超高齢社会における介護事業所の課題とは――。そのポイントなどを探るべく、訪問診療を手掛ける「ドクターゴン診療所」と連携した取り組みを進める、沖縄県宮古島市の小規模多機能型居宅介護事業所「ぷくんみ」を取材した。

沖縄県宮古島市の小規模多機能型居宅介護事業所「ぷくんみ」(写真:近藤 寿成、以下同。現地の取材は2021年12月中旬に実施)
沖縄県宮古島市の小規模多機能型居宅介護事業所「ぷくんみ」(写真:近藤 寿成、以下同。現地の取材は2021年12月中旬に実施)
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 ぷくんみは、宮古島市の南東部にある小規模の介護事業所。日帰りのデイサービスや一時預かりのショートステイに加えて、必要であれば訪問介護にも対応するなど、幅広い介護サービスを提供している。小規模ながらも「ファミレスのような便利さがある」と同所のケアマネジャーは表現する。

 現在のスタッフ数は12人、看護師は3人で、ショートステイ用として9部屋を用意。利用登録者の最大は29人で現在は26人だが、近年は上限に近い人数で推移している。そのため、タイミングによっては利用登録できないケースももちろんあり、ケアマネジャーは「それだけニーズがあることの現れだろう」と語る。

お話を聞いたぷくんみのケアマネジャーと介護士
お話を聞いたぷくんみのケアマネジャーと介護士
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 実際、宮古島市の医療や介護に関する現状は、一筋縄ではいかない状況にある。例えば、市の調査によると、宮古島市の男女は全国や県の平均よりも生活習慣病の原因である「肥満」が多くなっているほか、男性は腎機能を評価する「クレアチニン」も高い傾向にあるという。また、介護費用は全国や県の平均より高くなっているのに対して、医療費は低いといった特徴がある。

 死因の比率についても「がん」は全国や県の平均と比べて低いのに対して、「心臓病」や「脳血管疾患」「糖尿病」は高い傾向にあるという。そのため、宮古島市民は「生活習慣病の治療を行わずに重症化させてしまい、最終的に介護に至ったり死亡したりしてしまったりする傾向がある」ことが見えてくる。

ぷくんみの内観
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ぷくんみの内観
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ぷくんみの内観

 こういった傾向は、ぷくんみのケアマネジャーや看護師も肌で感じている。例えば、ぷくんみのある島の南東部は、空港や病院、繁華街などがある北西部からかなり離れており、そこへ行くためには車でも30~40分程度はかかってしまう。そのため、土地柄と相まって周囲には農業をしている「独居の高齢者」がかなり多い。そういった人たちは手間などを嫌って「ちょっと痛い程度なら我慢してしまい、なかなか病院へ行かない」(介護士)という。

 さらに、仕事をリタイアして地元に帰ってきた男性などは、周囲に都会のような娯楽がほとんどないため「朝から集まってお酒を飲むこともあり、アルコール中毒になってしまう人も少なくない」(ケアマネジャー)のだそうだ。

 このような背景もあり、ぷくんみを利用する高齢者は「何らかの疾患を抱えている人が多い」(ケアマネジャー)。しかし、利用者の容体が急変してもケアマネジャーや介護士にできることは限られるため、大事な利用者を預かる身としての不安は尽きないという。このようは状況にあって、その不安を解消する大きなポイントとなっているのが、島内のドクターゴン診療所などが展開する「訪問診療」である。

利用者と医師が個別に契約

 訪問診療は、基本的には利用者と医師が個別に契約する。ぷくんみの利用者の場合は、ショートステイで寝泊まりする人のほとんどが契約しているほか、その他のデイサービスの利用者なども1/3は契約しているとのこと。利用者と医師の間にケアマネジャーや看護師が立ち、「利用者に何かあったら医師に連絡をする」といった対応をする流れになる。

 ドクターゴン診療所院長の泰川恵吾氏の場合は、少なくとも週に1回は訪問診療でぷくんみを訪れているという。これに加えて、利用者に何かあれば当然緊急で駆け付けることになるため、週に数回出向くことも少なくない。

訪問診療でぷくんみを訪れる泰川氏
訪問診療でぷくんみを訪れる泰川氏
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 泰川氏は、緊急搬送が必要になった場合には、搬送先の医師とのやり取りなども積極的に対応するほか、訪れた際には別の利用者の診療にも柔軟に対応するとのこと。このように迅速かつ柔軟に対応してくれる訪問診察の存在は、ぷくんみのケアマネジャーや看護師にとって非常に大きな安心感となっており、「何かあったときはしっかり対応してくれるので、とても助かっている」と強い信頼を寄せている。

 もちろん、緊急時ではない定期的な訪問診察についても、ケアマネジャーや看護師にとっては大きな助けとなっている。なぜなら、何かあったときの対応はもちろんだが、「特に何でもないと思われるときでも、訪問診察によって問題を早期に発見できるということは、質の良い介護につなげられる」(ケアマネジャー)からである。それだけに、介護事業所にとっては今後、訪問診療が「不可欠になるだろう」(ケアマネジャー)と、その利便性や安心感の高さを実感している様子だった。

ぷくんみは元々幼稚園だった場所を改装して作られた。そのため、庭にはそのころの遊具などが残っている
ぷくんみは元々幼稚園だった場所を改装して作られた。そのため、庭にはそのころの遊具などが残っている
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距離の壁を減らせる仕組みの実現を

 この訪問診察の質を支えるツールの一つが、携帯型の超音波診断装置(ポケットエコー)だという。泰川氏は、GEヘルスケアの「Vscan Air」を活用している(関連記事:GEヘルスケアのポケットエコー「Vscan」が新たな進化)。ぷくんみにおいては、2021年だけでも緊急搬送につながる異常を同ポケットエコーを使った検査で3回見つけているそうだ。

Vscan Airを使って利用者を診察する泰川氏
Vscan Airを使って利用者を診察する泰川氏
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 そもそも、ひと昔前であればエコー検査は病院で行うのが普通だった。しかし近年は、ポケットエコーの登場によって病院以外でも手軽にエコー検査を実施できるようになっており、様々な疾患の早期発見につながっている。こういった点も、ぷくんみのケアマネジャーや看護師にとっては大きな安心感となっており、ポケットエコーの導入がさらに進めば「介護事業所にとっても非常にありがたい」と語る。

 一方で、まだ残る課題の一つが、病院のある北西部までは「車でも数十分かかってしまう」という点だ。そのため、今後期待するのは「距離の壁を減らせるようなテクノロジーや仕組みの実現」である。

 実際、泰川氏がぷくんみに来るまでには少なくとも30分程度はかかってしまう。それだけに、その時間さえもなくせる遠隔診療などは、求められる仕組みの1つ。介護事業所の利用者が今後さらに増えるとなれば、そういった仕組みへのニーズはますます高まる。

 現在泰川氏が使用しているVscan Airは遠隔機能を備えており、ぷくんみにいる看護師がVscan Airを利用者に当て、その映像を遠方にいる医師がリアルタイムにチェックすることが可能だ。こうした技術や仕組みが正式に導入されれば、医師も介護事業所も手間や負担を減らすことが可能になり、「もっと質の良い介護ができるようになるはず」とぷくんみのケアマネジャーや看護師は語っている。

(タイトル部のImage:近藤 寿成)