「楽隠居 楽に苦しむ」という言葉がある。楽隠居はしてみたけれど、やることがなくてつらい。という心持ちを表したものだ。人生100年時代といわれる。定年延長70歳の議論がかまびすしいが、裏を返せばまだまだ働きたい気持ちの現れでもあろう。楽隠居は言うほど楽ではない。国民はそこに気づき始めているわけだ。サービス内容に「働くこと」を取り入れて介護の質を上げる事業者の取り組みを追った。

 一瞬場所を間違えたのかと思った。サービス付き高齢者住宅「銀木犀 船橋夏見」(千葉県船橋市)の外観は、一般的な高齢者施設のイメージから大きくはみ出している。

 敷地を囲う壁はなく、手前の車道から直接エントランスのスロープに続く。訪問者をまず迎えるのは、「恋する豚研究所」という名の豚しゃぶレストランだ。地域でも人気の一店である。大きなガラス張りのその路面店に棟続きで、3階建てのサービス付き高齢者住宅(サ高住)はある。レストランとサ高住、両者の母体はシルバーウッドだ。

 「恋する豚研究所では、現在4人の(サ高住の)利用者さんに働いてもらっています」と語るのは同社代表取締役社長の下河原忠道氏だ。

 現在、銀木犀 船橋夏見では35人の高齢者が生活している。介護サービスの依存度は様々で、完全に自立している方から看取りの状態までと幅広い。

 「サ高住は、名前の通り『高齢者専用の住宅』というあつかいです。介護の必要はないけれど、日常生活に少し不安がある。といった比較的元気な方も暮らしています。つまり働ける方、働きたいと思っていらっしゃる方もたくさんいるということです」(下河原氏)

シルバーウッド代表取締役社長の下河原忠道氏(写真:末並 俊司、以下同)
サービス付き高齢者住宅「銀木犀 船橋夏見」の入り口

 銀木犀 船橋夏見の仕事はレストランだけではない。手前の道路から段差なく続くゆるいスロープをたどると、「駄菓子屋」の看板が見える。

 「こちらもご利用者に店番をお願いしています」(下河原氏)

 もともと建築業を営んでいた同社が介護サービス事業に乗り出したのは10年ほど前のことだった。下河原さんは介護事業について知るため、多くの高齢者に聞き取り調査を行った。そうしたなかでよく聞かれたのが「子どもたちが来てくれると嬉しいねぇ」っといった言葉だった。