ジャンルを問わず、世の中に新しい価値を創出したDisruptive Innovator(ディスラプティブ・イノベーター:破壊的創造者)の生の声をお伝えするインタビューコラム「Disruptive Innovators Talks ~新たな価値の創造者たち~」。第13回は、2023年度を目標に「空飛ぶクルマ」の事業化を目指すSkyDrive代表取締役CEO、福澤知浩氏が登場します。

有志団体からスタートした空飛ぶクルマの開発は、多くの賛同と投資を集め、2020年8月には公開有人飛行にも成功。いよいよ現実味を帯びてきました。同社は、日本では数少ない“ものづくりスタートアップ”であることも注目を集めています。なぜ「空飛ぶクルマ」をつくるのか。これからどのように普及していくのか。福澤氏に話をお聞きしました。

SkyDrive代表取締役CEO の福澤知浩氏(インタビューはオンラインで実施した)<br><br><b>福澤知浩(ふくざわ・ともひろ)</b><br>東京大学工学部卒業。2010年4月にトヨタ自動車に入社し、自動車部品のグローバル調達に従事。同時に多くの現場でトヨタ生産方式を用いたカイゼンを行い、原価改善賞受賞。トヨタ在籍中の2014年に有志団体CARTIVATOR(現・一般社団法人 Dream-On Management)に参画し、共同代表に。 2017年に独立し、製造業の経営コンサルティング会社、福澤商店を設立。20社以上の経営改善を実施した。2018年にSkyDriveを創業、代表に就任。
SkyDrive代表取締役CEO の福澤知浩氏(インタビューはオンラインで実施した)

福澤知浩(ふくざわ・ともひろ)
東京大学工学部卒業。2010年4月にトヨタ自動車に入社し、自動車部品のグローバル調達に従事。同時に多くの現場でトヨタ生産方式を用いたカイゼンを行い、原価改善賞受賞。トヨタ在籍中の2014年に有志団体CARTIVATOR(現・一般社団法人 Dream-On Management)に参画し、共同代表に。 2017年に独立し、製造業の経営コンサルティング会社、福澤商店を設立。20社以上の経営改善を実施した。2018年にSkyDriveを創業、代表に就任。
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福澤さんが空飛ぶクルマの開発に取り組んだきっかけは何だったのですか。

福澤 もともとは、自動車・航空業界、スタートアップ関係の若手による有志団体CARTIVATOR(現・一般社団法人 Dream-On Management)の活動がきっかけですね。CARTIVATORの発足は2012年ですが、2014年ごろ「自分たちの手で、何かものづくりをやりたいね」ということで活動を本格化させることになって、いくつかアイデアを持ち寄った中から空飛ぶクルマに取り組むことになりました。その中で、みんなが一番ワクワクできる、自分たちでつくりたいと思えたのが、空飛ぶクルマだったんです。

 最初のうちは週末の土日だけ有志が集まって開発を続けていたのですが、あるとき「このままだと(目標の)2020年のデモフライトに間に合わない」ということで、開発のスピードを上げるため2018年にSkyDriveを設立しました。それに、空飛ぶクルマのようなエアモビリティを実用化するには、エンターテインメント的な新しさや楽しさだけでなく、具体的なビジネスモデルや社会的なインパクトも考えていかなければいけません。モビリティの新しい時代をつくるくらいの意気込みが必要だということで、開発の主体を会社組織に移行したわけです。

土日だけの開発だと、やはり時間的にかなりの制約があったでしょうね。

福澤 そうですね。今の(会社組織による開発の)スピード感に比べると、主観的には100分の1、1000分の1という進み方でした。

SkyDriveでは、2023年度中に空飛ぶクルマの事業を開始するという目標を立てていますが、ロードマップはどうなっていますか。

福澤 まず2023年までは機体を開発して、当局の認証を受けるための作業を進めていきます。認証については、実際の事業で利用する以上、欧州エアバスや米ボーイングなど大手航空機事業者の旅客機と同じ枠組みの認証を取得して、同等の安全性が担保されなければなりません。2023年度中にビジネスとしてローンチして以降も、そこからさらに機体の改善を続けていくことになります。

空飛ぶクルマのような短中距離用の有人小型航空機は、世界中で開発の機運が高まっています。その中でSkyDriveがどうやって勝ち残っていくのか、どうやってリードしていくのかを教えてください。

福澤 空飛ぶクルマの開発プロジェクトは、現時点で世界中に400ほどあります。しかし、実際に機体の安全性について当局の認証を受けるところまでたどり着けるプロジェクトは、10もないでしょう。ですから、まずは確実に認証を取得して事業を開始することが、勝ち残りの必要条件となります。そこから先は、日本ならではのものづくりの細やかさを生かして、顧客の要求に応えられるような快適さ、コンパクトさを追求していきます。

2020年8月に公開有人デモフライトを実施。写真の機体は「有人機 SD-03」。飛行時間は約4分間だった(写真:SkyDrive)
2020年8月に公開有人デモフライトを実施。写真の機体は「有人機 SD-03」。飛行時間は約4分間だった(写真:SkyDrive)
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空飛ぶクルマの実用化は、世界にどのようなインパクトをもたらすでしょうか。従来の旅客機やヘリコプターとすみ分けしながら、空のモビリティ(移動手段)のある一部を担うかたちになるのか。それとも、地上を走るクルマを含めて、モビリティ全体の在り方を大きく変えるものになるのでしょうか。

福澤 長期的には、すべての人たちが空飛ぶクルマ、すなわちエアモビリティを使って移動することが当たり前になると期待しています。ただし、「すべての人たち」がそうなるタイミングはもう少し先です。ひょっとしたら、30年後、50年後になるかもしれません。

事故の発生件数は、自動車より少なくなるはず

自動運転車の開発は加速し、高度なレベル4や5の実用化も近い将来急激に普及していきそうです。空飛ぶクルマも、我々の予測を超えるような短期間で実用化する可能性があるでしょうか。

福澤 自動運転の実用化について言えば、(私のような)自動車業界の人間から見ると、思ったより遅かったですね。自動車メーカー各社は自動運転の実用化に向けて、以前からかなりアグレッシブな目標を立てていました。その目標に比べると(自動運転機能を持つ市販車の登場は)やや遅いくらいでしたから。

(インタビュー中のオンライン画面より)
(インタビュー中のオンライン画面より)
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自動運転で実用化のネックになっていたのは技術面ですか、それとも法律などの制度面でしょうか。

福澤 結局、世の中の人たちの認識・感情を含めた社会情勢だと思います。多くの人たちが「これでいい」と思えればそれでいけますし、駄目ということになれば、より厳しい法律や規制をクリアする必要が出てきます。それは、自動運転のレベルによっても異なります。一定の条件下での自動運転であるレベル4ならば、現状でもある程度は受け入れられていると思います。しかし、条件なしですべての操作を自動化するレベル5は、まだ厳しいかもしれません。

 結局、「どこまでの安全性を求めるか」という世の中の合意形成によって話は変わってきます。人間が運転するクルマと同じ事故発生率を許容するのであれば、自動運転の普及は早いと思います。人が運転していても、同じように事故は起きるわけですから。しかし、「それは許されない、自動運転になったら事故は減るべきだ」という認識が一般的であれば技術開発は大変です。

空飛ぶクルマについても、最初のうちは「クルマが空を飛ぶのは、ちょっと怖いな」と感情的に反発されるかもしれませんね。

福澤 空飛ぶクルマについてのネットニュースのコメント欄を見ていると、全員がそうではありませんが、確かにそういう意見が書き込まれていますね。

空飛ぶクルマが普及していったとき、事故発生率は地上を走るクルマと比べてどのようになると予想していますか。

福澤 ものにぶつかるかどうかという観点でいくと、空にはものがありませんから飛行中の事故発生率はほぼゼロになります。ただ、地上を走るクルマは何かあったらその場に停車できますが、空飛ぶクルマが空中で停止すると落下してしまいます。その意味では安全確保の難易度は上がります。

 そもそも空飛ぶクルマの安全性はエアバスやボーイングの旅客機と同じカテゴリーの安全基準で評価されますし、地上を走るクルマにはクルマの安全基準があります。ですから単純な比較は難しいのですが、同じ機体/車体数当たりの事故の発生件数で比べると、空飛ぶクルマの方が少なくなるはずです。

空飛ぶクルマには、空を飛ぶだけでなく地上の道路を走ることができるタイプも存在します。その際の安全基準や操縦者の免許はどうなるのですか。

福澤 SkyDriveの空飛ぶクルマは、まず、空を飛ぶことを目標としていますから、当初は航空機カテゴリーの安全基準を満たすことを目指しています。道路を走るタイプの開発はその後になりますが、その際は、航空機とクルマの安全基準を両方満たす必要が出てくると思います。操縦者の免許については、恐らく現在のヘリコプターの免許がベースになると考えて、それを議論する官民の協議会にSkyDriveからもいろいろ提案しているところです。事故が発生したときの保険制度についても、大手損保会社と非公式に情報交換しています。

そうしたことをきちんと説明していけば、不安に思っている人たちにも理解してもらえそうですね。

福澤 理解はしてもらえると思います。しかし、心の底から納得してもらえるかどうかについては、まだ正直分かりません。

投資家には客観的で公平なデータを提示

SkyDriveは日本のベンチャーとしては巨額の累計51億円を資金調達しています。投資家にはどのような働きかけ、アプローチをしたのですか。

福澤 財務の健全性を説明した上で、事業の将来性やビジョンをプレゼンしました。

その際、特に気を付けたことがありますか。

福澤 投資家には、客観的で公平な情報をインプットするように心がけました。空飛ぶクルマはまったく新しい分野ですし、もともとこの分野に詳しい投資家はいません。そこに、資金調達で有利になるように楽観的で偏った情報だけを提示したら、投資家は後から「だまされた」「裏切られた」と感じるかもしれません。できるだけ、一般的で公平な情報を中心に提示して、理解してもらえるように努力しました。

(インタビュー中のオンライン画面より)
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資金の調達先である投資家には、投資ファンドだけでなく事業会社も含まれています。彼らはSkyDriveに何を期待しているのでしょうか。

福澤 投資ファンドの期待は、もちろん事業の成長によるリターンの獲得です。事業会社には、自社のビジネスとSkyDriveのビジネスをかけ合わせることで、新たなビジネスチャンスを得たいと考えているところが多いです。投資してくださる方々の期待に応えられるよう開発と事業開発を推進していきます。

移動についての格差や困難をなくしたい

いろいろと夢が膨らむ空飛ぶクルマですが、福澤さんご自身は空飛ぶクルマによってどのようなビジネスを展開したい、あるいは社会をつくりたいと考えていますか。

福澤 移動についての格差や困難をなくしたいですね。例えば、情報革命によって情報を取得する際の格差はほぼ解消されつつあります。数日遅れで新聞が届くような田舎であっても、ネット経由でほぼリアルタイムの情報を得ることができるようになっていますよね。ところが、遠距離移動の手段については、道路を自動車で走るか、鉄道を使うか、という二択しかありません。今はインフラに縛られているわけです。空飛ぶクルマが実用化すれば、道路や鉄道がない山間部であっても、離発着場さえあれば自由に遠距離移動できるようになります。固定電話のケーブル設備がない住宅やオフィスでも、近くに基地局さえあれば携帯電話が使えるのと同じイメージです。現在の“移動の格差”は、アスファルトありき、線路ありきだから起きるんです。

 それに、都会の道路でクルマを運転すると、信号などもありますから平均速度はせいぜい時速30kmです。空飛ぶクルマが実用化すればよりスムーズに移動できますから、今よりも行きたいところに行けるし、会いたい人にも会えるようになります。全自動化すれば、さらに便利になるでしょう。

過疎地などでの移動の地域間格差に悩む自治体からは、空飛ぶクルマを利用して何かやりたいという話が出てきそうです。

福澤 そうですね。スーパーシティ構想の中で、空飛ぶクルマで何かできないかといった話はいただいています。

物理的にあり得るものは、いつか必ず達成できる

(インタビュー中のオンライン画面より)
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(インタビュー中のオンライン画面より)
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(インタビュー中のオンライン画面より)

企業でものづくりに取り組んでいる人たち、あるいはものづくりのベンチャーを起業して独立しようとしている人たちに向けて、何かメッセージやアドバイスをお願いします。

福澤 最初に「空飛ぶクルマをつくります」といったとき、周りからは「難しいでしょう」と何回も言われました。確かに難しいといえば難しいのですが、理屈から言えば、モーターを回転させて、そのモーターの先につながってプロペラを回して機体を空に浮かべるという物理的には普通の話です。物理的にあり得る話であれば、あとは収益モデルをきちんと構築して、技術開発を進めていけばいい。ドラえもんに登場する道具で言えば、タケコプターは物理的な裏付けがあるからいつか実現できるけれど、裏付けのないどこでもドアは実現できないという話です。

 努力の方向が見えていれば、マラソンと同じように必ずゴールがあります。いろんな人たちから応援をいただければ、必ず達成できます。そういう取り組みをみんながあちこちでやっていけば、世界はもっとよくなっていくと信じています。

インタビューを終えて

街中で頭の上を「空飛ぶクルマ」が行き交っていたら、みなさんはどう思うでしょうか。

そんなの怖くて無理だと思うのか、街中で空飛ぶクルマが飛ぶと何ができるのかと思うのか――。私は空飛ぶクルマが街中を飛ぶことができたら、今の救急活動が劇的に進化するのではないかと思います。とはいえ、空を飛んでいるクルマが故障して墜落したら、大事故につながりかねません。

国内の自動車事故の死亡者数は減少し続け、現在は年間で3000人を下回っています。一方で、例えば家の中、転倒やヒートショックなどによってお風呂場で亡くなる方が何人いるのか、みなさんご存じでしょうか。推計ではありますが、年間2万人を超えています。

にもかかわらず、自動車事故のリスクと比べて、お風呂場のリスクは広く注意が喚起されていないように思えます。そのリスクが正しく伝われば、お風呂場での死亡者数はもっと減らせるのではないでしょうか。

私自身を含め、知らないことがたくさんあるにもかかわらず、何となく今までの常識や先入観の枠の中で物事を判断しがちです。しかし、地球的規模で問題が山積みとなっている現在、正しい情報を取り入れた上で、新しい発想を柔軟に受け止めて吟味することが課題解決への第一歩となっていきます。

空飛ぶクルマについてはどうでしょうか。墜落事故の恐ろしさは容易に想像できます。しかし、そういった先入観にとらわれずに、空飛ぶクルマの可能性をあらゆる角度からみなさんと考えていければと切に願います。

福澤さんは、実現可能な夢として、「空飛ぶクルマがそのまま宇宙に行けたら」と語っています。新しい技術と技術が新結合(イノベーション)すると、その実現時期は福澤さんの予想すら上回り、ごく近い将来、本当に宇宙に飛び立つクルマが実現するかもしれません。

単独で宇宙に行けたなら、一体何ができるのだろう――。ワクワクが止まりません。

高橋博樹(たかはし・ひろき)
日経BP 総合研究所 戦略企画部長
高橋 博樹(たかはし ひろき) 日経BP入社後、インターネット草創期のビジネスモデルづくり、ICT、建設など幅広い分野を担当。2015年9月、日経BP総合研究所の発足と同時に戦略企画部長に就任、現職。「新・公民連携最前線」「Beyond Health」の2つのメディアを創案して立ち上げた(写真:栗原克己)

特別付録 福澤知浩さんへの10の質問

1.行ってみたい場所
アフリカの大自然

2.影響を受けた本
『カルロス・ゴーン 国境、組織、すべての枠を超える生き方 [私の履歴書]』(日本経済新聞出版)です。ゴーンさんは26歳で工場長に抜擢されているんです。普通に考えたらあり得ないじゃないですか。無理だと思ったことを最初に実現する人がいると、一気に続く人が出ますよね。「偉大な人は、若い頃からヤバいな」と思いました。この本を読みながらゴーンさんと自分とを比べて、自分にも「もっと可能性があるのでは」「もっと頑張ろう」と思えるようになりました。

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3.尊敬する経営者
イーロン・マスク

4.会ってみたい人(故人・架空の人物も含む)
ピーター・ドラッカー

5.好きな動物
りす

6.好きな食べ物
すしと焼き肉です。

7.ほしいモノ
空飛ぶクルマ(宇宙まで行けちゃうやつ)。これは本気で考えています。先ほどの繰り返しになりますが、「物理的にあり得る話は、必ず達成できる」はずです。

 (イラスト:宮沢洋)
(イラスト:宮沢洋)
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8.生まれ変わったらなりたいもの
かわいい女の子です。新しい何かになりたい。これまでの人生でまったく経験したことのない経験をしてみたいなと思ってます。

9.リラックス/気分転換する方法
寝る。

10.最近ハマっていること
皇居ラン

(タイトル部のImage:出所はSkyDrive)

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