心臓病は、がんに次ぐ日本人の死因第2位。なかでも多いのが心筋梗塞に代表される虚血性心疾患だ。冠動脈が急に詰まる急性心筋梗塞を起こすと命に関わるため、一刻も早い治療が必要。医療現場では患者の病院到着から90分以内に冠動脈の血流を再開させる治療を行うことが求められている。ただし、問題は診断に時間がかかることだ。心臓CT(コンピューター断層撮影)検査では、画像解析に数十分から1時間程度かかるのが実情。一分一秒を争う救急現場では、この時間をいかに短縮するかが喫緊の課題となっている。

そんななか注目されているのが、AIを活用してCT画像を短時間で自動解析する新技術だ。小倉記念病院(福岡県北九州市)循環器内科の山地杏平医師がGEヘルスケア・ジャパンと共同で研究を進め、数年以内の実用化を目指している。時間との戦いの救命現場にとって朗報となりそうだ。

「こんなん、やってられんわ」の思いから着想

 突然、激しい胸痛に見舞われる急性心筋梗塞。心臓の筋肉(心筋)に酸素と栄養を運ぶ冠動脈が急に詰まり、血流が途絶えて心筋が壊死してしまう病気だ。救命のためにはできるだけ早く冠動脈の血流を再開させる「再灌流療法」を行う必要がある。現在、再灌流療法の主流は、「PCI(経皮的冠動脈インターベンション)」だ。脚や手の血管からカテーテルを挿入し、詰まった冠動脈をバルーンで押し広げ、そこにステントと呼ばれる金属でできた網状の筒を留置して血管の狭窄を防ぐ。

詰まった冠動脈を再開させる
PCIを行う山地医師。冠動脈の一部が完全に詰まってしまう心筋梗塞や、心筋梗塞に移行しそうな不安定狭心症の場合は、一刻も早くPCIを行う必要がある(写真:飯山 翔三)
治療前
治療後
PCIで血流が再開
冠動脈造影検査の画像。治療前=冠動脈の一部が詰まり、血流が途絶えている(矢印部分)。治療後=PCIにより冠動脈の狭窄部が広げられ、血流が再開した(画像提供:山地医師)

 症状や問診、心電図、血液検査などから急性心筋梗塞を起こしていることが明らかな場合はすぐにPCIを行うが、実際には判断に迷う症例も少なくない。そんなとき、冠動脈の状態を詳しく調べるために行うのが、心臓CT検査だ。ただし、問題は検査結果が出るまでに時間がかかることだと、小倉記念病院循環器内科の山地杏平医師は次のように説明する。

 「CTの撮影自体は5分ほどで終わるが、画像解析には手動による修正プロセスが必要で、手慣れた放射線技師が行っても数十分から1時間程度かかる。夜間や休日など技師が手薄なときは、さらに時間がかかってしまうことも珍しくない。急性心筋梗塞の診療ガイドラインでは、患者さんが病院に着いてから90分以内にPCIを行うことが推奨されているが、検査結果にこれだけ時間がかかると治療にも影響が出かねない」

 そこで考えたのが、AI技術を使って心臓CT検査の画像解析にかかる時間を短縮することだった。そもそも山地医師が「AIが使えるのでは?」と思いついた背景には、2014年から3年近くを過ごしたスイス・ベルン大学での経験があったという。山地医師は当時を振り返る。

 「当地で割り振られた研究内容は、山ほどの量の心臓血管画像を解析することだった。枚数にして約3万枚! 屋根裏部屋の研究室で1年半ほどかけて、来る日も来る日も画像を見続けた。コツコツ真面目にやりながらも、正直、『こんなん、やってられんわ』という気持ちがあったのも事実。そして、こう思った。『この種の作業は人よりAIの方が得意なんじゃないか?』と」。小倉記念病院では、留学前から心臓CTを担当していたこともあり、留学中のこの経験と気づきが、AIを使った心臓CT画像自動解析の新技術開発へと導いた。