最近、マインドフルネスに並んで注目を浴びている考え方がある。それが「セルフ・コンパッション」だ。セルフ・コンパッションとは、自己に思いやりの心を向けることで、ネガティブな状況でも折れずに前向きな気持ちを持ち続けられる心をつくる心理的方法論である。日本におけるセルフ・コンパッション研究の第一人者である、関西学院大学文学部教授の有光興記氏に話を伺った。

 有光氏は、セルフ・コンパッションについて「自分の悪いところだけでなく、良いところにも気づき、受け入れることで、自分への温かく優しい感情を高めていくこと」と語る。その結果、「困難に対応できる力がつき、周囲と調和した行動が取れたり、幸福感が高まったりするなどの効用もある」。

 長引くコロナ禍が、ビジネスパーソンのストレスを高めている。ワクチンの開発・提供が進んでいるとはいえ、亜種の登場など、不安要素はまだ残る。緊張感のある生活が続く中、ビジネスパーソンには自分をうまくいたわりながら、目の前の仕事に向き合うことが求められる。

 ビジネスパーソンに、どのようにセルフ・コンパッションが有効なのか。また、実践の方法は。有光氏に聞いた。

自分自身を親友と同じように扱う

あらためて、セルフ・コンパッションとは何でしょうか。

 私たちはおしなべて、自分のことを非難してばかりで、自分を傷つけるような言葉を自分にかけたりします。また、自分を励ます場合でも、非常に厳しい言い方をすることが多い。自分に優しくするということは、あまりない。

有光興記(ありみつ・こうき)氏
関西学院大学教授。1971年兵庫県生まれ。関西学院大学文学部総合心理科学科教授。博士(心理学)、公認心理師。感情の問題に対処するために、自分への慈悲の心であるセルフ・コンパッションを高める方法を取り入れた心理療法の実践と研究を行う。2014年に、米国ボストン大学で慈悲の瞑想の臨床試験に参加し、マインドフルネス瞑想だけでは得られない効果の大きさを知る。現在、日本でも慈悲の瞑想を中心としたプログラムの効果検証を開始し、科学的な知見を集積している。その成果の一部は、『自分を思いやる練習』(朝日新聞出版、2020年)にある

 それでも親しい友人などには、優しい言葉をかけたり、慰めたりすることができます。親しい友人のように、自分にもその気持ちを向けていく、それがセルフ・コンパッションです。

 大きく3つの要素があります。まず1つは、「自分への優しさ」です。自分を優しく包み込むような言葉をかけます。もう1つは「共通性の人間性」というものです。これは、自分が持っている苦しみは他の人とも共通しているという認識を持つことです。

 3つ目はマインドフルネスです。人は自分がつらい気持ちになった際に、それを我慢しよう、あるいはなくそうとする努力をして、さらに混乱することがあります。そうではなく、自分のつらいことや悲しいことと、そして良かったことも受け入れるという取り組みを指します。