頼れるファミリーがいない時代。これを「ファミリー・レス時代」、つづめて「ファミレス時代」と呼びたい。家制度、家父長制が崩壊したために日本社会はファミレス時代に突入している。しかし、嘆くのはお門違いだ。我々現代人は家制度、家父長制度と自ら決別した。ファミレス状態を選び取ったのは我々の方なのである。古臭い因習に縛られて生きることを拒んだ結果がファミレスなのだ。同問題の提唱者である東京家政大学名誉教授の樋口恵子氏(90歳)にご登場いただき、ファミレス社会の理想の形を探る。

 私がファミレスという言葉を初めて聞いたのはかつての日雇い労働者の街、東京・山谷でのことだった。この地で民間ホスピス「きぼうのいえ」を設立した山本雅基さんが教えてくれた。

 世界一の高齢化社会である日本は、ファミリーの関係が急速に希薄になっている。山本氏の語った言葉に私は深く頷いた。同時にファミリー・レスの状態を生き抜く知恵こそが超高齢化社会を生き抜く力なのだと感じた。

 その後、取材を続ける中で、家族の機能の低下にファミレスという言葉を当てて語った初めての人が東京家政大学名誉教授の樋口恵子氏であることを知った。同氏にファミレス問題について聞いた。

ファミレス問題を最初に語った樋口恵子氏

樋口恵子氏 東京家政大学名誉教授、高齢化社会をよくする女性の会理事長
樋口恵子氏 東京家政大学名誉教授、高齢化社会をよくする女性の会理事長
東京大学文学部卒業後、時事通信社、学習研究社、キヤノンを経て、評論活動に入る。主な著書に『老~い、どん!』(婦人之友社)、『老いの福袋』(中央公論新社)など(撮影:末並 俊司)
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 「私はね、ファミレスってことが日本の社会の変化の大きな問題、一大事だと思っています。日本社会を激動させる大きなテーマの1つなんだけど」

 樋口氏はまずそう語り、眉間にシワを寄せた。「この問題を解決するのは一筋縄ではない」。まるでそう書いてあるような表情である。

 「私なんかはもうそろそろ死んじゃいますからいいんですけど、これから3~40年の間に、ファミレスの問題はどんどん深刻化していくはずです。昨今はヤングケアラーの問題がクローズアップされているでしょ、政府の調査では小学6年生の6.5%が何らかの形で『世話をしている家族がいる』と答えています。これも1つのファミレス問題だと思いますよ」

 指摘されてみてハッとした。

 家族という言葉を聞くと、私は反射的に磯野家の姿を思い浮かべてしまう。もちろん、国民的マンガ『サザエさん』のあの家族である。波平を長として、フネ、サザエ、マスオ、タラちゃん、カツオ、ワカメの3世代7人だ。

 カツオは小学5年生の設定である。仮に近い将来、波平が要介護状態になったとしても、カツオやワカメが父親の面倒を見る必要はないだろう。あれこれ文句を言いながらも、フネとサザエが家長である波平の世話をしっかりとやってのけるはずだ。ただし、先ほどのヤングケアラーのように、現在の日本ではカツオ世代が誰かの世話をしているという実態がある。

 「日本社会が長い間、力の弱い人、あるいは力の衰えた人を誰が支えてきたか。もちろん我が国には生活保護などの福祉の仕組みはありますが、具体的、日常的に支えてきたのは『家族』なんですね。ただ、ケアの担い手である家族が減っている」

 この問題、解決する方法はないのだろうか。