涙の中に含まれるエクソソームを調べることで、乳がんかどうかがわかる──。そんなまったく新しい検査法の開発が進行中だ。エクソソームはさまざまな細胞から放出される100ナノメートル程度の大きさの細胞外小胞の一つ。がん細胞から出るエクソソームは、がんの増殖や転移に関わることが明らかになっており、体の負担が少ないキリッドバイオプシー(液体生検)によるがん診断のバイオマーカーとして大いに注目されている。
神戸大学大学院工学研究科の竹内俊文教授らは、分子インプリンティング技術を用いて、このエクソソームを超高感度に検出する測定法を開発した。超高感度ゆえに、「涙」という微量な検体でも測定が可能。しかも従来の検査法に比べ、簡便かつ迅速にがん細胞由来のエクソソームを識別できるという。今後は臨床試験によるデータを蓄積し、2022年度までの実用化を目指す。涙が乳がん早期発見の立役者になるというユニークな検査法に期待大だ。
ドライアイの検査で用いるシルマー試験紙を目尻に挟んで、待つこと数分。試験紙に涙が滲んで青色に変わってきたら、涙の採取は終了。あとは自動分析計で涙の中のエクソソームを測定すれば、乳がんかどうかがわかるというのだから、驚きだ。乳がんの検査といえば、乳房を強く圧迫してレントゲン撮影をする乳房マンモグラフィや超音波検査が一般的だが、それに比べるとあっけないほどに簡単で、受ける側の負担はすこぶる軽い。
それにしても、乳がんの検査になぜ「涙」なのか。神戸大学大学院工学研究科の竹内俊文教授は次のように語る。
「エクソソームは体液中に存在するので、もちろん血液や唾液などから検出することもできる。ただ血液中には食事から摂取した栄養素など様々な物質が溶け込んでいるし、唾液ともなれば食べかすや細菌なども多い。その点、涙にはそういった夾雑物(きょうざつぶつ)が少なく、生体試料として非常に魅力的。涙液中のエクソソームは血液中に比べると10の1から100分の1程度と少ないが、私たちが開発した超高感度の分析計を使えば、十分に測定できる」
涙が魅力的な点は他にもある。前述したように、検体採取が非常に容易なことだ。被験者自身が簡単に短時間で採取できるし、マンモグラフィのような痛みも伴わない。わざわざ病院に足を運ばなくても、自宅や近所のドラッグストアなどで自己採取をして検査機関に送るといった方法も将来的には可能だろう。多くの女性が手軽に検査を受けられるようになれば、早期に発見できる乳がんがもっと多くなる。