「ファミリー・レス」、略してファミレス。頼れる家族がいなくなった現代社会を表す言葉だ。ファミレス社会が抱える様々な問題を考えるこの連載。今回はちょっと変わったデイサービスを立ち上げた元警察官にご登場いただく。
生演奏でラジオ体操
バンドの生演奏に合わせてラジオ体操。ライブハウスでもなければ、イベントスペースでもない。ここは埼玉県川越市にあるデイサービス「KEION(ケイオン)」。ステージ上でリードギターを担当するのは運営会社OPEN UP代表の上野拓さん(59歳)だ。ポロシャツにニット帽とラフな出で立ちでギターをかき鳴らすその姿は、世の常識にとらわれない気ままな世捨て人のように見える。この方、実は前職が警察官だ。
聞き覚えのある曲でも楽器が違うとこうも印象が変わるのかと、不思議な気持ちになった。アコースティックギターとエレキベース、そこに三味線の音も交じる。奏でているのは「ラジオ体操第1」のテーマ曲だ。「腕を前から上にあげて、のびのびと背伸びの運動から~」。先導するお馴染みの掛け声に促され、一斉に体操が始まる。
KEIONは音楽好きが始めたちょっと変わったデイサービスだ。代表の上野拓さんは「大好きな音楽を通して、人の繋がりを作り出していく、そんな場所を作りたかった」と語る。
今年7月、KEIONはオープンから一周年を迎えた。記念のパーティにはご利用者さんだけでなく、上野さんのバンド仲間も集まった。取材のために訪れた私に、上野さんは冗談めかして「今日は俺の後輩も来てるから、悪いことしちゃだめだよ」なんて囁く。
既に書いたように上野さんの前職は埼玉県警の警官だ。交番勤務から刑事まで、様々な部署で活躍した。警官からデイサービスの運営へ、華麗なる(?)転身を決心した理由。そこには警察官時代に見たファミレス社会への問題意識があった。