「移動を通じて、地域を良くし、暮らしを豊かに」のコンセプトを掲げ、今年から提供が始まるダイハツ工業(以下、ダイハツ)の福祉介護・共同送迎サービス「ゴイッショ」。担当の岡本仁也さんは「このシステムを導入すると送迎車の台数を減らすことができる」と胸を張る。自動車メーカーがそんなことを言っていいのか? ダイハツの心意気が詰まった新たな取り組みを追った。

 複数のデイサービスの送迎業務をひとつのシステムで結び、全体として業務の効率化を実現する「ゴイッショ」は、ダイハツが挑む新たな取り組みだ。同事業を統括する岡本仁也さん(コーポレート統括本部 新規事業戦略室 福祉介護MaaS分野統括グループリーダー)は次のように語る。

ダイハツ工業 コーポレート統括本部 新規事業戦略室 福祉介護MaaS分野統括グループリーダーの岡本仁也さん(写真提供:ダイハツ工業)
ダイハツ工業 コーポレート統括本部 新規事業戦略室 福祉介護MaaS分野統括グループリーダーの岡本仁也さん(写真提供:ダイハツ工業)
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 「もともと私は中途入社でダイハツに入り、管理部門で働いていました。2014年に社内プロジェクトが発足し、介護施設を中心にダイハツの車を1台でも多く使っていただこう、と考えて営業をしていました。そういった活動を通して、介護の世界、特にデイサービスでは1日のうち3割が送迎関連の業務に費やされることを知りました」

 現場では車種や性能よりもその車をいかに運用すれば業務改善に繋がるのか、という課題のほうが重要だったようだ。

 「ダイハツさん、車を売る前に送迎業務をなんとかしてくれないかね」

 上のような言葉を行く先々の事業所で聞かされた。

 2015年、ダイハツは介護事業者をサポートする福祉専門チームを立ち上げ、全国各地の事業者から多くの声を集めた。介護施設の送迎現場では、座席数の多い大型車ワゴンなどで利用者をいっきに送迎する方法が主流だ。事業所を出発して、利用者の待つポイントを一筆書きの要領で巡り、ピックアップしていく。ところがこの方法だと、 「送迎に時間がかかる」「大型車なので狭い道の奥に住んでいる場合は自宅前まで車が来てくれない」──などの不満や悩みが発生しがちだ。

 岡本さんが説明する。

 「大型車だけでなく、小さな車も送迎ルートに組み入れて、こまめにピストン送迎をすれば問題は解決するのですが、それだとご利用者のご自宅と事業所の距離やそれぞれのお迎えの時間、また車椅子利用など、様々な条件を組み合わせて作る送迎計画が複雑になります」

 そこで2018年、ダイハツが開発したのが通所介護事業者向けの送迎支援システム『らくぴた送迎』だった。これが後の展開につながる試金石となった。

送迎の最適ルートをAIを使用して生成

 「らくぴた送迎では、送迎前、送迎中、送迎後の3つのシーンで送迎業務をサポートします。予め利用者と車両の情報を登録しておけば、送迎前には最適ルートを生成してくれます」(岡本さん)

らくぴた送迎は、送迎前、送迎中、送迎後のいずれの業務もサポートする(資料提供:ダイハツ工業)
らくぴた送迎は、送迎前、送迎中、送迎後のいずれの業務もサポートする(資料提供:ダイハツ工業)
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 送迎中は施設のパソコンとドライバーの持つスマホが連携し、リアルタイムで車両の位置を把握することができる。また利用者の急なキャンセルなどにも即応可能だ。送迎後はスマホで入力された実績が運行記録として蓄積され、計画の改善に繋げることができる。

 「送迎の運行計画って本当に複雑です。以前はベテラン職員しか組み上げることはできなかった。しかしらくぴたを導入することで、データを入力するだけで誰もが比較的簡単に運行計画を作成することができるようになるのです」(岡本さん)

 ダイハツは、らくぴた送迎をベースにさらに一歩進化させたシステム『ゴイッショ』を開発。2021年11月には、香川県三豊市の社会福祉法人三豊市社会福祉協議会との協業で、ゴイッショを使ったプレ運行を開始した(2021年11月29日~2022年1月28日)。

プレ運行の様子。利用者の自宅前でピックアップ(写真提供:ダイハツ工業)
プレ運行の様子。利用者の自宅前でピックアップ(写真提供:ダイハツ工業)
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 「AI搭載の乗り合いバスがゴイッショのコンセプトです」と岡本さんは言う。

 例えばひとつの地域に、運営母体の異なる5つのデイサービス事業所があるとする。それぞれが送迎スタッフと車両を抱えている。これらをひとつにまとめることができれば、5つの運営母体はそれぞれに業務の効率化を図ることができるはずだ。

 ただ、実現させるとなると、利用者数は単純に5倍となり、その分送迎計画はより複雑なものになる。どこかひとつの事業所が担うには荷が重すぎる。

 「そこでゴイッショというシステムを開発したのです。A、B、C、D……と複数の事業所に向けて複数のご利用者を最適ルートでお連れする計画を自動生成するシステムです。らくぴたで培った介護現場での経験をもとに『1:n』に対応するアルゴリズムを新開発しました」(岡本さん)

ゴイッショのイメージ。運行団体をハブとして各事業所に連絡する(資料提供:ダイハツ工業)
ゴイッショのイメージ。運行団体をハブとして各事業所に連絡する(資料提供:ダイハツ工業)
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実証実験では利用者も事業者も満足

 「香川県の三豊市で行っているプレ運行では、ご利用者からも迎え入れる事業者からも好評を頂いております」(岡本さん)

 具体的な内容は次の通りだ。

 「今回は、ゴイッショのシステムを運営するのは地元の三豊市社会福祉協議会さんです。ご参加は5つのデイサービスで1日のご利用者は約20名。送迎車は4台で、運行は地元のタクシー業者さんにお願いしています」(岡本さん)

 稼働する4台の送迎車の内訳は7人乗りの大型ワゴン2台に軽自動車が2台だ。

 「軽自動車はたまたまダイハツですが、それ以外は他社さんの車です」と岡本さんは笑う。

 「私もダイハツの人間ですから、もちろんダイハツの車が売れれば嬉しい。ただ、らくぴた送迎やゴイッショの事業は車の販売とは全く違ったフェーズで展開しています。我々は常に『移動を通じて、地域を良くし、暮らしを豊かに』という思いでやっています。ですからダイハツでも日産でもトヨタでも、その場にあるアセット(資源)を使って、業務改善を行っていただく」(岡本さん)

 実際、2020年に行った実証実験では、送迎車を2割カットすることができたのだという。

 ゴイッショの送迎ルートの自動生成は前述の通り、らくぴた送迎での経験をもとに開発したものだ。

 「らくぴた送迎は基本ゴールとなるデイサービスはひとつですが、ゴイッショの場合は複数になります。運行計画のパズルは複雑になるのですが、ご利用者のデータを入力することでAIが瞬時に自動生成することに変わりはありません。ただ、直前のキャンセルなどによる変更は人間の手によって変更します。AIと人間の二重チェックを採用することで、より血の通った運用ができると考えています」(岡本さん)

ゴイッショが自動生成したコース。地図の上に見える化される(資料提供:ダイハツ工業)
ゴイッショが自動生成したコース。地図の上に見える化される(資料提供:ダイハツ工業)
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 介護事業者としては送迎業務をまるごとアウトソーシングすることができる。さらにこうした取り組みを推進するにあたっていつも問題になるのが、地域に元からある公共交通機関とのバッティングだ。システムの輪にタクシー業者を巻き込むことで、これもクリアできる。

アウトソーシング化のメリット

 送迎業務を介護事業者から切り離すことのメリットはまだある。

 「デイサービスの送迎って、朝の自宅からの送り出しと、夕方の自宅へのお戻りに集中するのです。だから日中は送迎車が使われない時間が生じます。今回のようにゴイッショのシステムを使って送迎業務をアウトソーシングすることで、日中、送迎業務がない時間帯に例えば福祉用具をご利用者の自宅に運ぶとか、通院が必要な方が出たらすぐに対応するなどのイレギュラーに使うこともできるのです」(岡本さん)

 三豊市での試みは本番に向けたプレ運行ということもあり、ご利用者や介護事業所の金銭的な負担はゼロだ。ダイハツはこの春から、ゴイッショの事業化展開を本格的にスタートさせる。

 「少しでも多くの事業者さんや介護分野に関する人材不足など地域での介護サービスの持続的な提供の資源に不安のある自治体さんにアピールしていきたいと考えています」(岡本さん)

 利用料金については事業所の数や規模によって様々だ。

 「現在検討中ですが、個々の導入形態によってその都度設定していくことになると思います」(岡本さん)

 こうしたシステムの運用を地元自治体が公費で賄うという未来があってもいいと筆者は感じる。移動手段の充実は地方創生のキーとなり得るはずだ。

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)