Sansanに「地域貢献」は求めなかった

神山町への進出企業であるSansanには、何を求めたのですか?

大南 今から振り返ると、寺田さんが持つ先見の明には驚くばかりです。彼自身がシリコンバレーで体感してきた新しい働き方を東日本大震災の半年前に実現していたわけですから。その思いを実現するためには先ず神山に受け入れてもらわなければならないと考えたのでしょう。寺田さんから、Sansanは地域貢献をしたいのだけれど、まだ設立3年のひよこのベンチャーで社員数も少ないからどんな地域貢献ができるのか教えてほしい、と。

 僕はその時、「Sansanの地域貢献は、Sansanが神山でも本業ができるということを証明してくれることだと思う」と答えました。地域の人たちが求める「地域貢献」というのは、ほとんどが労力を提供してほしいといった感じのものをイメージしています。例えば道路脇に草が繁茂しているけど草刈りをする人がいないので手伝ってほしいとか、そういったことです。だけど、僕はそういうあり方に違和感を覚えていたので、「仮にSansanのようなベンチャーの本業が神山のような地域で成立することを見せてくれたら、多分、寺田さんは日本の何かを変えることになると思う」という話をしたんです。

(写真:千葉 大輔)

 Sansan神山ラボ(神山町に設置したSansanのサテライトオフィス)の前で、寺田さんと僕はスタンフォード大学のあるパロアルトという街のことを話ました。ウィリアム・ヒューレットとデビッド・パッカードがヒューレット・パッカードを創業したガレージがあるパロアルトのアディソンロード367番地。そこには創業時のガレージが復元され「シリコンバレー発祥の地」というサインボードが立てられています。将来このオフィスから世界に向けた変化が生まれてきたら、もしかしたらこの場所に「神山バレーの発祥地」というサインボードが立てられるかもしれないと語り合ったことがあります。このときのことは寺田さんの頭の中にもすごく残っていたようで、いまだにその話が出てきたりもしますよ。

大南さんにとって、やはりシリコンバレーは大きな存在なのですね。最近はコロナ禍の影響で減っているかもしれませんが、大南さんがシリコンバレーを目指しているように、神山町を目指す人たちがたくさん視察に来たのではないかと思います。視察に来た人たちには、神山のどこを見てほしいですか。

大南 こういう言い方はあまり好きではないのですが…大まかに二つの捉え方をする人がいるような気がします。まず、神山のワーク・イン・レジデンスを始めとするいろいろなプロジェクトを「自分の町でもまねてやってみよう」という人たち。もう一方で、視察後に「自分たちがやっている方向は間違っていないことが分かりました」という言葉を残す人たちも、少数ですがいます。まねようとしている人たちも、それはそれで悪くはないんですが、多分、何かをつくり出すのは後者の人たちが多いんじゃないかと思います。

 いろいろな物事を起こしても、それに対するインパクトや変化というのは、現れてくるのに時間が掛かります。その結果、モチベーションの維持が困難になってしまいます。「やっぱりこんな事を続けていても何もならないのか」と、心が折れてしまう人が多いんですね。でも、そんな時に「いや、間違っていない」ということが確信できたなら、次のステップまで動いていけるじゃないですか。そういう人たちはうまく行くと思います。したがって、現在起きている現象ではなく、何がその現象を生み出したのかを深堀りしてほしいですね。