自分を甘やかすことではない

自分に優しくすることと聞くと、「自分を甘やかすこと」と結びつける向きもありそうです。自分に優しくするという考え方は、どのように捉えれば良いでしょうか。

 セルフ・コンパッションでは、「自分のため」を思って、自分に言葉をかけていきます。

イメージ画像(出所:Getty Images)
イメージ画像(出所:Getty Images)

 例えば、親友が仕事でとても困っていたとしたら、冷静に状況を聞いた上で、的確なアドバイスをしようと考えるはずです。後先を考えずに「しんどいんだったら仕事辞めたらいいよ」とは言わないはずです。つまり、セルフ・コンパッションには(優しく包み込むという女性的な側面もあれば)、いたわりつつも再び立ち上がれるように声をかける、といった男性的な側面もあります。

なるほど、自分の良き親友として、自分のことを考えて、声をかける。そのような姿勢が根底にあると考えると、セルフ・コンパッションの本質を理解しやすいわけですね。

 その通りです。ビジネスパーソンの中には、いつも自分に厳しくしている人もいると思います。ただ、そのような方でも「もし親友が自分と同じようなことで悩んでいたら、どのような言葉をかけますか」、と言うと、セルフ・コンパッションで自分に対してかける言葉の中身が変わります。

 つまり、私たちはセルフ・コンパッションのスキルは持っているけれども、それを自分に向けていないだけ、と言えるでしょう。

セルフ・コンパッションは、具体的にはどのように実践するのでしょうか。

 最初につらいことがあった際に取り組むセルフ・コンパッションのワークについて説明します。3つ挙げた要素のうち、マインドフルネスの取り組みが、それに当たります(筆者注:マインドフルネスは一般的には、今現在の身体感覚や感情、思考に注意を向けて、良いか悪いかの判断なしにそのままを受け入れること)。

 まず、自分がなぜ困っているのか、つらい気持ちなのか、ありのままを気づくことが大切です。ワークでは「つらい気持ちにまず気づきましょう」「言葉で表現するとどんな言葉になりますか」という質問から進めます。

 その中で、心の中に思い浮かんだ言葉をそのまま受け入れます。そうすると、自分が思っていた以上に、いろいろな言葉が浮かんできます。このようにして、自分の感情に「イライラ」「不安」「心配」といった具合にラベリングをしながら、「自分はこういうふうに思っているのだな、感じているな」ということを認識していきます(筆者注:一連のワークについては、有光氏の著書『自分を思いやる練習』(朝日新聞出版)に解説されている)。

言葉をメモ帳などに記録することは必要でしょうか。また、いわゆるマインドフルネス瞑想として、落ち着いた場所に座って目を閉じるなど、瞑想状態に入る必要はありますか。

 メモを取る、あるいは姿勢を正して目を閉じるといった瞑想のやり方を取る必要はありません。感情や気持ちは、浮かんでは消えていくものなので、「何か浮かんできたものがあるな」と感じてもらうだけで構いません。

 ただ、本当につらいことがあったときは、非常に気持ちが動揺します。そのため、普段からマインドフルネス瞑想などに取り組んでいるほうが、このワークはうまくいきやすいと言えます。

自分を癒やせば他者への理解も進む

 次の「共通の人間性」では、自分の悩み苦しみが他者も同じように経験していることに意識を向けます。例えば、仕事の人間関係で苦しんでいるときは、「自分だけなぜこんな目に遭っているんだ」「誰も助けてくれない。もうおしまいだ」という孤独感に苛まれることがあります。その逆に広く世間のことを考えてみると、同じような立場で同じような苦しみを感じている人がいることに気づけます。このように共通の人間性を再認識することで、他者との一体感やつながり感が生まれてきます。

 最後に自分に優しい言葉がけをしていきます。まず、なるべく自分の良いところを思い浮かべます。そして、「自分のことを理解している人が、自分に優しい言葉かけをする」と考え、今悩んでいる事柄についてその人から言葉がけをしてもらっている状況を思い浮かべます。

 ここで、批判的な傾向がある人だと、言葉掛けの内容が思い浮かべにくいことがあります。そこで、「自分の親しい友人が横にいる、もしくはその人が自分を抱きしめてくれている」といった状況を設定します。そうすると、親友から言葉を聞いているような感じで、優しい言葉が聞こえてきます。このようにして十分に自分を受け入れて、傷ついた心を癒やすことで、やる気が回復してきます。