医療や介護現場の課題に対し、ヘルスケア事業を手掛けるベンチャー企業に自分たちのソリューションを提案してもらい、解決を図っていく──。そんなことを目指したオンラインイベントが2021年2月26日に開催された。

 主催したのは、埼玉医科大学グループの埼玉医療福祉会。病院や介護施設等を運営し、ベッド総数1300床、職員数約1300人に上る大規模な社会福祉法人だ。同法人では、創立130周年記念を迎える2022年に向け、SDGs推進の観点から、ヘルステックを活用したサービスの質向上と職員の働きやすさの追求に取り組む方針を掲げている。ただ、これまでヘルステック系企業との接点が少ないという弱点があった。

 そこで取引先の埼玉りそな銀行に相談したところ、近年ヘルスケアベンチャーの育成・支援に積極的な関東経済産業局を紹介され、情報交換。法人のニーズを伝えると、同局が仲介役となって、その内容に合いそうなソリューションを持つベンチャー企業に声かけをして、各社のサービス内容をプレゼンしてもらうオンラインイベントを開催する展開になった。

オンラインイベントの様子。協力した関東経産局や埼玉りそな銀行も参加。登壇企業や埼玉医療福祉会の現場とはオンラインでつなぎ、活発な意見交換が行われた(写真:Beyond Health)
オンラインイベントの様子。協力した関東経産局や埼玉りそな銀行も参加。登壇企業や埼玉医療福祉会の現場とはオンラインでつなぎ、活発な意見交換が行われた(写真:Beyond Health)
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新サービスの導入に対する現場の抵抗感を取り除く役目も

 この日、登壇したのは下記のベンチャー4社。このうち、abaについては、既にマッチングが成立し、今年1月からトライアル事業を開始しているため、先行事例として取り組みが紹介された。

(資料提供:関東経産局)
(資料提供:関東経産局)
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 abaが手掛ける「Helppad(ヘルプパッド)」は、ベッドに敷くだけで排泄を感知するセンサー。においに着目し、穴が開いたシートから空気を吸って尿や便を検知すると、介護者に知らせが届く仕組みだ。センサーからの通知は自動でシステムに記録され、介護される人それぞれの排泄パターンを分析してくれるので、排泄記録業務の負担を減らすことにも貢献する。

 介護される人は排泄をすればできる限り早くおむつを替えてほしい。また、介護者も早めに対応できれば、おむつからの尿や便の漏れを防ぐことができる。介護事業所で働いた経験を持つ同社代表取締役の宇井吉美氏は、「おむつを開けずに中身の状態が知りたい」という現場スタッフの切実な声に応えようと、製品開発を行ったのだった。

 プレゼンでは、そうした経緯も宇井氏の口から熱く語られた。

 埼玉医療福祉会でこのHelppadを用いてトライアルを実施しているのは、傘下の病院の緩和ケア病棟。プレゼン後の意見交換では、同院の看護師や居宅介護支援事業所のケアマネジャーの責任者から、次のような率直な意見が出された。

・シートを敷くだけとはいえ、患者さんに使ってほしいとなかなか言い出せずじまいだった。開発者の方の思いを聞いてもっと進んで活用すればよかったと感じた。

・センサーに汚水がかかると故障するような話も聞いていたので、使用することに慎重になってしまった。

・Helppadは在宅現場でのニーズも高いはず。

 2番目と3番目の指摘に対し宇井氏はそれぞれ、説明不足だったこと、また在宅向けのシステムは現在開発段階であることを伝え、埼玉医療福祉会に対し、この先、現場が使い勝手にいいものにするための助言を求めた。

 残る3社のプレゼンも同様に熱い議論が繰り広げられた。この3社については後日、埼玉医療福祉会が関心のあるところに関東経産局を通じて連絡が行き、実証事業に移る予定だ。

 病院や介護事業所でデジタル機器を活用しようと経営陣らが新サービスの導入を決めても、現場スタッフは使い勝手に戸惑うなどして抵抗感を示すことが少なくない。「今回こうして現場で働く医療・介護スタッフがベンチャー企業と生のやり取りをすることで、そのあたりのハードルが低くなるのでは」と、法人事務局次長の廿楽(つづら)一男氏は期待を寄せる。埼玉医療福祉会では引き続きベンチャー企業との連携を強化するとともに、品質改良や共同開発に向けての協力も進めていく。

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)