不織布の製造技術で極細繊維を紡糸

 では、ここまで細い糸をどのように作り出しているのか。それを実現するにはまず、適切な材料を選ぶ必要がある。東城氏らは同社が持つ材料の知見を活用し、細くなりやすい、柔らかい、十分な強度を備える、化粧品として使用可能な安全性を確保できるといった要求特性を満たすポリマーと溶媒の組み合わせや溶媒の濃度などを決めた。

 併せて同社は、極細繊維を吹き付ける機械技術の開発も進める。製膜には不織布を造るのに広く使われる「エレクトロスピニング(ES)法」(電界紡糸法)を採用した。ES法は、プラスに帯電したポリマー溶液をマイナスに帯電した対象物に向けて噴射し、極細繊維を得るもので、不織布の製造では広く使われている方法だ。

 東城氏らは当初、ファインファイバー膜をシートとして製品化することを考えて大型の装置を試作したが、極薄の膜を扱うのは難しいためアプローチを変更することになる。そして、肌に直接吹き付けるというアイデアを得て「分散型の生産装置」(東城氏)、すなわち家庭で使うことを想定した小型のディフューザーの開発へと舵を切る。さらにスキンケア向け製品では、美容家電の開発で実績のあるパナソニックの協力を得て小型化を図った。

 製品化したディフューザーは電池の電圧を増幅する回路を搭載しており、ノズルに電圧をかけてポリマー溶液に印加する。プラスに帯電したポリマーが近付くと必然的に肌表面はマイナスの電気を帯びるため、ノズルからポリマー溶液を噴射すると、ポリマーから溶媒が分離して糸を形成しながら肌表面に向かって飛んでいく。このとき、ノズルから出た糸が何らかの力を受けて揺らぐと同時に、糸が電気を帯びて反発し合い、遠心力が発生するため、糸は螺旋を描くように進む。遠心力が増幅されることで繊維が細くなるという原理だという。

 ポリマー溶液をパウチに収めて交換しやすくするなど、ディフューザーの使いやすさを向上(図4)。当然ながら、安全性にも配慮した。ノズルにかかる電圧は小さいものの、静電気よりも強いショックが発生する恐れもあるため、使用する上で必ず触れる部分、つまり持ち手にアースの機能を持たせて使用者の体に回路を形成し、放電しにくくしている。さらに、肌に近付けすぎると停止させて電圧がかかり過ぎるのを防ぐなどの工夫も盛り込んだ。

図4●ポリマー溶液を充填したパウチ
簡単に交換できるようにして、使い勝手の向上を図った

 材料や装置の開発過程で苦労したのは「色々な環境で使えるようにすること」(同氏)だった。ES法は、いったん紡糸してから平面に加工する方法と異なり、ポリマーから直接加工できるのが利点。その他にも、常温で加工できる、さまざまな材料を紡糸できるといった特徴がある一方で、周囲の環境によっては紡糸しにくくなるという欠点もあるのだ。

 「夏と冬では湿度が異なり、静電気の発生の仕方も変わってきます。夏は電荷が逃げやすくなって紡糸しづらくなる。そこで、ポリマー溶液の設計によって電気的な特性を制御することで、季節を問わず安定して紡糸できるようにしました」