公益社団法人・地域医療振興協会は、へき地医療を支援することを目的に設立された法人である。主に指定管理者として、全国約80の公立病院や診療所、介護施設を運営している。ヘルスプロモーション研究センターでは、それらの施設を拠点に、自治体等と連携して大都市やその近郊から過疎地の村まで、地域に合った多様な健康づくり活動を行っている。そのトップである中村正和氏に、健康づくりのポイントや自治体・地域と連携するためのコツを、事例とともに聞いた。

地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター長の中村正和氏(写真:秋元 忍)

2019年、協会が運営する東京の台東区立台東病院が、「患者、職員、地域を元気にする“地域ヘルスプロモーション病院”の活動」で、厚生労働省の「健康寿命をのばそう!アワード」で表彰されました。

 はい。私達は台東病院を、「ヘルスプロモーション病院」のモデル施設と位置付けて病院関係者と一緒に取り組みを行っています。WHOによれば、ヘルスプロモ―ションとは、「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」。自院が提供する医療サービスに、この考え方や戦略を組織的に組み入れた活動を行うのがヘルスプロモーション病院です。医療・介護施設と行政・住民組織などの関係機関が協働し、地域の人々が健康で元気に暮らせるまちづくりに取り組むのが目指すところです。

 この活動が充実することにより、院内の体制強化と人材育成、医療の質と患者の生活の質の向上、職員の健康保持、地域連携の強化や地域の健康指標の改善と医療費・介護費用の削減といった、病院やそのスタッフ、患者・家族を含む地域住民への効果が期待できます。

コンビニと連携し、減塩やバランスの良い食事を推進

台東病院ではどのような活動をされているのですか。

 健康推進委員会を核にした職員参加型で、チームを編成して禁煙推進や食生活改善支援など5つのテーマに取り組んでいます。区の保健所や小中学校、地域包括支援センターとも連携し、講演会、授業、カフェなどの方法で地域への啓発・相談活動も行っています。

 院内のコンビニエンスストアでは「ヘルシーコンビニ・プロジェクト」を展開中です。既存のサラダや弁当類を組み合わせた栄養バランスのとれたセットを作り、割引価格で提供したり、カップ麺の食塩量を見やすく表示したり、砂糖を含まない飲料を増やし手に取りやすい場所に置く──といった取り組みを院内のコンビニで行い、職員の健康増進と地域に向けた健康的な食品・食情報発信の拠点化を図っています。ほかに、職員向けの禁煙治療のメニューを充実させたり、施設見学や健康チェック、講演会など体験型の病院祭なども開催したりしました(開催はすべてコロナ禍以前)。

台東病院では、院内のコンビニに置く食品の表示・配置の工夫や病院祭の開催などを通して、 職員、患者、地域の健康づくりを行っている(注:病院祭の開催は2019年9月)(提供:地域医療振興協会)

病院が健康づくりに取り組む意義をどうとらえていますか。

 地域包括ケアの時代を迎え、保健、医療、介護の連携の必要性はますます高まってきています。病院が保健、医療、介護における予防活動に関われば、連携の拠点として、これらの課題解決につながります。もちろん、地域の人に親しみを持って身近に感じてもらうことや、職員の健康増進・生産性向上を通じて、病院運営上の効果も期待できます。

 台東病院では、病院の運営に加えて健康づくりに関しても台東区とも打ち合わせて進めています。行政と緊密に連携することで、地域の課題の共有や認識が深まり、課題解決につながるメリットがあるからです。

2019年4月から指定管理者として運営しているあま市民病院では、「健康経営」の視点を入れた活動を展開していますね。

 あま市は名古屋市に隣接する人口9万人弱のベッドタウンです。病院や市役所、市内の中小企業を対象とした「健康経営の推進」を健康づくりの柱に据えています。市長が健康都市宣言に関心を持っておられたので、健康経営に沿った取り組みを企画し、病院内の体制を整えながら、市役所とも連携して事業を実施しています。地域ぐるみの糖尿病対策、職員の健康増進、健診事業の拡充という3つの取り組みを進める計画です。

あま市での健康づくりのスキーム(提供:地域医療振興協会)
健康経営を旗印とした健康づくりの拠点、あま市民病院(提供:地域医療振興協会)

 糖尿病対策は、2つのアプローチで行う方針です。ハイリスクの住民には、重症化予防外来を設け、地域の医師会や歯科医師会、協会けんぽ・国保といった保険者と協働して、人工透析にならないための診療や保健指導を実施。健常者・軽度異常者には、市民ボランティアの養成や活動の場を提供して、市民の主体的な取り組みを促す方向で活動を行っています。既に指定管理が始まる1年前から職員を対象に定期的にワークショップを開催することに加えて、今後の関係機関との連携をスムーズに行うため、あま市歯科医師会や近隣地域の病院が参加する地域医療協議会において講演を行っています。

台東区もあま市も都市部にある自治体ですね。

 地域の健康づくりは、地元の人材や関係団体が中心になって手掛けていくのが大切です。ですから、人口規模が少なく社会的なネットワークが残っている地方に比べ、都市部での取り組みには難しさがあります。

 多種多様な団体が存在していることも都市部の特徴の一つです。こうした場合には、活動的な団体を選んで参加を呼びかけていくのも一法です。健康づくりを活動目標に掲げている団体にこだわる必要はありません。活動の一部に健康づくりを加えてもらうことで、普及につながると考えています。

「住民が住民を支える」モデルも

自治体には、健康づくりの専門職、保健師も在籍しています。

(写真:秋元 忍)

 自治体の保健師は種々の事業に追われ、健康づくりのための地域活動に割ける時間が少なくなっているのが実情です。地域医療を担う医療機関が保健、医療、介護の各段階における予防活動に積極的に関わることで、患者さんをはじめ、地域住民の健康づくり活動の充実を図りたいと考えています。

地方では、どのような健康づくりの事例がありますか。

 群馬県嬬恋村では、地域ぐるみのフレイル(虚弱)予防事業に取り組んでいます。協会が運営する国保診療所の所長が高齢化の進展に危惧を覚えたのがきっかけで、2016年に調査をしたところ、フレイルの高齢者は男女とも約3割を、80歳以上では約5割を数えました。そこで当センター、地域包括支援センターや社会福祉協議会といった行政が協働し、フレイル予防サポーターの養成と予防教室の開催に取り組んだのです。

 サポーターが運動、栄養、社会活動に関する知識を身につけ、地区ごとに教室を開くという「住民が住民を支える」モデルを展開しました。スタートから5年で、これまでに約60人のサポーターを養成。全11地区のうち6地区7カ所で予防教室を展開しています。

具体的な成果はいかがですか。

嬬恋村では住民中心のフレイル予防活動を展開し、数字で成果を上げている(提供:地域医療振興協会)

 性別、年齢、フレイル状態を調整したデータで、2016年にはほぼ同じだった参加者と不参加者のフレイルのスコアが、2020年には参加者は改善し不参加者は悪化するという成果が得られました。予防教室への参加希望や地域活動の企画・運営に前向きの住民が少なくないことも分かったので、実施地区や参加人数の拡大を考えています。診療所と連携して医療ニーズの高い患者に対応したり、協会の他施設や関係自治体への横展開も視野に入れたりして、今後活動を展開する予定です。今はコロナ禍で集合研修はできませんから、オンライン研修会の開催も検討しています。

 2020年の夏に、青森県東通村で「コロナに負けない!」をキャッチフレーズに「村民健康チャレンジ」を開催しました。働き盛り向け、シニア向けにそれぞれ新型コロナウイルスとの長期戦を戦うための、心と体づくりのポイントを掲載したポスターを作成、全戸に配布。それを見てクイズに答えることで知識を身につけてもらうとともに、自分に合う行動目標を宣言して登録し、1カ月間実行してもらいます。

 村のいきいき健康推進課が窓口になり、実行継続した住民には、抽選で藍染めのマスクや牛肉といった村の特産品などをプレゼントしました。300人を超える登録者がありました。この取り組みはコロナ禍で実施可能であり、地域住民がこころを一つにして取り組めるという効果も期待できます。第二弾を2021年2月頃から開催し、取り組みの輪を広げる予定です。

地域活性化につなげる狙いもあるのですか。

 青森は“短命県”なので、それを返上するために、メタボリックシンドローム解消のための生活習慣の改善や喫煙率の低下が求められています。しかし、健康が目標だけでは住民のモチベーションや主体性の向上にはなかなか繋がりません。そこで、能舞などの伝統芸能の伝承や地元産業の活性化など、住民が大切に思っていることを上位目標に設定し、住民を含め、多くの関係者が一緒になって取り組めるよう工夫しました。健康づくり事業を通して、村に活気をもたらすことができれば言うことはありません。村民健康チャレンジは地方紙にも取り上げられ、みんなで取り組む気運の醸成に一役買ったと考えています。

商工会や漁協も巻き込んだ東通村の健康づくり(提供:地域医療振興協会)

押し売りではなく寄り添う姿勢で

様々な地域で活動されてきた経験から、地域の健康づくりのカギは何だと考えていますか。

 自治体をはじめ、住民のやる気が肝心ですね。専門家だからと言って“押し売り”ではうまくいきません。地域の課題を共有しながら、取り組むテーマを一緒に考えて、地域に寄り添って課題解決を目指す姿勢が大切です。その際は、地域の客観的データや住民などの関係者が感じていることについて共有を図り、ニーズのすり合わせを図ることが大事です。こうした話し合いのプロセスを経ることで、一緒に取り組む機運や信頼関係が芽生えてきます。

 立ち上げの際には、首長が関与してリーダーシップを発揮することが重要です。しかし、首長の交代とともに事業が中止してしまうようでは意味がありません。ですから、私たちが行政や関係機関、協会の医療施設などで連携して取り組むように、持続可能な体制を構築できればと考えています。

経済的な面にも気を配って活動されていますね。

 ヘルシーコンビニ・プロジェクトは、売り上げにも配慮し、そのモニタリングをしながら進めました。他の地域でも、事業実施にあたり助成金を取得したり、医療施設における医業収入の増加(健診数や患者数の増加など)を図るなど、予算が限られている中で関係者が業務として取り組みやすくなるよう配慮しています。

 当協会がヘルスプロモーション事業を始めた背景として、公益社団法人化にあたり、公益目的事業の強化がありました。それでも民間組織なので、経済的な裏付けなしには実施できません。好事例を創出して「地域医療振興協会に医療施設の運営を委託すれば、健康づくりも一緒に取り組んでもらえる」──という評価を確立すれば、当協会にとっても指定管理者選定などで有利になるメリットがあります。

 地域での健康づくり活動は、その時代や社会に必要なテーマに焦点をおいて、「エビデンスや先行事例を参考にして深掘りする」方針で取り組むことが、地域社会にとって必要なノウハウや好事例の蓄積につながります。それを協会のネットワークを通じて横展開するとともに、政策提言などを通じて社会にも広げていきたいと考えています。

中村正和(なかむら・まさかず)氏
地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター長
中村正和(なかむら・まさかず)氏 1980年自治医科大学卒業後、大阪府に就職。門真保健所保健予防課長、大阪がん循環器病予防センター予防推進部長などを経て、2015年より現職。医師、労働衛生コンサルタント。予防医学、健康教育、公衆衛生学が専門。厚生労働省循環器疾患・ 糖尿病等生活習慣病対策総合研究班の研究代表者など、健康づくりに関する公職を歴任(写真:秋元 忍)

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)


出典:「新・公民連携最前線」2020年12月25日付の記事より