メイヨーにもいた巨艦巨砲主義者

 前回お話ししたDRGの導入など医療制度的な変移がどのような影響を及ぼすかに関しては、筆者の恩師の一人でもあるスタンフォード大学の医療経済学者のアラン・エントーベンなどをロチェスターに招集し、同様な考察を行った。米国の医療保険システムの一つである「HMO(Health maintenance organization:健康維持機構)」の先駆けであるカイザーパーマネンテの理論的支柱であり、90年代にカリフォルニアで広まったマネージドケアを提唱したエントーベンは、DRGの後に、更なる医療制度の変移と、それに伴う病院を取り巻く環境の変化を予測し、それもシミュレーションに加えた。

 少し話は外れるが、その歯に衣を着せぬ物言いからエントーベンは当時大統領夫人として医療改革論争で脚光を浴びていたヒラリー・クリントンなどの政治家や官僚から見事なまでに疎んじられ、遠ざけられた。エントーベンが提唱したキャピテーション(前払い定額払い)とマネージドケアはその後、オバマケアの原型にもなったが、その影響は過小評価(あるいは無視)されている。

 筆者は、数年前、(まさにジェダイマスターを囲む弟子たちのように)彼の門弟が彼の下に集まった席で「オバマケアこそエントーベン教授のマネージドケア理論の賜物であり、今こそエントーベン教授は勝利宣言すべきだ」と述べたが、エントーベン教授は門弟たちに対して寂しい笑顔を浮かべただけであった。ベトナム戦争時は国防省でマクナマラ長官のウィズキッズ(whiz kids)と呼ばれ、その後、専門分野を医療へと転換し、新たな医療のフレームワークを提唱し、誰にもおもねらなかったエントーベンこそが真の改革者であり、筆者のロールモデルである。

 話を元に戻そう。そしてメイヨーでは、時として議論しているのか、単に怒鳴り合っているのか分からないような侃々諤々の論争が始まった。ベッドはいくつあれば足りるのか、その維持にはどのくらいのコストがかかるのか──などいくつものシナリオでシミュレーション分析したのである。当時メイヨーには2000床のベッドがあったが、もっとベッドを増やし3000床にすべきという意見もあった。メイヨーでも多くの「ベッドは成功のバロメーターである」という巨艦巨砲主義者がいたのである。

 しかし、疾病・手術ごとに細かく仮説を構築し、データを冷静に分析していくと、技術の進歩と医療制度の変移によって入院日数はどんどん短くなる、また治療の場が入院から外来、そして在宅へとシフトしていくだろうということが議論された。そして複数の具体的なシナリオを作って比較・分析した結果、病床は半分以下で十分、900床くらいがちょうどいいという結果が出た。現病床数を半減! これには皆驚いた。