投資家には客観的で公平なデータを提示

SkyDriveは日本のベンチャーとしては巨額の累計51億円を資金調達しています。投資家にはどのような働きかけ、アプローチをしたのですか。

福澤 財務の健全性を説明した上で、事業の将来性やビジョンをプレゼンしました。

その際、特に気を付けたことがありますか。

福澤 投資家には、客観的で公平な情報をインプットするように心がけました。空飛ぶクルマはまったく新しい分野ですし、もともとこの分野に詳しい投資家はいません。そこに、資金調達で有利になるように楽観的で偏った情報だけを提示したら、投資家は後から「だまされた」「裏切られた」と感じるかもしれません。できるだけ、一般的で公平な情報を中心に提示して、理解してもらえるように努力しました。

(インタビュー中のオンライン画面より)
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資金の調達先である投資家には、投資ファンドだけでなく事業会社も含まれています。彼らはSkyDriveに何を期待しているのでしょうか。

福澤 投資ファンドの期待は、もちろん事業の成長によるリターンの獲得です。事業会社には、自社のビジネスとSkyDriveのビジネスをかけ合わせることで、新たなビジネスチャンスを得たいと考えているところが多いです。投資してくださる方々の期待に応えられるよう開発と事業開発を推進していきます。

移動についての格差や困難をなくしたい

いろいろと夢が膨らむ空飛ぶクルマですが、福澤さんご自身は空飛ぶクルマによってどのようなビジネスを展開したい、あるいは社会をつくりたいと考えていますか。

福澤 移動についての格差や困難をなくしたいですね。例えば、情報革命によって情報を取得する際の格差はほぼ解消されつつあります。数日遅れで新聞が届くような田舎であっても、ネット経由でほぼリアルタイムの情報を得ることができるようになっていますよね。ところが、遠距離移動の手段については、道路を自動車で走るか、鉄道を使うか、という二択しかありません。今はインフラに縛られているわけです。空飛ぶクルマが実用化すれば、道路や鉄道がない山間部であっても、離発着場さえあれば自由に遠距離移動できるようになります。固定電話のケーブル設備がない住宅やオフィスでも、近くに基地局さえあれば携帯電話が使えるのと同じイメージです。現在の“移動の格差”は、アスファルトありき、線路ありきだから起きるんです。

 それに、都会の道路でクルマを運転すると、信号などもありますから平均速度はせいぜい時速30kmです。空飛ぶクルマが実用化すればよりスムーズに移動できますから、今よりも行きたいところに行けるし、会いたい人にも会えるようになります。全自動化すれば、さらに便利になるでしょう。

過疎地などでの移動の地域間格差に悩む自治体からは、空飛ぶクルマを利用して何かやりたいという話が出てきそうです。

福澤 そうですね。スーパーシティ構想の中で、空飛ぶクルマで何かできないかといった話はいただいています。

物理的にあり得るものは、いつか必ず達成できる

(インタビュー中のオンライン画面より)
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企業でものづくりに取り組んでいる人たち、あるいはものづくりのベンチャーを起業して独立しようとしている人たちに向けて、何かメッセージやアドバイスをお願いします。

福澤 最初に「空飛ぶクルマをつくります」といったとき、周りからは「難しいでしょう」と何回も言われました。確かに難しいといえば難しいのですが、理屈から言えば、モーターを回転させて、そのモーターの先につながってプロペラを回して機体を空に浮かべるという物理的には普通の話です。物理的にあり得る話であれば、あとは収益モデルをきちんと構築して、技術開発を進めていけばいい。ドラえもんに登場する道具で言えば、タケコプターは物理的な裏付けがあるからいつか実現できるけれど、裏付けのないどこでもドアは実現できないという話です。

 努力の方向が見えていれば、マラソンと同じように必ずゴールがあります。いろんな人たちから応援をいただければ、必ず達成できます。そういう取り組みをみんながあちこちでやっていけば、世界はもっとよくなっていくと信じています。

インタビューを終えて

街中で頭の上を「空飛ぶクルマ」が行き交っていたら、みなさんはどう思うでしょうか。

そんなの怖くて無理だと思うのか、街中で空飛ぶクルマが飛ぶと何ができるのかと思うのか――。私は空飛ぶクルマが街中を飛ぶことができたら、今の救急活動が劇的に進化するのではないかと思います。とはいえ、空を飛んでいるクルマが故障して墜落したら、大事故につながりかねません。

国内の自動車事故の死亡者数は減少し続け、現在は年間で3000人を下回っています。一方で、例えば家の中、転倒やヒートショックなどによってお風呂場で亡くなる方が何人いるのか、みなさんご存じでしょうか。推計ではありますが、年間2万人を超えています。

にもかかわらず、自動車事故のリスクと比べて、お風呂場のリスクは広く注意が喚起されていないように思えます。そのリスクが正しく伝われば、お風呂場での死亡者数はもっと減らせるのではないでしょうか。

私自身を含め、知らないことがたくさんあるにもかかわらず、何となく今までの常識や先入観の枠の中で物事を判断しがちです。しかし、地球的規模で問題が山積みとなっている現在、正しい情報を取り入れた上で、新しい発想を柔軟に受け止めて吟味することが課題解決への第一歩となっていきます。

空飛ぶクルマについてはどうでしょうか。墜落事故の恐ろしさは容易に想像できます。しかし、そういった先入観にとらわれずに、空飛ぶクルマの可能性をあらゆる角度からみなさんと考えていければと切に願います。

福澤さんは、実現可能な夢として、「空飛ぶクルマがそのまま宇宙に行けたら」と語っています。新しい技術と技術が新結合(イノベーション)すると、その実現時期は福澤さんの予想すら上回り、ごく近い将来、本当に宇宙に飛び立つクルマが実現するかもしれません。

単独で宇宙に行けたなら、一体何ができるのだろう――。ワクワクが止まりません。

高橋博樹(たかはし・ひろき)
日経BP 総合研究所 戦略企画部長
高橋 博樹(たかはし ひろき) 日経BP入社後、インターネット草創期のビジネスモデルづくり、ICT、建設など幅広い分野を担当。2015年9月、日経BP総合研究所の発足と同時に戦略企画部長に就任、現職。「新・公民連携最前線」「Beyond Health」の2つのメディアを創案して立ち上げた(写真:栗原克己)