を自覚したのは中学校3年生の頃でした。私は10歳から14歳頃まで、3年半ほど学校に通えず、いわゆる不登校という扱いを受けていた時期がありました。とりわけ、中学校に入った頃には、天井を眺め続けるような生活で、このときは「本当に誰からも必要とされていない」と思ってしまうような状態でした。そんな非常に苦しかった経験がありました。
その後、私は役割を欲したんですね。おそらく世の中には、例えば学校の教室で、自分から友達に話しかけていって、友達を簡単につくることができるタイプの人たちがいる一方で、私のように(周囲と)全然話が合わなかったり、話しかけることによって失敗したりということがあまりにも多過ぎて、それがつらくて話しかけることができないタイプの人がいる。後者の人の中には、何でもいいから有用性を身につけて、人から頼られることで社会性を身につけようと考える人がいるんです。私はそのタイプで、工業高校に入って、人の役に立つために役に立つものをつくろうとしていました。
その後、高専に入ってから、やっぱり友達は欲しいと思ったんですが、人間の友達は怖い。であるならばAI(人工知能)の友達をつくろうということで、高専時代はその方面の研究をしていたんです。けれど、1年ぐらいやってみて「これは違うぞ。AIとは友達になれない」と思いました。
そして、人間の友達をつくることが難しいのであれば、「それを克服するための福祉機器があればいい。今はそれがないだけである」と考えました。私は車いすなどの福祉機器をずっとつくっていましたが、車いすが足の不自由な人にとって足の代わりとなるものであるように、孤独という問題を解消する「コミュニケーションのための福祉機器」をつくろうと考え始めたのが、17歳のときです。
注)
*1 オリィ研究所が掲げるミッションは次の通り。
オリィ研究所は、孤独化の要因となる「移動」「対話」「役割」などの課題をテクノロジーで解決し、これからの時代の新たな「社会参加」を実現します。
*2 「OriHime(オリヒメ)の外観。 H23cm×W約17cm(腕を畳んだ状態)×D約11cm。手の動きや、能面を研究してつくられた顔の動きなどで感情表現ができる。写真は受付で稼働するイメージ。OriHimeのパイロット(操縦者)は、在宅環境から遠隔で接客する。
「入院していても学校に通える」という使われ方が一番うれしかった
吉藤さんは、今は孤独を克服されていますよね。どのようにしてコミュニケーション能力を高めていったのでしょうか。
吉藤 とにかくいろんなことをやってみました。ほかの人と同じように、例えば「学校の放課後にみんなでたこ焼きを食べに行こう」みたいなことに付き合ってみたり、先輩に付いていってパーティーに参加してみたり──。早稲田大学に入ったときには、片っ端からサークルに20個ぐらい入ってみたりもしました。入学したばかりの新入生というのは、先輩たちからするとサークルに入ってほしい人なわけで、一番市場価値が高いわけですよね。なので、ここ駄目でも次にすぐ移れる今の時期のうちにいっぱい失敗しようと思ったんです。そして、片っ端からサークルに入ってはみたけれど、なかなかうまくいかず……ということを繰り返していました。そのほか、(知らない人とコミュニケーションを取るため)ヒッチハイクをやってみたりとかもしましたね。
そんなふうにいろいろやってみた中で、コミュニケーション能力を身に着けるのに一番大きかったのは何かというと、奈良県のキャンプ場で働いたことです。夜行バスで奈良に行って、土・日はキャンプ場で働いて、また東京に戻ってくるという生活を4年間続けました。スタッフの補助をするキャンプ補助員の仕事をさせてもらっていたのですが、チームワークや誰かと一緒に何かをするといったことの価値を強く感じることができた経験でした。
この時の経験は、今の仕事で、プレゼンテーションをする時などにも役立っています。キャンプ場では、子供たちを10分以上放置すると気が散って言うことを聞かなくなります。そこで「10分でいかに興味を引きつけながら、どうやてちゃんと言うべきところを押さえて話を完結させるか」といった “修行”を、キャンプ場ですごくたくさんやってきたので、それで鍛えられました。
そういった経験を経て、OriHimeがつくられていったわけですね。OriHimeは、動けない人がパイロット(OriHimeを操縦する人の呼び名)となってコミュニケーションを取る手段としてだけでなく、飲食店や自治体の受付など、部屋にいながら外での仕事をすることもできます*3。コロナ禍の中でのコミュニケーションにも使われていますね。こうした広がりは当初から想定していましたか。
吉藤 こんなふうに使われてほしかった、という部分にも使われていますし、予想していなかった使われ方もあります。10年前に最初につくったときは、まだ小型化することは難しかったんですけど、その頃から一番やりたかったのが、持ち運びができるようにするということでした。OriHimeを介して遠足に一緒に行ったりとか、旅行に一緒に行ったり、遠隔で買い物をしたりとか──。OriHimeを連れて行けば、そういったことが病室から出られなくてもできるようになります。
特に「入院していても学校に通える」という使われ方が一番うれしく思っています。OriHimeを使うことによって、本来自分がいるはずの場所で、休み時間もそこにいて友達と会話したりして同じ時間を過ごした思い出をつくることができるようになりました。
今、コロナ禍の中においては、OriHimeというロボットは、感染症予防の観点でも有効です。例えば無菌室の子たちがパイロットとなり、外に行くツールとして使われたりもしています。逆に、ほかの病室の子たちがOriHimeで無菌室に入ったこともありました。そのほかにも、軽度感染の方々が宿泊されている施設の中でOriHimeが働いていたりもしています。最近の例では、自分の両親に会いに実家に行きたいけれど感染が怖いということで、OriHimeをどちらかの家に置いて、たまにOriHimeを操作して一緒にテレビを見たりとか、そういった使われ方も増えてきています。
注)
*3 難病や重度の障害で外出困難な人がパイロットとなり、分身ロボットを操作して接客を行う「分身ロボットカフェDAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)」。これまで期間限定で実証を繰り返してきたが、2021年6月にはいよいよ、東京・日本橋に常設店舗がオープン予定だ。201年5月9日に応募を締め切ったクラウドファンディングで4500万円近くの資金を集めるなど、反響は大きい。なお、ここで接客する分身ロボットはサイズの大きい「OriHime-D」が中心となる。
人がいる空間に移動することが第一歩
コロナ禍におけるコミュニケーションというのは、まさに、開発したときには考えていなかった意外な使われ方ですよね。我々の働き方に引き寄せて考えると、テレワークが増えていったときのコミュニケーションにもOriHimeが役立つのではないでしょうか。
吉藤 そういったこともあると思います。ただ、その点について私は、むしろコロナ禍が収束した後のことを考えています。おそらく、コロナ禍の中では多くの人が自分の家にいて、パソコンを通してコミュニケーションをとっている。つまりモニターの前にいるという状態は、例えば寝たきりの方や、無菌室にいる子供たち、ひきこもりの人たち……みんな一般の人と平等の立場に今はいるんです。でも、コロナが収束すれば、人はまた必ず外に出始めます。しかし、みんなが出始めて「やっぱり外はいいよね」となったとき、そこに参加することができない人は、より孤独を感じることになるでしょう。
人はどんなときに孤独を感じるかというと、「独りぼっちでいるという状態」のときではなくて、「周りと比較して自分がどうか」ということを思ったときに、すごく孤独を感じてしまいやすいんです。クリスマスの夜に1人でいるとさみしく感じる、という世界ですね。「周りはきっとみんな幸せな夜だろう」みたいなことを思ってしまう。
確かに、人と比較をしてしまうことでさみしさが増す、みたいなことはありますよね。
吉藤 ですので、同じクラスの友達がみんなZoomなどのオンライン会議ツールで授業を受けている分にはよいのですが、自分を残してみんな学校に行くようになってしまうと、学校に行くことができない子どもは、そこですごく取り残されたと感じてしまうと思うんですね。
このシチュエーションにおいて、私たちのつくっているOriHimeは、最もコミュニケーションがとれるツールだと思っています。クラス全員に「モニターを持って歩いてください」とは言えないし、実際になかなかそうはならないでしょう。そこにOriHimeというツールがあることによって、スマホやタブレットなどにアクセスしていない人たちに対しても、話しかけたりすることができる。モニターとは違って、OriHimeは「もう1つの体」として顕現できるツールなんです。
みんなが移動できているのに自分だけできない。そのことによって、より孤独感が際立ってしまう──。OriHimeは、「移動と孤独」に関する問題を解消するツールという言い方もできそうですね。
吉藤 コロナ禍以前、私たちは毎朝、着替えて、化粧して、いろんな準備に1時間かけて、電車に乗ってさらに1時間かけて仕事場に行き、そして帰りも1時間、電車に乗って帰ってくる。1日3時間ぐらいは移動のためだけに費やしてきたわけですけれども、これだけで年間1カ月ぐらいの時間を使ったことになるんです。そこまでして私たちはどうして外に行くのかと考えると、やっぱり人の営みに参加するために外に出るんですよね。
人の営みに参加するには、まず人と出会わなきゃいけなくて、人と話さなきゃいけない。その上で関係性を構築することができる。そして、関係性を構築することができたからこそ、何か役割を与えてもらえて、そして役割をこなしていくうちに何かしらのことを任されるようになってくる──。そうやって自分の有用感が高まってきてきたときに、そこが自分の居場所になったり、自分を真に肯定することができるようになっていったりするわけです。そこから先は、向上心を持って成長していくというフェーズに入っていけるわけですが、人によっては、そこまで到達するのがとても大変だったりするんです。
私が意識しているのは、人が社会に参加していくプロセスです。まずその第一歩として、人がいる空間に移動しなくてはなりません。人と出会うということ自体がコミュニケーションの始まりであって、何も持たない人たちのコミュニケーション、あるいは社会復帰のリハビリテーションのきっかけのためのコミュニケーションを考えた場合、自分の体を運ぶ、もしくは運ぶモチベーションをもう一度持ち直すというアプローチが必要だと考えています。
まずその第一歩として、人がいる空間に移動しなくてはならない、と。
まずは、分身ロボットカフェをしっかり形に
そのためのツールとして、OriHimeを街なかで普通に見かけるよう社会になっていくかもしれません。
吉藤 街にOriHimeがあふれているような状態になるかは分かりませんが、今の車いすよりは街でよく見かける存在になるとは思っています。
家の外にいる人に対して、モニターを持ってもらうことなく、家の中にいる人が話しかけるツールというものを、今の私たちは持っていません。これまで実証を繰り返してきた「分身ロボットカフェ」では、在宅のパイロットが、OriHimeを通じてよってモニターを持っていない人を接客することができました。つまり、OriHimeは、家の外にいる人と在宅の人が、モニターなしでも十分コミュニケーションがとれる機能を持っていることを証明できたと思っています。
しかも、OriHimeを介すことによって、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんや、本当に体のごく一部しか動かすことができないような人たちでも、分身ロボットカフェでは「物を運ぶ」という行為によって人から「ありがとう」と言ってもらえる。人が家にいながら、こんなふうに街なかで何かしらの役割を担って仕事をしていくということは、今後十分あり得ると思っています。
日本では、2025年には2200万人の方が75歳以上の後期高齢者となります。そういった中で、健康で歩ける状態を維持できればよいのですが、そうでない人も現実問題として増えていきます。OriHimeは、超高齢化社会でQOL(生活の質)を保っていくための1つの解になりそうです。
吉藤 そうですね。健康寿命という言葉がありますが、そこから亡くなるまでの時間は、男性が約9年、女性では12年もあります(男性の平均寿命は80.98歳・平均健康寿命は72.14歳、女性の平均寿命は87.14歳・平均健康寿命74.79歳。厚生労働省・2016年)。「農業でもやろうか」「旅でもしようか」というふうに、年金をもらいながら悠々自適のセカンドライフを楽しもうと老後のことを考えている人もいると思います。ところが、健康寿命に照らし合わせると、65歳からたった数年しか健康でいられる時間がないんです。「サードライフ」とでも表現すべき、健康が損なわれてから平均寿命までの約10年間をどう過ごすのかを考えなくてはなりません。体が動かない自分とどう付き合いながら、自分の意思に基づく選択肢を持ち続けられるかが重要だと思っています。
社会の中で感謝されたり、必要とされたりしながら、自分をうまく肯定しながら生きていく──。そのための方法を私たちは研究しています。私たちは今、ALSの患者さんや寝たきりの人たちと研究を進めていますが、その目的は彼らを救いたいということだけではありません。彼らとともに、「これから増えていく寝たきりの人たちのために研究しよう」というモチベーショを持って研究を進めています。
AIでは孤独は救えないということから生まれたのがOriHimeですが、その後、研究を続けてきた中で、吉藤さんのAIに対する見方に変化はありましたか。
吉藤 基本的な部分、つまり、人は人と話すべきであるということ──。「べき」とまでは言わないまでも、人は人と話した方がいいという視点に関しては、まったく変わっていません。
ただ、友達をAIで代行、あるいは代替していこうというアプローチも、場合によっては必要だと思っています。これはとても気の毒な例ではありますが、例えば後期認知症になってしまって、周りのスタッフも疲れ切ってしまい、もう誰にも相手にしてもらえない場合。そのときに、「話す」という役割をAI的なものが担い、彼らの話を聞いてあげるような存在となる──。そんなケースは、「あり」か「なし」かと言えば、ありだと私は思っています。
もう1つ考えられるAIの使い方としては、役割のハイブリッド化があります。例えば、おじいちゃんが入院していて、一方で、孫の家では掃除機ロボットが家を掃除しているという状況があったとします。掃除は別にロボットがやらなくてもよくて、入院しているおじいちゃんに遠隔操作してもらえば、「おじいちゃん来たよ」みたいな感じで周りの人たちは物をどかし始めるかもしれないし、そこで会話が生まれるかもしれません。「おまえ、また散らかして」みたいな会話が生まれるかもしれません。掃除をするという役割と共に、おじいちゃんが孫と話す口実ができるわけです。けれど、おじいちゃんが家の中すべてをきれいに掃除するのは大変なので、AIによる掃除ロボットとうまく役割をハイブリッド化することはできると思いますね。
様々な研究やアイデアが広がっていきますね。今後、オリィ研究所では、どのような事業展開を考えているのでしょうか。
吉藤 まずは、分身ロボットカフェをしっかり形にしなくてはと思っています。外出することができない人たちのOriHimeに対するニーズの多くは、遊びや旅行に使いたいということではなく、「誰かの役に立ちたい」というところにあります。
ALSの患者さんたちは、意思伝達装置として、OriHime eyeという視線入力のソフトウエアを45万円で購入できます。今は購入補助制度が適用されるので、5万円で買えるんですが、それでもやっぱり5万円というのは彼らからすれば大金です。その5万円で遊ぶためのツールを買うというのは、やっぱりなかなか難しい。でも、OriHimeによって社会で役割を得ることができたり、就職することができたりするのであれば、「45万円出してでも買います」と、彼らに言われたこともありました。
OriHimeというロボットを使うことで、今まで働くことができなかった人たちが社会にうまく参加して、自信を取り戻すことができるのか。あるいは今まで一度も持ったことがなかった役割を手に入れることができるのか。その実験の場が、分身ロボットカフェです。今後は、重度障害者の方々や特別支援学校の子供たち、あるいは、様々な事情で何年間も第一線を離れていた人たちが社会とつながる場として、事業を広げていきたいと思っています。
起業よりも、「ものすごく詳しい専門家」になるのが先
分身ロボットカフェで、 OriHimeのパイロットが人と接する仕事をすることで、彼らの人間関係を構築・拡張していくきっかけになるかもしれません。
吉藤 分身ロボットカフェでOriHimeというロボットを使って接客して働いていく中で、パイロットがお客さんとの間に人間関係を構築して、就職していく──。つまり、分身ロボットカフェで働くこと自体が就活化するということは、十分あり得ると思っています。
私は人間関係にすごく苦労してきた人間として、「面接」という採用の仕組みがうまく機能しているとは思えないんです。私は会社で採用の面接をしたりもしますけど、30分や1時間で人を見たりすることはほぼ不可能です。でも、リファーラル採用(社内人脈を通じた採用)であったりとか、何かのプロジェクトを一緒にやっているうちに気が合って「ちょっとそろそろうちにジョインしないか」ということもあり得るわけです。そうして入ってきた人もうちの会社は多いですしね。
実際に昨年、分身ロボットカフェでOriHimeのパイロットとして働いていた高校生が、モスバーガー(OriHimeが無人レジの補助をしている店舗がある)でのアルバイトとして採用されました。こういった広がりは、今後も再現性があると思っています。
しかも、OriHimeでは瞬間移動ができるので、分身ロボットカフェで働いて、ちょっと休憩してからすぐ別のところで働くこともできます。いくつかの複業を移動せずに行うことができるというのも、OriHimeというロボットならではの働き方です。また、外出困難者の人材紹介サービス「アバター・ギルド」を昨年7月に始めたのですが、既に20組以上のマッチングをしてきました。こういった人材事業も今後拡大していけると思っています。
最後に、この連載では皆さんにお聞きしているのですが、何か新しいことを始めようとしている人、起業を考えている人に対して、吉藤さんからアドバイスをいただけないでしょうか。
吉藤 起業する人には多分2つのタイプがあると思っています。まず、会社自体を大きくしていくことを目指して起業するタイプ。その会社をコミュニティとして捉えて、それを大きくすること、売上げを伸ばすこと自体にすごく自分の情熱を燃やせるタイプの人たちです。もう一つは、起業をツールや手段としつつ目的は別にあって、その目的のために起業をしてプロダクトをつくっていくというタイプです。
私の場合は後者です。孤独を解消するためにいろいろと考えた結果、チームをつくらなくてはならないし、これで食べていけるようにしなくてはいけないと考えましたし、私が死んだ後も維持される社会的システムをつくる必要もあると考えました。だから起業したわけです。
そして、後者のタイプにおいては、何をしたいのかを明確にしながら、まずはその分野において、ものすごく詳しい専門家になることが大事です。起業自体は、その後からでも遅くはないと思っています。
ロボットの向こう側には、高性能なAIではなく感情のある人間がいる──。そんなOriHimeというロボットは、様々な社会課題を解決する可能性を秘めています。
「孤独の解消」を掲げて、試行錯誤を繰り返し、たどり着いた一つの答えがOriHimeだと吉藤さんは語ります。幸福の捉え方は人それぞれ、十人十色ではあると思いますが、幸福を感じることができる最低限の条件は「社会にコミットしていること」ではないでしょうか。誰かに必要とされている、誰かの役に立つというのは、本質的な人の喜びといえるでしょう。
しかし現実には、様々な理由で病室や家から出られない人もいます。そして、そうした人たちの中には、今までは社会参加をあきらめていた人も少なくなかったのではないでしょうか。
OriHimeは、そういった人々の感情を乗せて、社会にコミットすることができる画期的なロボットです。
「人生100年時代」は間違いなく訪れる近未来ですが、たとえ身体が健康でも、孤独に過ごす「人生100年」は、すべての人にとって幸福とはいえないのではないでしょうか。
OriHimeの存在は、幸福になるための手段を再定義するきっかけになるかもしれません。
日経BP 総合研究所 戦略企画部長

特別付録 吉藤健太朗さんへの10の質問
1.行ってみたい場所
アイスランドですね。めちゃめちゃ寒いところに行ってみたいと思っているんです。
2.影響を受けた本
ないです。
3.すごいと思う人
すごいと思った人はみんなすごいです。なので、一人に決めることはできません。
4.会ってみたい人
あまりいないです。
5.好きな動物
猫です。猫って、そこにいるだけで意味のある存在じゃないですか。つまり、いることが役割なわけです。これって最強だと思って。
6.好きな食べ物
寒ブリの刺し身が好きです。
7.気分転換する方法
仕事をすること。
8.生まれ変わったら何になりたいですか
転生するなら猫になりたいですね(笑)
9.日頃、心がけていること
「まだ死なないようにする」ということですね。昔、心が弱かった頃に、本当に何かこう、ふらっとバルコニーとかに行くと飛び降りたくなるような衝動があったときがあって、そうなってしまうと本当につらいので…。何かこう、死にたいと思わないようにすることはとても大事かなと思っています。
10.最近ハマっていること
割とはまりやすくて飽きにくいタイプなので、どんどん趣味が増えていくタイプなんですけど、最近だとロボットアームをつくるのが楽しいです。OriHimeユーザーの寝たきりの子で、将来の夢は料理人で「卵焼きをつくりたいんだ」と言っている子がいます。その子が操作して卵焼きをつくれるようなロボットアームをつくりたいなと思って。これは仕事じゃなく遊びでやっているんですけど、遊びでやっていることが仕事につながったりもするんですよね。
(タイトル部のImage:出所はオリィ研究所)
