山あり谷ありの開発秘話

 ミキサーにかけドロドロにした食品は飲み込みやすいかもしれないが、「美しさ」や「季節感」など、人間の感性に響く部分では力を発揮できない。食事はただ満腹になればいいというものではない。目の前の食べものを見て、「美味しそう」「ワクワクする」「食べたい」と感じることは生きることそのものと言っていい。

 ただ、手を組んだのが和食のプロと、医療のプロだ。両者を結びつけるバイリンガルはいない。当初は思いを伝えるのにも苦労があったという。

 「例えば『凝集性』という言葉。口の中で食物を咀嚼し、これを飲み込みやすいサイズにまとめる必要があります。そのときのまとまりやすさを凝集性という。これがないと、適切なサイズのショッカイケイセイができない」

 荒金氏の話に出てきた、「ショッカイケイセイ」は「食塊形成」と表記する。こちらは読んで字のごとく、食物の塊を口の中で作り上げることだ。

 医師側の専門用語を料理人が理解するのは一苦労。その逆の現象も当然起こった。

 「とくに京都の料理は、季節感を大切にします。食材それぞれについて出していい季節が決まっています。また食器の並べ方や色合い、料理の組み合わせ、 食材の下処理の手順などなど、各お店の伝統やしきたりが細かく決まっていて、これを理解するのに苦労しました」

 試食作り直しを繰り返し、足掛け7年でようやく「京介食」の全体像が見えてきた。すると欲も出る。