本連載の第1回から第3回までは、これまでの約20年間の医療のデジタル化・オンライン化の取り組みにより、顕在化してきた市場領域について述べた。最終回となる今回は、仮想空間へと実用化が探索され始めた医療分野におけるメタバースの活用可能性を論じる。

広がるメタバースに製薬業界も注目

 メタバースは、現実世界と異なる3次元の仮想世界で、あたかもそこに存在するかのように感じさせる空間である。VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)技術がその空間を作り上げている。既に、エンターテイメント業界では多くの製品が販売されている。

 ヘルスケア領域でも、フィットネスやスポーツのバーチャルトレーニングや、認知症患者などの視覚体験プログラム、研修やスキルトレーニングに活用されている。近年では、臨床医療にも広がり、手術前のシミュレーションや、カンファレンス、遠隔診断での実用化が始まっている。

ヘルスケア領域でのVR、AR、MRの活用事例(表:各企業ホームページ、記事等より野村総合研究所が作成)
ヘルスケア領域でのVR、AR、MRの活用事例(表:各企業ホームページ、記事等より野村総合研究所が作成)
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 例えば、2016年設立のベンチャー企業であるHoloeyes(ホロアイズ)は、VRを活用した臨床トレーニングソリューションを開発してきた。MR技術を活用し、3次元空間上で術前シミュレーションができる医療用画像処理ソフトウエア「Holoeyes MD」は、2020年2月28日に管理医療機器(クラスⅡ)認証を受けた。

 Holoeyes MDは、実際の手術手順をイメージしたシミュレーションができ、術中の出血量減少や手術時間の短縮などに寄与する。遠隔カンファレンスにも活用できるため、場所を問わず医師のスキルアップや、医療の地域間格差の解消への貢献も期待されている。

 製薬企業でも、大塚製薬が精神科領域で患者治療支援プラットフォームを構築したり、アステラス製薬がメタバースで医師への情報提供に取り組んだりと、仮想空間の特性を生かして、新たな価値提供を探索し始めている。

現実と仮想空間が融合したSociety5.0の新たなケアサイクルのイメージ(図:野村総合研究所が作成)
現実と仮想空間が融合したSociety5.0の新たなケアサイクルのイメージ(図:野村総合研究所が作成)
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