家父長制度を捨て、家制度が壊れ、核家族化が進み、晩婚が世の流れとなり、家族はすっかり姿を変えた。かつての家族はお父さん、お母さん、おじいちゃんおばあちゃん、孫たちがいっしょくたに生活する場だった。しかし、そんな家族は今や少数派だ。70代、80代になって介護や医療の救けが必要になったとき、あなたには頼れる家族や場所があるだろうか。自信を持って即答できる人は、少ないのではないか。そこから見えてくる問題を「ファミレス問題」と呼び、それについて考察する本コラム。第3回は、『ミシンと金魚』(集英社)で第45回すばる文学賞を受賞した永井みみさんにご登場いただく。
永井さんは現役ケアマネジャーでもある作家だ。今でもケアマネの仕事を続けながら執筆する。デビュー作となる『ミシンと金魚』の主人公・安田カケイさんは認知症を患う女性だ。医療・介護保険サービスに頼りながら生きている。物語は、カケイさんのひとり語りで綴られる。
作者の永井さんご自身がケアマネジャーだということもあり、介護現場の日常は圧倒的なリアリティを持つ。既述のように物語は認知症患者であるカケイさんのひとり語りで進行するのだが、書かれた文字の伝える力が圧倒的なのである。言葉だけではなく、場の空気ごとを読む者に感じさせる。
ネタバレになってしまうので、詳しい内容は書かないが、老いて一人暮らしのカケイさんにも、かつて家族があった。その家族がどうして壊れてしまったのか、そもそも壊れたと表現していいのか、一読者としてここで語るのは憚れる。興味のある方はぜひ手にとっていただきたい。