第二の我が家「マギーズセンター」との出会い

 マギーズセンターは、造園家であるマギー・ジェンクス氏が、自身のがん体験から「治療中でも、患者ではなく一人の人間でいられる場所と、友人のような道案内がほしい」と願ったのがきっかけとなって設立された施設だ。さっそく英国に見学に行った秋山氏らが目にしたのは、木材がふんだんに使われ、小さなキッチンと、カラフルなクッションが置かれたソファ、そして大きなテーブルがある暖かい空間だった。センターには常に医療的知識のある看護師や心理士などがいて、ゆっくりと話ができる。テーブルやソファでくつろぎ、庭を眺めながらお茶を飲んだり本を読んだりして過ごすこともできる。秋山氏は、「中で行われている相談支援の有り様だけでなく、建物もとても素敵で、環境に力を入れていることを感じた」と言う。

 マギーズセンター第1号であるマギーズ エジンバラは、広い病院の敷地内にあった売店を改修・増築して1996年に作られた。マギーズセンターは現在、英国だけでなく、香港やスペインなど20カ所以上に設立されている。外観はそれぞれバラエティに富んでいるが、内観はどこもマギーズセンターの建築要件に沿っており、ある程度雰囲気が統一されている。例えば、自然光が入って明るいこと。仕切れる小部屋を作り、未使用のときは引き戸を開け放っておけること。キッチンには、12人が座れる大きなテーブルを置くこと、1人で泣ける広めのトイレがあることといった要件が続く。

マギーズ東京にある、引き戸で仕切れる小部屋
マギーズ東京にある、引き戸で仕切れる小部屋
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 要件の1つに、建物の広さは280m2程度というものがある。これは、英国の一般家庭宅のサイズがおよそ280m2と言われているためだ。病院と自宅の中間にある第二の我が家であり、第三の居場所。そんな環境に、秋山氏は強く惹かれた。さらに「目指しているのは、患者が情報を教えてもらうのではなく、情報提供された本人が選択し、自分で決断するサポートをする場所」という点に強く共感した秋山氏は、「マギーズセンターが日本にもあれば」と思うようになった。広大な土地や建築のための資金が必要になるマギーズセンターをすぐに作ることは難しい。しかし秋山氏は、「日本にマギーズセンターを作りたい」と周囲に話し続けた。

マギーズ東京準備室としても機能した「暮らしの保健室」

 他方、東京都新宿区で訪問看護を行っていた秋山氏は、区民向けにシンポジウム「この町新宿で健やかに暮らし、安らかに逝くために」を毎年企画し、運営していた。あるとき、シンポジウムの参加者から、「訪問看護や訪問介護など、在宅ケアを担う人に、うちの店舗を使ってもらい、社会貢献してほしい」という申し出があった。その参加者は、元々都営戸山ハイツ(東京都新宿区)で書店を経営していたが、店をたたんだ後は場所をガラス店の倉庫として貸していたオーナーだった。秋山氏は、「どのような用途で使用してもいい」と言うオーナーから、格安で店舗を貸りることができた。

 その場所で、訪問看護ステーションの傍ら立ち上げたのが、医療や介護、暮らしに関する相談を予約なし・無料で受ける「暮らしの保健室」だ。マギーズセンターの存在を知った2008年の3年後、地域の人が気軽に相談に寄れるような場所を、2011年7月にオープンした。この場所はマギーズセンターを名乗ることはできないものの、「コンセプトはマギーズセンターと同じ」と秋山氏は言う。内装に木材を多めに使ったり、キッチンを作ったりして、英国マギーズセンターの人が見学に来た際に「マギーズライク」と評するほどには、マギーズの雰囲気が反映されている。

 この暮らしの保健室は現在、全国に50カ所ほど立ち上がっている。秋山氏は、「地域性がいろいろあって、高齢者が多いところ、子どもが多いところなど、地域によっていろんなスタイルの暮らしの保健室ができている」と話す。

木材がふんだんに使われたマギーズ東京の内観
木材がふんだんに使われたマギーズ東京の内観
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 暮らしの保健室は、がんに限らない医療・介護のよろず相談所として機能しながら、仲間を集めたり、秋山氏の考えを発信したりと、日本にマギーズセンターを作るための準備室のような役割も果たした。ここで2014年に出会ったのが、当時は日本テレビ記者・キャスターで、現在は秋山氏とともに認定NPO法人マギーズ東京共同代表理事を務める鈴木美穂氏だった。

 24歳で乳がんが見つかった鈴木氏は、「未来が見えなかった闘病中のつらさを何とかしたい」と、主に若い世代のがん患者向けに情報発信をしていた。ある国際会議でマギーズセンターの存在を知った鈴木氏は、日本でマギーズセンターについて発信している秋山氏にたどり着き、記者として取材に訪れた。ここで意気投合した2人は、マギーズセンターを日本に作るプロジェクトが本格的に開始。クラウドファンディングなどで寄付や補助金を募って建築費を集め、マギーズセンター本部から建築などについて許諾を得て、センター長の指名や英国本部での研修を受けるといった手続きをへて、ついに2016年10月、マギーズ東京がオープンした。