2000年に故郷の宮古島に「ドクターゴン診療所」を開設し、20年以上も訪問診療に取り組んでいる泰川恵吾氏。緊急時には、ジェットスキーで大海原を疾走して離島の患者のもとへ駆けつけることもあるほどの熱意と行動力で、高齢化が進む宮古島の医療を支えている。2010年には神奈川県鎌倉市にも「ドクターゴン鎌倉診療所」を開設。現在は宮古島と鎌倉を行き来する形で、双方の訪問診察に対応している。同氏の思いや取り組みを追った。

ドクターゴン診療所院長の泰川恵吾氏(写真:近藤 寿成、以下同。現地の取材は2021年12月中旬に実施)
ドクターゴン診療所院長の泰川恵吾氏(写真:近藤 寿成、以下同。現地の取材は2021年12月中旬に実施)
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 泰川氏が訪問診療に取り組もうと思ったきっかけは、医師になってから長年携わってきた救命救急で感じた「現状のままだと、救命救急はいずれ立ち行かなくなる」(以降の「」はすべて泰川氏)との危機感だという。

 泰川氏によれば、救命救急に運ばれてきた患者がもし心肺停止になった場合、その患者が末期がんや寝たきりの高齢者であっても「医師は当然、心臓マッサージをして蘇生させようとする」。なぜなら、医師は連れ込まれた患者がそれまでにどういった状態だったかは知る由もない上に、心肺が停止した場合は「5分以内に蘇生させないといけない」からである。

 しかし、超高齢化によって末期がんや寝たきりの高齢者がどんどん救命救急に運ばれてくるような状況になった場合、対応できる医師の数やICU(集中治療室)などの不足によって、交通事故にあった子供や心筋梗塞になった働き盛りの中高年などを、病院が受け入れられないケースは十分にあり得る。泰川氏はその点を危惧する。

 そこで、問題を解決するためには「普段から末期がんや寝たきりの高齢者を診ておき、最後の看取りまですれば良いのではないか」と考えた。それが、故郷の宮古島にドクターゴン診療所を開設し、訪問診療をスタートさせた経緯である。

ドクターゴン診療所の外観
ドクターゴン診療所の外観
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 「訪問診療を利用している寝たきりの高齢者からは『夫婦で一緒にいられて嬉しい』と感謝してもらえることもあり、そう言ってもらえると私も嬉しい。一方、若者が末期がんになってしまった場合、病院でそのまま死んでしまうというのは本当に辛いこと。だからこそ、『死ぬときは自分の家で死なせてあげたい』と私は思っている。特に、昨今はコロナ禍の影響で病院での面会も難しい状況。誰とも会えずに死んでいくのは嫌ですから、そういった点は非常に重要だと考えている」