本連載ではこれまで、日本のオンライン診療は患者が安心して受診できる「かかりつけ医」との間で利活用が進むこと、そしてオンライン診療と親和性のある高血圧症などの慢性疾患患者が多く、スマートフォンなど通信デバイスに馴染みのある50代がその利活用を牽引する可能性を述べた。最終回では、デジタル技術を活用したヘルスケアソリューションの広がりを踏まえ、医療のオンライン化・デジタル化の普及に必要な患者とのコミュニケーションのあり方を考える。

治療用アプリが広がる可能性

 オンライン診療やオンライン服薬指導が広がると、通信デバイスを介して医療を受けることが一般化していく。すると、スマートフォンアプリを活用して治療を行う、デジタルセラピューティクス(Digital Therapeutics、略称:DTx)も、選択肢として広がる可能性がある。

 DTxは、臨床試験を行い、医薬品と同等もしくはそれ以上の効果があることがデータで証明されている治療用アプリのことをいう。日々のバイタルデータを管理する健康増進アプリや、服薬を管理し適正治療を促す服薬管理アプリは含まれない。米国では、DTxが治療で活用されており、その代表が2型糖尿病患者向けの治療補助アプリ「BlueStar」(Welldoc社)*1であろう。2010年にクラスⅡ医療機器に承認され、医療保険にも適用されている。

 日本では、DTx国内第一号として、CureAppの禁煙治療補助アプリ*2が、2020年6月に薬事承認を受けた。同年11月11日の中央社会保険医療協議会総会で、保険適用が了承され、12月1日発売開始となった。CureApp設立から約6年、医薬品を対象に設計されている薬価制度の枠組みで、次世代のデジタル治療の評価を得るには、様々な障壁があったと想像する。

確実に進歩したデジタル技術による治療

 ヘルスケアデジタルソリューションの変遷を見ると、はじまりは2000年頃になる。2002年に健康増進法が公布され、2008年には疾病発症リスクが高まる生活習慣病予防を目的に特定健診・特定保健指導が始まった。この頃から、スマートフォンが加速的に普及し、個人の体重や運動量を測定した健康管理アプリが出始めた。

 2010年頃には、医療費適正化を背景に、保険者がリスクの高い被保険者の健康維持のため、特定保健指導や重症化予防ソリューションの導入が進んだ。2015年頃から医療ビックデータの利活用が進み、データ分析に基づく治療効果の検証や費用対効果の考え方が広がっていった。オンライン診療と同じように、約20年をかけて日本でもデジタル技術による治療が実用化された。

ヘルスケア領域のデジタルソリューションの変遷(出所:野村総合研究所)

 新型コロナウイルス感染予防として、オンライン診療の利活用が進み、いつも手元にあるスマートフォンと医療が繋がった。これにより、デジタル治療アプリやウエアラブルデバイスを活用したDTxも患者に浸透しやすい環境になった。2030年の医療では、予約、問診、診察、服薬指導までオンラインで一気通貫の医療が提供され、治療においても実績を蓄積したDTxで、アウトカムの最大化とコストの最適化が追求された医療が提供されるだろう。

薬局・薬剤師に求められる「かかりつけ」

 一方で、患者の多数は高齢者で、スマートフォンなどの通信機器に慣れない方も多い。デジタルデバイドを発生させないために、対面でのコミュニケーションで、使い方などをサポートすることも必要となろう。その役割を期待するのは、地域住民の生活圏に拠点を構える薬局・薬剤師である。NRIが9月に実施したアンケート*3では、オンライン診療を受けた患者282人のうち約67%は薬局に行き対面で服薬指導を受けていた。オンライン服薬指導を経験した人の割合は、患者全体のわずか0.4%であった。

 患者が薬局に行く理由は、急性疾患の場合はすぐに薬が必要だからであることだろう。慢性疾患の場合は、送料を払うなら外出のついでに取りに行くと考える患者が多いと見る。この結果を踏まえると、薬局は、地域医療にとってリアルで患者接点を持ちやすい地域医療拠点で、患者にとっても身近な場所になっているといえる。

 オンライン診療やDTxだけでなく、デジタルヘルス集中改革プランのもと、健康保険証としてのマイナンバーカードの利活用や、マイナポータルを介した保健医療情報の閲覧、電子処方箋の運用など、データやICTを活用した医療政策が推進されている。国民全員が、デジタル技術のメリットを享受するためには、患者との丁寧なコミュニケーションが必要だと考える。

 薬局・薬剤師にも、患者の健康や治療を良く知る「かかりつけ」機能が求められており、調剤という“モノ”を扱う業務から、“ヒト”(患者)とのコミュニケーションを重視する対面業務の強化が謳われている。2020年9月1日の改正薬機法により、服薬フォローも義務化された。2030年には、薬局が地域医療の窓口となり、オムニチャネルで患者接点を構築し、対面と非対面、アナログとデジタル、双方の利点を活かしたベストミックスで、次世代医療提供体制が構築されていることを期待する。


*1 2019年にアステラス製薬が日本・アジアでの戦略提携を締結し開発を進めている。

*2 正式名称は「ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」。

*3 実施期間は、2020年9月4日から9月6日と9月17日の計4日間。緊急事態宣言が4月7日に発令された7都府県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県)に住み、継続的に医療機関に通院している20~60代の男女を対象に実施。

(タイトル部のImage:Getty Images)