投資家も評価する競合が出てきにくい事業構造

この事業には「競合がない」と発言されていましたが、今もまだ出てきませんか。

崇弥 社会福祉法人で、自分たちの運営している施設にいる作家の作品を商品化していくような例はたくさんあると思います。ただ、いくつもの団体を取りまとめて、2000点を超える作品をデータベース化して運用しているところは、今のところ他には見かけないですね。

 企業の社会貢献活動として「障害のある人たちのアートを活用していきましょう」という動きは、さらにこれからも増えていくと思います。ただ、デザインの文脈とか、アートの文脈でしっかりビジネスに乗せていくような活動は、かなりハードルが高いと思います。例えば、いきなり大企業が福祉施設に行って「アートを預かって著作権を運用します」と説明しても、「儲けたいだけだろう?」と否定的に捉えられてしまうことも多いでしょう。炎上リスクなどもあります。それと、契約・作品使用時のコミュニケーションはとても丁寧に取っているので、そのコストも見ていくと参入はなかなか難しいんじゃないかと思います。この点は投資家の方たちからも高く評価していただいている部分です。

文登 コミュニケーションはとても重視しています。契約は福祉団体(または個人)と結びますが、一人ひとりの作家の方とそれぞれ向き合って、その作品を社会に出していくということについては、すごく大切にしています。

データベースのビジネスが動き出して、4月にHERALBONY GALLERYをオープンしました。作品そのものを展示して販売していく場所をいよいよつくったわけですね。

文登 ここでは、1つの企画展で1人のアーティストをピックアップしていきます。「障害者アート」と言った途端に、「アール・ブリュット」といった文脈に乗せられてしまいがちですよね。ここではそうではなく、障害者ではなく1人の作家として、その人の生き方やこだわりも伝えていきます。ここでは価格も含めて、自分たち主導でアート作品が回っていくような立ち位置を目指したいと思っています。

HERALBONY GALLERYの様子。取材時は高田祐展が開催されていた(写真:鈴木 愛子)
HERALBONY GALLERYの様子。取材時は高田祐展が開催されていた(写真:鈴木 愛子)
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岩手に本社を置いたから、地元の人が応援してくれる

ヘラルボニーは創業時は花巻、今は盛岡に本社を置いています。地元・岩手に本社を置く意味やこだわり、あるいは何か実際に得られている効果はありますか。

文登 非常に応援をしてもらえている、という要素は強いのかなと思っています。

 岩手県という時点でスタートアップがまず珍しいうえに、ヘラルボニーのような企業体はほぼ存在しません。地元唯一の百貨店である盛岡の「川徳」にも、今年のキービジュアルにヘラルボニーの契約アーティストの作品を採用していただきました。お店では全員がヘラルボニーの提供ビジュアルをあしらったバッジを着けて接客をしてくれています。

川徳の店舗に掲げられたフラッグ。ヘラルボニーが契約する小林覚氏の作品が採用された(写真:鈴木 愛子)
川徳の店舗に掲げられたフラッグ。ヘラルボニーが契約する小林覚氏の作品が採用された(写真:鈴木 愛子)
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そうなると地元での知名度は高くなっていきますよね。

文登 そうですね。この前も、ヘラルボニーのマスクを着けてコンビニに入ったら、「ヘラルボニーのマスクね」って話し掛けてもらえたり──。

そういった展開を狙って岩手に?

崇弥 狙ったわけではありませんでした。文登が岩手に住んでいて、私は東京に住んでいたのですが、本社登記はどちらがいいだろうねという話になったときに、「岩手のほうが格好いいよね」みたいな話になって。あと、最初に契約を結んだ福祉施設が岩手の施設だったということもあって、岩手に登記しました。

 私も昨日、突然おばあさんに話し掛けられて、このおばあさんがヘラルボニーのマスクを着けてくれていて。それからカフェにまた行ったら、そこでも「ヘラルボニーさんですか」って話し掛けられて──。これって東京で起業していたらあり得ない光景ですよね。やっぱり局地的な熱量をどれだけつくれるかという意味では、地方でまず本当に熱狂をつくってから東京に持ってくるというやり方もあるだろうなと思います。

へラルボニーのマスクをしていると街なかで話しかけられることも(写真:鈴木 愛子)
へラルボニーのマスクをしていると街なかで話しかけられることも(写真:鈴木 愛子)
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東京で起業しなくて良かったですね(笑)

崇弥 確かに、こんなに応援してもらえるような雰囲気にはならなかったと思います。ただ、融資制度などスタートアップ支援の仕組みは東京のほうがたくさんありましたね。