「認知症になりにくいまち」は存在する

JAGESの調査によって、具体的にどのような健康格差が明らかになったのでしょうか。

 例えば下図の左のグラフは、1日に30分以上歩く後期高齢者の割合を右から多い順に並べたものです。

歩く人が多いまちでは認知症リスクを持つ人が少ない。左のグラフで、人口密度が高い都市的な自治体ほど、1日30分以上歩く人が多い。右のグラフでは、1日30分以上歩く人が多いほど認知症リスク〔手段的日常生活動作(IADL)低下〕者が少ないことが分かる(図:JAGESの資料を基にBeyond Healthが作成)

 水色は、人口密度が高い都市的な自治体で、右の方に集まっています。つまり、都市的な自治体の高齢者ほど、歩く人が多いことが分かります。考えてみると、人口密度が高い都会では公共交通機関が発達しています。駅までや乗り換え、駅から目的地まで500m(1分で60~80mとして6~8分)くらい歩いたりすることはよくありますよね。しかし田舎に行けば、同じ500mの距離を車で移動してしまう人の方が多いのです。

 実は、こうした環境の違いが健康格差を生み出します。右のグラフを見てください。横軸は1日30分以上歩く後期高齢者の割合、縦軸は認知症リスクであるIADL(手段的日常生活動作)の低下者の割合を示しています。IADLとは、「外出」「買い物」「食事の準備」「請求書支払い」「貯金の出し入れ」といった動作を独力でできるかどうかを評価するもので、できない人は認知症を発症しやすいことがわかっている指標です。ご覧の通り、1日30分以上歩く後期高齢者の割合が多い自治体ではIADLの低下者の割合が少ないというきれいな負の相関があります。

 次のデータも興味深いんですよ。縦軸は前期高齢者におけるIADL低下、すなわち認知症リスク者の割合で、53市区町村間で比べたものです。左側に多い青い棒は政令指定都市内の区を示していて、IADL低下者の割合が低い。つまり、政令指定都市は認知症になりにくいまちであるといえます。

市区町村別にみた、前期高齢者におけるIADL(手段的日常生活動作)低下者の割合。青は政令指定都市内の区、赤は可住地人口密度1000人以上の市町村、黄は同1000人未満の市町村を示す。青、すなわち政令指定都市の多くの区では認知症リスクが低い(図:JAGESの資料を基にBeyond Healthが作成)

 もう一度、データを見てください。左の青い棒の中に、一つだけ可住地人口密度が1000人以上のまちを示す赤い棒が混ざっていますよね。これは、愛知県の東浦町というまちなんです。徳川家康の母である於大の方が生まれたところで、車が通れない昔ながらの細い道が多く残っています。そんな古い町の隣にショッピングモールができた。ところが道が狭くて曲がっていたりして、車で行こうとすると遠回りしないと行けない。それよりも歩いていく方が早いわけです。そのため高齢者たちも、シルバーカーを押しながら一生懸命歩いて買い物に行く姿をよく見る。よく歩く環境がある東浦町では、認知症リスクが低いのです。

 先ほど、人口密度が高い都会では公共交通機関が発達しているから、そこで暮らす方は、よく歩くという話をしました。都市でなくても、東浦町のようなまちを意図的につくれば、よく歩いて認知症リスクが下がるのです。注目されているコンパクトシティでは、皆が歩いて健康になり、かつ車が減って地球に優しくなる──。こうした将来のまちの在り方の手がかりとなる、東浦町を発見できたのも、データを集めて見える化したからこそなんです。