2019年4月から指定管理者として運営しているあま市民病院では、「健康経営」の視点を入れた活動を展開していますね。

 あま市は名古屋市に隣接する人口9万人弱のベッドタウンです。病院や市役所、市内の中小企業を対象とした「健康経営の推進」を健康づくりの柱に据えています。市長が健康都市宣言に関心を持っておられたので、健康経営に沿った取り組みを企画し、病院内の体制を整えながら、市役所とも連携して事業を実施しています。地域ぐるみの糖尿病対策、職員の健康増進、健診事業の拡充という3つの取り組みを進める計画です。

あま市での健康づくりのスキーム(提供:地域医療振興協会)
健康経営を旗印とした健康づくりの拠点、あま市民病院(提供:地域医療振興協会)

 糖尿病対策は、2つのアプローチで行う方針です。ハイリスクの住民には、重症化予防外来を設け、地域の医師会や歯科医師会、協会けんぽ・国保といった保険者と協働して、人工透析にならないための診療や保健指導を実施。健常者・軽度異常者には、市民ボランティアの養成や活動の場を提供して、市民の主体的な取り組みを促す方向で活動を行っています。既に指定管理が始まる1年前から職員を対象に定期的にワークショップを開催することに加えて、今後の関係機関との連携をスムーズに行うため、あま市歯科医師会や近隣地域の病院が参加する地域医療協議会において講演を行っています。

台東区もあま市も都市部にある自治体ですね。

 地域の健康づくりは、地元の人材や関係団体が中心になって手掛けていくのが大切です。ですから、人口規模が少なく社会的なネットワークが残っている地方に比べ、都市部での取り組みには難しさがあります。

 多種多様な団体が存在していることも都市部の特徴の一つです。こうした場合には、活動的な団体を選んで参加を呼びかけていくのも一法です。健康づくりを活動目標に掲げている団体にこだわる必要はありません。活動の一部に健康づくりを加えてもらうことで、普及につながると考えています。

「住民が住民を支える」モデルも

自治体には、健康づくりの専門職、保健師も在籍しています。

(写真:秋元 忍)

 自治体の保健師は種々の事業に追われ、健康づくりのための地域活動に割ける時間が少なくなっているのが実情です。地域医療を担う医療機関が保健、医療、介護の各段階における予防活動に積極的に関わることで、患者さんをはじめ、地域住民の健康づくり活動の充実を図りたいと考えています。

地方では、どのような健康づくりの事例がありますか。

 群馬県嬬恋村では、地域ぐるみのフレイル(虚弱)予防事業に取り組んでいます。協会が運営する国保診療所の所長が高齢化の進展に危惧を覚えたのがきっかけで、2016年に調査をしたところ、フレイルの高齢者は男女とも約3割を、80歳以上では約5割を数えました。そこで当センター、地域包括支援センターや社会福祉協議会といった行政が協働し、フレイル予防サポーターの養成と予防教室の開催に取り組んだのです。

 サポーターが運動、栄養、社会活動に関する知識を身につけ、地区ごとに教室を開くという「住民が住民を支える」モデルを展開しました。スタートから5年で、これまでに約60人のサポーターを養成。全11地区のうち6地区7カ所で予防教室を展開しています。

具体的な成果はいかがですか。

嬬恋村では住民中心のフレイル予防活動を展開し、数字で成果を上げている(提供:地域医療振興協会)

 性別、年齢、フレイル状態を調整したデータで、2016年にはほぼ同じだった参加者と不参加者のフレイルのスコアが、2020年には参加者は改善し不参加者は悪化するという成果が得られました。予防教室への参加希望や地域活動の企画・運営に前向きの住民が少なくないことも分かったので、実施地区や参加人数の拡大を考えています。診療所と連携して医療ニーズの高い患者に対応したり、協会の他施設や関係自治体への横展開も視野に入れたりして、今後活動を展開する予定です。今はコロナ禍で集合研修はできませんから、オンライン研修会の開催も検討しています。