スタッフが学ぶ「本人の話をよく聞く」とはどういうことか

 このように会話を整理したり、情報を一緒に探したりするなど話の聞き手となるマギーズ東京のスタッフは、常勤5人のうち、4人が看護師、1人が心理士だ。他にも、非常勤として保健師や看護師、心理士、栄養士がいる。いずれのスタッフも病院での勤務経験が長い。秋山氏は、「病院勤務時代は、患者本人の人生について聞きたいと思っていても、時間がないことから、ある程度気持ちにフタをしながら業務に当たっていたと思う」と話す。これは病院が悪いのではなく、必要な治療を滞りなくたくさんの人に提供するために、ある程度業務分担をする必要があるということだ。

 そこで、これまであまり「本人の話をよく聞く」コミュニケーションの時間を取れなかったスタッフに対し、まずマギーズ東京では「本人が自分で考え、自分で決断していくためのサポート」を実践するための研修を行う。スタッフとして活動するようになった後も、1日の終わりには、スタッフ同士で振り返る時間を持っている。その他、月1回のスタッフ勉強会では、医学的な新しい知識を学んだり、医療以外で社会制度や福祉などの分野の人の話を聞く機会も持つようにしたりしているという。ボランティアで関わってくれる社会保険労務士や公認会計士などもおり、必要なときには意見を聞けるようになっている。

 また、マギーズ流のサポートに興味を持ち「自分の地域にもマギーズセンターのような場を作りたい」といった人たちに向けた、マギーズ流サポート研修は、年2回(現在は年1回)、事前見学研修と事後研修を含め4日間のプログラムで実施している。現在までに約200人が修了。病院横の看護師寮を改築した幸ハウス(静岡県富士市)や、病院新築時にフロア全体をマギーズのような空間にした相良病院(鹿児島市松原町)など、マギーズのコンセプトを反映しながら、予約なしで無料相談に訪れられるところが各地にでき始めている。

疾患にまつわる悩みや不安に対処し社会的損失を減らしたい

 マギーズセンターや暮らしの保健室といった活動が各地に広がりを見せる今、秋山氏は今後の展望をどのようにとらえているのだろうか。「がんは慢性疾患になりつつあるにもかかわらず、まだまだがんって怖い、死に直結するというイメージがある。100年後にがんという疾患が残っているかは分からないが、今のような不安や悩みは、今後もつきまとうだろうと思う。医療機関では『疾患』に着目するが、生活丸ごと、何を話しても大丈夫という場所が必要だ」(秋山氏)。

 がんかもしれない不安、実際にがんを告知されたときのショック、気持ちを奮い立たせて一気呵成に治療する気力、治療の副作用、自分の選択は正しかったのかという悩み。がんは、たとえ一時的にであっても生活への影響がとても大きい疾患だ。不安や悩みに早めに対処できる場があることで、結果として本人たちが人生設計を立てやすくなったり、家族や職場の人間関係が良くなって社会的なインパクトが生まれたりする。「大きなショックや不安の中にあっても、その人が生きる力を取り戻すことができれば、社会的な損失を減らせる」と言う秋山氏は、がんや病とともに生きていける社会を目指す。

(タイトル部のImage:Getty Images)