ロチェスター市の3人に1人がメイヨークリニックに勤務

 過去、私は日本の医療関係者数人から「米国の医療はお金儲け中心だ」「米国の医療は医療ではない」という言葉を聞き、忸怩たる思いをしたことがある(いずれそのような意見には今後の連載の中で反論を述べたい)。そのような米国の医療に対して拒否反応が強い彼らでさえ否定できないだけの高い志の歴史、そして圧倒的な実績と経験がメイヨークリニックにはある。

 メイヨークリニックの従業員数は6万5214人であり、内3万5000人は本拠地のロチェスターで勤務している。ロチェスター市の人口は10万人ほどなので、3人に1人がメイヨークリニックで働いていることになる(医療機関による究極の地方経済振興の事例であろう)。医師の数は4878人。看護師や技師、事務系職員は6万336人。2019年には、世界138国から年間120万人の患者が来院し、うち入院患者は12万9000人。メイヨークリニックは非営利の病院であるが、収入は日本円では1兆円以上の138億ドルで、利益は10億ドル。このような規模と実績がある医療機関は、日本には存在しない。

 冒頭のボブ・スモルトからの電話に戻ろう。GHCの顧問であるボブとメイヨークリニックの元総括院長のデニスとは、日米の医療の比較研究を行い共同著作物もある。ボブは日本の多くの有名病院を訪問したこともある。その上でボブとデニスはこう指摘する。

 「日本にもメイヨークリニックのような病院? メイヨーを例として出していただいて光栄だが、首相は本気なのか…?」

 彼らは日本の医療と病院のことを理解した上で、安倍首相の発言に驚いたのである。

 筆者は、スタンフォード大学の医療経済学者として、また米国および日本を代表する2つの医療コンサルティング会社の幹部として長年、日米のがん医療を俯瞰してきた。一方、近年は自らもがん患者(大腸がんステージIIIb)になり、日本で手術を、米国で化学療法を受け、その経験をもとに『日米がん格差』(講談社 2017年)を上梓した。

 このコラムでは、このような立場から日本の医療を「産業」として論じたいと思う。医療供給側(病院)だけではなく、健康保険組合のような支払い側、実際の消費者である患者、そして国民皆保険と診療報酬を軸とした日本の医療制度に関しても、アウトサイダーとして、日本の常識に縛られず、忌憚なく、建設的な意見を述べていきたい。

Dr.デニス・コーティス氏、ボブ・スモルト氏とともに。左端から著者とDr.コーティス氏、右端からGHCジャパン渡辺幸子社長とスモルト氏(写真:GHC)

(タイトル部のImage:sublime / PIXTA)