事業のポイントは作品のデータベース化

それから2年後にヘラルボニーを創業しました。

崇弥 例えば、重度の知的障害のある人たちが素晴らしい作品を描いたとして、個展を定期的に開いて、自力で作品を売って利益を上げるというのはかなり難易度が高いですよね。それに、障害のある作家にとって、締め切りや納期があるというのもとても大変です。

 そこで、素晴らしい作品を高解像度の画像としてデータベース化して、その著作権をこちらでお預かりして、それをいろいろな企業に渡していくことによってライセンスフィーが作家に入ってくるというモデルができたらと考えました。これなら重度の知的障害のある人たちが、納期に縛られなくてもお金が入り続けていくというビジネスモデルは成り立つんじゃないか。これは、私が広告ビジネスをやってきた中で、例えば何かキャラクターのデータを貸し出すだけで経済効果が生まれていくということを肌で感じていたので出てきた発想だと思います。

データベース化というビジネスモデルが見えてきて、起業を決断したわけですね。

崇弥 27歳のときに、広告の仕事を辞めて起業しようと思って。文登には「俺、今日辞めることにしたから、おまえも辞めろ」って電話しました。最初は「俺は結婚するから無理だ」って言われましたが(笑)

文登 その後、結局辞めましたけど(笑)

崇弥 なので、私が社長で文登が副社長なのは、一応、私が発起人だからというだけの理由なんです。

このデータベースが今の事業*1の根幹になっていますね。

崇弥 データが一番の主力ビジネスに育っています。データがあるので、ジャケットの裏地にしたり、Tシャツにしたり、バッグにしたりできます。建設現場の仮囲いを美術館にしていくという「全日本仮囲いアートミュージアム」事業*2をゼネコン出身の文登が立ち上げたんですが、データを持っていれば、大きく引き伸ばして印刷をかけることができるわけです。

文登 街の仮囲いのような、日常の風景が作品のタッチポイントに変わっていけたら、障害のある方に対するイメージがグラデーション的に変わっていく。僕らは「作品が作品として単純に美しいよね」という世界をまず広げていきたいので、その入り口の1つとして仮囲いが機能していけばいいなと思っています。

ジャケットの裏地にアート作品が(写真:鈴木 愛子)
ジャケットの裏地にアート作品が(写真:鈴木 愛子)
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注)
*1 ヘラルボニーの主な事業としては、データベースを活用したアートのライセンス事業、ネクタイ、ハンカチなどのオリジナル・ブランド「HERALBONY」の商品を企画・販売するプロダクト事業、そしてアート作品を売るアートの原画・複製画事業がある。

*2 仮囲いアートミュージアムの例。JR高輪ゲートウェイ駅で2020年7月14日より約2カ月間、駅前の仮囲いスペースに作品を展示した(写真:ヘラルボニー)
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他にもいろいろなところに採用されていますね。

文登 企画が前提にあって、そこに作品データを使っていくという形です。例えば駅舎や電車の車両、ジンのパッケージ、サバ缶*3、車いす、ユニホームなど、いろいろなところに採用されています。

 最近だと、盛岡市の再開発事業でバスセンターの跡地がホテルになるんですが(2022年秋頃完成予定)、そのホテル*4にヘラルボニーがプロデュースという形で参画しています。ここでは障害のある作家によるアートをあしらった部屋に宿泊客が泊まるごとに、作家にお金が流れていく仕組みを構築します。

崇弥 そのほか、丸井グループのクレジットカード(エポスカード)にアートをあしらったプロジェクトもスタートしました*5。利用者がカードを使うたびに利用額の0.1%が福祉関連の寄付に回るようになっています。カードを使うごとに障害のある人や団体の活動を応援できるという座組みです。


注)
*3 2013年に東日本大震災からの復興を目指し岩手から誕生した「Ça va(サヴァ)?缶」のパッケージにアートをあしらい非常食にインテリア雑貨機能を付与。2021年度のグッドデザイン賞を受賞した
(写真:ヘラルボニー)
(写真:ヘラルボニー)
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*4 ホテルの客室イメージ。インテリアや寝具などにアーティストの作品を取り入れる
(写真:ヘラルボニー)
(写真:ヘラルボニー)
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*5 佐々木早苗「(無題)」とFumie Shimaoka「宇宙」に彩られたエポスカード(資料:ヘラルボニー)
(写真:ヘラルボニー)
(写真:ヘラルボニー)
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