複数の原因が重なっており、レントゲンなどの客観的検査でも原因を特定できないことが多い「腰痛」。しかし近年、慢性腰痛の原因として“脳”の機能がかかわっているとの研究が多く発表されているという。実際、慢性疼痛治療ガイドライン(厚生労働省、2018年)では、ストレスや恐怖を減少させる「認知行動療法」が、腰痛をはじめとした慢性疼痛や繊維筋痛症などの治療に対して「A」(行うことを強く推奨する)とランク付けされている。

こうした中、アプリとセンサーを用いたトレーニングで脳の状態をコントロールすることで、慢性腰痛患者の痛み緩和を目指す実証実験を、田園調布 長田整形外科が実施。国際疼痛学会の痛みの定義に従い、トレーニング前後でスコアを比較し効果を測定した。まだ小規模実証の段階で、より精度の高い科学的な検証はこれからだが、今回の取り組みの背景や実証の結果、今後の展望などについて、同院 院長の長田夏哉氏に聞いた。

曖昧だった“脳”が可視化されてきたことで…

今回の取り組みの背景として、まずは腰痛を取り巻く現状について教えてもらえますか。

 日本人の国民病と言われるように、腰痛は高血圧などと並んで罹患率が非常に高いものです。ですが“これで腰痛が治る”という明確な治療指針はなく、痛みには多方面の原因があると言われています。なぜなら生体で起きることは1対1の対応ではないからです。

田園調布 長田整形外科 院長の長田夏哉氏(写真:皆木 優子、以下同)

 例えば風邪を考えてみてください。いろんな場所でウイルスを浴びても風邪を引かない人がいます。腰痛はまさにそれで、原因がこれだと言い切れないケースが多いのです。レントゲンやMRIの発達により、器質的(組織や器官が物質的、物理的に損傷を受けている状態)な腰痛に関する技術はどんどん進化してきました。でも器質的な変化がなくても痛みがある人、もしくは器質的な異常があるのに痛くない人がいるのが現状です。これら原因不明の非特異な症状が比較的多いため、腰痛は難しいとされています。

すべての症状が器質的なわかりやすさを伴っているわけではないと。

 そうです。経験上、医師は痛みに関する違った要素が入っていることを何となく感じています。一方でそれを言い出すとキリがありません。結果的にレントゲンで撮影した腰痛と症状が一致していれば、それを直接の原因としているのです。

 しかし徐々に、腰痛に心理的要素が関係しているのではないかと注目されてきました。ただ、腰痛を精神的な問題と言われることを患者が嫌がるのも事実です。加えて医師も、精神的な問題で片付けたくないとの思いがある。

今回の実証実験に用いたアプリ「Myndlift(マインドリフト)」と簡易脳波計「Muse 2」

 問題なのは「心」がどこにあるのかということ。最も科学的に証明されているのは脳ですが、脳に対する評価が近年、大きく変化しています。その背景にはfMRI(機能的磁気共鳴画像)のように、脳を機能的に画像で捉えられるようになってきたことが挙げられます。曖昧だったものが可視化されると医師も患者も納得できるわけです。