東京地下鉄副都心線の北参道駅から徒歩5分のところにあるLORANS.(ローランズ)原宿店。一見、カフェが併設された生花店にしか見えない同店だが、運営元のLORANS.(以下、ローランズ)は従業員の7割以上が障害者雇用枠での採用で、原宿店も就労継続支援A型の店舗となっている。

同社は立ち上げ当初、一般的な生花店を営んでいたが、あるきっかけから障害者の雇用に注力するようになった。その後、他の就労継続支援A型の事業所に比べ1.5倍ほど多い給与を実現するほか、様々な障害者雇用の形を提案するようになった。代表の福寿満希氏に、これまでの経緯と、障害者雇用の未来についての展望を聞いた。

 ローランズの2つある店舗のうち、原宿店はフラワーギフトや装花などを行う生花店に、食べられる花(エディブルフラワー)などを使ったフードやスムージーを販売するカフェを併設している。カフェや生花店で働く人を含め、60人いる従業員のうち45人が障害を持つ当事者の企業だ。

「イチゴと季節のオープンサンド」720円(税別)と、バラのエキスが入ったスムージー「ローズブーケ」1200円(税別)(写真:寺田 拓真、以下同)

 ローランズには店舗チームや営業推進チームなど10のチームがあり、個人ごとの特性に応じて1つまたは複数のチームに配属される。2018年の就労継続支援A型事業所の全国平均賃金は7万6887円だが、同社の平均賃金は約13万円を実現。体力面の問題で短時間勤務のスタッフもいるため、平均にすると13万円となるが、中には20万円台の給与を得ているスタッフもいるといい、障害者雇用の質向上を目指している。

「仕事で社会貢献がしたい」と23歳で起業

 ローランズ代表の福寿満希氏が、大学を卒業し、社会人として最初に働き始めたのは、スポーツ選手をマネジメントする会社だった。そこで偶然、プロ野球選手の社会貢献活動の担当となったのが、社会貢献に明確な興味を持つきっかけだった。

仕事で社会貢献がしたいと23歳でローランズを立ち上げた福寿満希氏

 「米大リーグでは社会貢献活動が盛んですが、日本のプロ野球にはあまりそういう文化がありませんでした。サポーターも成績重視で、『そんなことをしている時間があれば練習してくれ』といった雰囲気もあり、そこを変えたいと思いました」(福寿氏)。福寿氏は、各選手にどういう社会課題があるのかを説明したり、動物が好きな選手がいればヒットを打つごとに、動物愛護団体への寄付を行うなど、個々の選手に合ったアプローチを考える業務に、やりがいを持って携わっていた。

 ただし、選手の社会貢献活動は、引退したり、スポンサー企業が撤退すればなくなってしまう。そこで福寿氏が着目したのがソーシャルビジネスだった。「仕事をしながら社会に貢献できるというのは新しい発見でした。無償のボランティアは持続可能性がないと思っていたけれど、ビジネスがあれば社会活動につながるんだと知りました」。

 いつかソーシャルビジネスに携わりたいと考えていた矢先、福寿氏は人事異動で全く別の部署へと配属になる。福寿氏は、この人事異動から半年後に独立した。当時のことを福寿氏は、「今思えばソーシャルビジネスはたくさん立ち上がっていたんですが、あのときは自分で立ち上げるしかない!と思い込んでいたんですよね」と振り返る。こうして福寿氏は、23歳でローランズを立ち上げた。

捨てられる生花の再資源化から着手

 人事異動から独立するまでの半年間、福寿氏は「スポーツから離れて自分が何に興味があるのかを考えよう」と様々な知識を吸収していた。そのうちの1つが、フラワーアレンジメントなど花に関する勉強だった。福寿氏は、通勤途中に毎日前を通る生花店があった。そこで花を見ていると、日ごろのストレスが発散するような感覚があり、花に興味を持ったという。フラワーアレンジメントの資格取得のための教室に通いながら、週末に生花店を手伝って、半年間を過ごした。

 独立し、福寿氏自ら生花店を立ち上げてからは、毎日の業務に追われたが、少しずつ「生花店ができる社会貢献」について考え始めた。「ここで、プロ野球選手ごとに社会貢献を考えていた頃の経験が生きました」と福寿氏は言う。

 最初に取り組み始めたのが、環境問題へのアプローチだった。仕入れた花は、全部使い切ることが難しい。売れ残りという問題もあるが、少しでも傷が付いた花は陳列できないし、そもそも生花店が仕入れる時点ではとても長い茎がついており、これをカットしてアレンジメントすることになる。この茎が、毎日大量に廃棄されていた。こうした捨てられる花を資源と考え、紙を作るプロジェクトを開始した。小ロットで紙を制作してくれる業者を探すのは難しく、100社ほど連絡して実際に会えたのは3社ほどだった。

原宿店のカフェ奥にある生花スペース

 その後、何とか見つけた業者と花から作った紙で名刺を作ったり、スケッチブックとクレヨンをセットにして販売したりとプロダクトを出していくと、百貨店にも置いてもらえるようになった。福寿氏は、「名刺100枚につき、花5本が再資源化されます。独立から約1年がたち、物が売れることで社会課題にアプローチできるものがようやく生み出せたと思いました。売り上げがあればまた再資源化ができます。このサイクルができて初めて、形になったという実感がありました」と言う。

特別支援学校での教育実習が生きた原体験

 他にも生花店が社会貢献できるアプローチはないか。そう考えていたところ、ある障害者施設でフラワーアレジメントのレッスンをしてほしいという依頼が舞い込んできた。障害を持つ当事者向けにレッスンを開催してくれるところがあまりないとのことで、福寿氏のところに来た依頼は数カ所目の打診のようだった。

 実は福寿氏は、特別支援学校の教員免許を持っていることもあり、レッスン講師の仕事を引き受けた。その施設には、片手だけが使える身体障害を持つ人や、一度統合失調症を発症したときに会社を退職して2~3年就職活動を続けている人など、様々な当事者がいた。レッスンを始めてみると、当事者たちの多くは福寿氏の想像以上に良い手さばきで、「うちのお店を手伝ってほしい」と本気で思ったと言う。

 福寿氏は、大学3年のころ、免許取得のために特別支援学校で教育実習を行っていたころ、同学校の卒業生が一般企業に就職する割合は約15%ということに驚いた覚えがあった。「自分も就職活動と向き合っている時期だったので、まず働くこと自体が難しかったり、就職先をこんなにも選びにくいことが衝撃でした。保護者の方にもお会いしたこともあり、お子さんたちの就職がもっとしやすくなったり、選択肢が広がればいいなと思いました」(福寿氏)。この原体験もあり、福寿氏はこの施設にいた1人の当事者Aさんを、実習生として会社に受け入れることになった。会社を設立して3年がたとうとしていた。

設立4年で就労継続支援A型への転換を決意

 Aさんを実習に受け入れたことで、福寿氏の心境は大きく変わった。会社を3年ほど運営してきて、主要メンバーは3~4人だったが、人を雇用する大変さは身にしみていた。売り上げのほとんどは人件費となり、自分の給与はなかなか出せない状態が続いていたのだ。

 福寿氏は、「このころは、会社を運営するってなんて大変なんだ、人を雇用するのは苦しいことだと思っていました」と言う。しかし、Aさんと働いたことで、給与を渡すときに本気で感謝されたり、「自分にできる仕事を取ってきてくれてありがとう」と言われたことで、人を雇用することの素晴らしさを学んだ。そこで福寿氏は、設立4年目に入り、障害などによって就労困難な人の雇用を担う会社に切り替えること、既存店舗を就労継続支援A型にすることを決意した。

 切り替えるタイミングで、元いたスタッフたちは去って行った。福寿氏にとって、スタッフに切り替えを反対されるのは予想外で驚いたが、お互い譲れない意見があり、たもとを分かつこととなった。就労継続支援A型になって、始めて雇用したのが実習に来ていたAさんだった。

 Aさんは精神疾患の1つを持っており、体力面でめまいがしたり、精神的なところから体調不良が起きることがあるが、そこだけ気をつければ事務作業も電話応対もできる、とても賢い人だった。今も、同社の業務推進チームで活躍しているという。

原宿店は就労継続支援A型の店舗として運営されている

 就労継続支援は、障害者の就労を支援する制度の1つで、A型とB型がある。大きな違いは、雇用契約の有無にある。就労継続支援A型は事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の給与が支払われる。B型は雇用契約を結ばず、作業訓練などで制作した物の成果に応じて賃金が支払われる。

 就労継続支援A型の店舗であるローランズ原宿店は、最低賃金を割る売り上げでは認可が取り消されてしまうので、収入をしっかりと確保しなければならない。「制度を知って、収益性はB型の方がいいなと思いましたが、私は雇用にこだわりたかったので、A型にしました。いつかは就労継続支援に頼らなくても雇用できるようになっていきたいと思っています」(福寿氏)。

就労困難者が就職先を選んだり夢をかなえられる社会へ

 今後、福寿氏がさらに取り組みたいのが、「雇用の質」を高めていくことだという。「企業の中に当事者用の机が用意されていればいいということではなく、しっかり『働く』には、企業側の努力だけでは難しくて、当事者の働く意識も変わっていかないといけない」と福寿氏は指摘する。

 当事者の中には支援されることに慣れ、周囲のお膳立てや調整を当然と考えてしまう人もいるという。福寿氏は「こうした当事者の存在が企業のモチベーションを下げていることもある」と言い、企業も努力する一方、当事者も努力する意識を持つ、双方のアプローチが必要だと感じている。

「今後は雇用を生み出すだけでなく、『雇用の質』にもこだわっていきたい」と話す福寿氏

 企業側の努力として、福寿氏は今後も様々な取り組みを打ち出していく。企業に義務付けている障害者の法定雇用率は、2021年度から2.3%に引き上げられる(現在は2.2%)。0.1%とはいえ、社員1万人の企業なら新たに10人の障害者を雇用する必要がある。「雇用者の数だけ何とか確保しても、ちゃんとその分の仕事を作れるのか、各部署で管理できるのかと悩む企業もあるでしょう。法律を守ろうという企業が増えてきたのは良いことなので、これからどう質を高めていくかというところです」(福寿氏)。

 複数のグループ企業から成るような大企業は、特例子会社を設立し、その1カ所でグループ企業全体の法定雇用率を満たす障害者を雇用することが認められている。雇用側からすれば、障害者雇用に合った制度を策定したり、働きやすい環境を整備するといった配慮を、各グループ企業に数人ずつ分散させることなく、1社で担えるメリットがある。

 ただし、特例子会社は大企業にのみ認められた制度であり、中小企業は使えない。その結果、障害者に配慮した職場環境の整備や、雇用した障害者に十分な仕事量を確保できないという理由から、中小企業の多くが法定雇用率を満たしていない。

 そこで東京都が2019年末に打ち出したのが、国家戦略特区制度を活用した、中小企業による障害者の共同雇用だ。ローランズのように、障害者雇用のノウハウがあるソーシャルビジネス企業と、資本関係のない中小企業が共同で事業組合(ウィズダイバーシティ有限責任事業組合;LLP)を設立し、組合全体で法定雇用率を算定する。障害者を雇用する役割や、業務を作ったり持ってくる役割など、事業組合の中で役割分担する。ローランズが参加する事業組合が第1号となり、今後東京都で実践したモデルが、全国に広がっていく可能性がある。

 最後に、本連載のタイトルである「100年後をつくるケアと社会」にちなみ、これからの社会に希望することを聞いた。福寿氏はローランズの理念である「誰もが自分色に花咲く社会」の実現を挙げ、「今は当事者が働く場所を作っていて、今後はその場所で、働く幸せが得られていない人と一緒にやっていきたい。そして、こうした社会貢献活動を当事者自身が作るというのをやっていきたい」と話す。「これまでは自分が『社会課題』だったけれど、自分も社会に還元できる、こんなことができるという姿を打ち出して、新たな事業をどんどん創出して特別支援学校の子どもたちを受け入れられれば」(福寿氏)。

 その先にあるのが、障害者の就職の選択肢が増え、現在就労困難と言われる人も、一般の就職活動のように自分の就職先を選んだり夢をかなえられる社会の到来だ。ローランズは、今後5年程度で当事者による社会貢献活動を開始し、理念実現を目指していく。

(タイトル部のImage:Getty Images)