学生たちの意識が変化

大学の教員というお立場において、サイバスロンに挑戦して得られたことはありますか。

 私は講義で、サイバスロン大会に出場した経験を題材の一つとして扱っています。私自身が一人の体験者として、学生さんと同じ目線で、分かったことを伝えるというスタンスです。

 一般的に言って、現代の産業におけるものづくりはおしなべて「最大多数の最大幸福」を主眼にしているため、多様なユーザーのニーズがある程度平均化されてしまったものになっていると思います。それはもちろん一つの正解です。ただその一方、障害をお持ちの方々はバラエティに富んでいて、いろいろなユースケースがあります。最大多数の最大幸福のものづくりだけでは、そのような方々のニーズに応えるのは難しい。私はサイバスロン大会への出場を通して、少数のニーズに対してエフォートを割きピンポイントでものづくりをしていくという、ベンチャー的と言えばいいでしょうか、そのようなものづくりの考え方を垣間見ました。

 本学の理工学部で学んでいる学生さんは、最大多数の最大幸福を目指すものづくりを志向している人が多い。けれども、サイバスロン大会のことを話しますと、多様な在り方を支えるものづくりに挑戦しようと考える学生が登場してきました。これは教員として大きな発見でした。

 最初に研究室の学生にサイバスロンに出ようと声をかけたとき、彼らはおしなべてサイバスロンのロボット技術に興味を持ったようでした。それはもちろん好ましいことですが、ふたを開けてみると、それ以上の学びがあったように見受けます。マインドセットが変わり、障害をお持ちの方に対して、自分たちからバリアをつくらず接するようになったという印象を受けました。

 サイバスロンに出た学生たちにとってはおそらく、当初はまったく予想もしていなかった出口に行き着いた、という体験だったのではないでしょうか。そのような学生の姿を見ると、教員として新しいチャレンジの場を用意できたことはうれしい限りです。私にとっても、また学生にとっても、予想以上の収穫がありました。

次回のサイバスロン大会に向けて、フォルティッシシモは活動を続けますか

 これから本格的に検討しますが、やり方は変えるつもりです。これまでは、私の研究室の学生さんだけが取り組んでおり、また、技術職員の皆さんも特例的に参加してきました。この体制で次も出るとなると、広がりがなく、もったいない。より幅広い人が参加できる枠組みを用意したいと考えています。

 これはパイロットである野島さんのご意見でもあるのですが、細く長くでいいので、継続していくことが大切だと思っています。私のこれからの使命は、サイバスロンに向けた活動を継続させるための枠組みを構築することだと認識しています。

ロボット工学の専門家として、技術はどう障害を克服できると思われますか。

 フィジカルな側面としては、これからの技術進化により、諦めていたことが諦めなくてもよくなる領域はたくさん出てくると思います。例えばロボットアームですね。サイバスロンの競技としても設定されていますが、腕を失った方がロボットアームでより生活しやすくなるという姿は、そう遠い未来のものではないでしょう。

 環境あるいは人間の考え方も変わっていく必要があるでしょう。弱視は技術によってかなりの部分、突破されています。私もコンタクトレンズを使用していますが、眼鏡はおしゃれのツールとしても進化しています。

補助器具がアートと言えるレベルにまで洗練されてきた。社会一般の捉え方や考え方のシフトも必要だということですね。

 サイバスロン大会の競技にはパワード義足部門もあります。日本からはロボット型の義足チームが出場したのですが、これには驚かされました(筆者注:出場したのは義足ベンチャーのBionic Mによるチーム)。メカの観点から見ても、人工の膝が曲がるのを見て純粋にすごいと感じました。しかも、義足にデザイン性もある。

 私には小学生の娘がいるのですが、その動画を見せたら第一声、「かっこいい」と言いました。このようなデザイン性の要素は大事ではないかと思っています。

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)