日本企業がイスラエルのヘルスケアデータを活用するには

 以上を踏まえ、日本企業がイスラエルのヘルスケアデータを活用したい場合は、実際、どのようなアクションを取り得るのか。アプローチは大きく分けて二つある。

(1) 既にイスラエルのヘルスケアデータを活用しているイスラエルのデジタルヘルスケアスタートアップと提携する

(2) 直接、HMO(の中でも特にシェアが大きいClalitかMaccabi)、あるいは政府系病院にコンタクトし、研究開発を目的としたデータ活用の協定を結ぶ

 上記の中でどちらを選ぶかは何を目的とするかによるが、一般的にはいわゆるオープンイノベーションの形である (1)が多いと思う。イスラエルには既に370を越えるグローバル企業の拠点があるとされており、これらの拠点の主なミッションは現地イスラエルスタートアップの探索となっている。

 日本企業は、多くの場合、研究開発行為をイスラエル現地ではなく、日本側で行うことがほとんどなので(2)のアプローチは取りづらいかもしれない。研究開発目的のためとはいえ、イスラエルのヘルスケアデータをイスラエルの国外に持ち出すのは許容されないためである。その一方で、先ほど述べた370を超えるグローバル企業の拠点の中にはスタートアップ探索に加えてR&Dチームをイスラエル国内に持ち、イスラエルのヘルスケアデータを活用したPoC(Proof of Concept/概念実証)をイスラエル国内で行っているグローバル企業も複数存在している。これらの企業はイスラエル国内でPoCを行う理由として、データセットとして質が高いデジタルヘルスデータがあることはもとより、データ解析に強い優秀な現地人材を活用できることもメリットとして挙げていた。

 筆者が勤めるDeloitte Israelではグローバル企業のニーズに合わせて上記二つのアプローチを含め、総合的な支援を行ってきた。特に最初の一歩を踏み出すのにハードルが高い日本企業には、日本とイスラエルをつなぐエージェントして柔軟な対応をさせていただいている。ちなみに、Deloitte Israel内にはイスラエルのヘルスケアデータを分析するチームもおり、政府系病院などに対して収益性改善や安全性向上をテーマとした支援プロジェクトを数多く提供している。

政府によるDigital Health Strategy策定でさらなる進化へ

 2001年から先行してデジタル化を進めてきたイスラエルだが、2016年に政府はヘルスケアシステムの刷新、および、イスラエルがデジタルヘルスケア改革のリーダーとなることを目指すDigital Health Strategyを発表し、2018年には約USD260Mの予算が承認された。5年間で実施予定のプロジェクトは省庁を横断する形で全25項目にわたる。

 中でも、大きな予算が当てられている項目はPsefas Initiativeと呼ばれる遺伝子データ解析を目的としたインフラ整備である。これは上述の整理でいうと、治療ではなく研究開発を目的としたものに当たる。政府はデータを所有しているHMOに任意でのデータ提供を依頼している。だが、HMOとしては、提出を求められているデータの種類が遺伝子データという取り扱いが繊細なものである上に、蓄積してきたデータを政府に提供するインセンティブが弱いこともあり、データの提供に消極的で、Psefas Initiativeへのデータ集約は現状ではまだ不十分のようだ。

 イスラエル政府はDigital Health Strategyを弾みとして、イスラエル全体のヘルスケアデータを集約・管理し、さらに次のステージへ進化させようとしている。それに伴い、スタートアップやグローバル企業として取り得るヘルスケアデータ活用のアプローチは日を追うごとに変わってくるだろう。ただ、現時点においてはあくまでデータを保有しているのは各HMOや病院であり、ヘルスケアデータの利用を希望する企業の目的に応じて組むべき機関を選ぶという形はしばらく続きそうに思われる。

 現時点では日本企業によるイスラエルのデジタルヘルススタートアップとの提携事例はまだ多くはないと書いたが、イスラエルのヘルスケアに関心を持つ日本企業は日を追うごとに増えている。長寿国日本とはヘルスケア領域における補完関係が期待できることもあり、イスラエル政府としても日本企業とのパートナーシップに大きな期待を寄せている(別掲記事参照)。

 連載2回目となる次回は、日本企業によるイスラエルのデジタルヘルススタートアップとの提携事例について、インタビューを交えながらご紹介する。


日本は最も重要なビジネスパートナーの一つ

イスラエル経済産業省 イスラエル投資促進局 ライフサイエンス部 部長 アヴィアッド・タミール氏

 イスラエル政府による「National Digital Health initiative(2018年3月)」、日本-イスラエル両政府による「デジタルヘルス分野における協力覚書(2019年1月)」などを受けて、日本企業によるイスラエルのデジタルヘルス分野における協業や投資への関心が増えつつあることを嬉しく思います。イスラエルへの理解の高まりとともに、日系企業がイスラエルをデジタルヘルス分野におけるグローバルリーダーの一つだと捉えていただける機会が増えているように実感しております。

 イスラエルのデジタルヘルスにおける強みとしてヘルスケアデータは重要な1要素ではありますが、イスラエルはただ単にデータを販売する相手を探しているのではなく、そのデータを活用して共にビジネスを創っていくビジネスパートナーを求めています。イスラエルは日本を最も重要なビジネスパートナーの一つと考えており、日本にとどまらずアジアへのゲートウェイとして、そして、ヘルスケアセクターだけでなくあらゆるセクターで協業させていただけることを期待しております。

 日系企業がイスラエルのデジタルヘルスと協業を行える余地は多く存在しています。イスラエル政府は、イスラエルのデジタルヘルスに関心をお持ちの日本企業をエスコートし、協業や投資機会をご紹介します。また、イスラエルにはグローバル企業に活用いただける助成プログラムが数多くあり、我々は日系企業が迷路に迷わないようその道案内として適切な政府支援策のご提案を行います。

(タイトル部のImage:筆者が撮影)