いつでも実施可能な「慈悲の瞑想」

セルフ・コンパッションで推奨される取り組みの1つ、「慈悲の瞑想」は非常に特徴的ですね。私も実践してみましたが、頭が落ち着く感覚を得ました。

 「慈悲の瞑想」は最もベーシックな取り組みです。先に説明してきましたワークはつらいことに直面した際に実践する方法です。ただ、つらいことがあった際には混乱しやすい。つまり、いきなりセルフ・コンパッションに取り組もうとしても、うまくいかないこともあります。

 しかし慈悲の瞑想は、いつでもどこでもできます。また現時点で何か困ったことがなかったとしても効果が期待できます。

 例えば慈悲の瞑想では、「自分が安全でありますように」「自分が幸せでありますように」「自分が健康でありますように」「自分の悩み苦しみがなくなりますように」と、心の中で語りかけます。これは、傷ついた自分を癒やすための言葉ですが、現在、特に困っていることがなくても、これを唱えることによって、気分が良くなる、あるいは優しい気持ちになれます(筆者注:慈悲の瞑想の具体的な方法は、記事最後に掲載)。

 優しい気持ちになれば、自然と他者にも優しい気持ちを向けられます。当たり前のことですが、人は誰しも自分そして他者の幸せを願っていて、失敗を重ねながら努力して生きています。こうした共通の人間性が理解できれば、上司や部下など、他者のこともありのままに観察できるようになります。そうすると、苦手な人や嫌いな人もつらい状況の中でも何とか仕事をこなそうとしているだけなんだと思えてきます。このように他者にも慈悲の気持ちを向けることで、優しい態度でいられるようになり対人関係も改善していきます。

慈悲の瞑想を思いついたときに実践して、心の状態をつくっておくと、つらいことが起きた場合にセルフ・コンパッションのワークにも取り組みやすい、ということですね。

DNAレベルでも効果が認められた

セルフ・コンパッションには心理学的・医学的なエビデンスもあるとうかがっています。

 はい。慈悲の瞑想について、テロメアに着目しながら効果を検証した研究が2019年に発表されています。DNA中にはテロメアという細胞の寿命を決定する要素があります。これは短くなればなるほど細胞が死滅しやすくなる。ストレスが加わるとテロメアは短くなります。

 この研究では、12週間何もしないグループ、マインドフルネスに取り組むグループ、さらには慈悲の瞑想に取り組むグループを設定して調査しました。その結果、慈悲の瞑想に取り組んだグループは、何もしないグループやマインドフルネスに取り組んだグループよりもテロメアが短くなりにくいということが分かりました。

 セルフ・コンパッションに取り組むと、自分への肯定的感情に加えて他者への肯定的感情を感じやすくなります。このため、一般的なマインドフルネスとはまた違う効果があるのではないかと考察されています。

 ほかにもセルフ・コンパッションには脳や免疫系の側面から調べた研究があります。セルフ・コンパッションは肯定的感情や協調的幸福感といった主観的な要素は当然変化しますが、脳、免疫系、さらにはテロメアのようなDNA単位でも影響があるというのは、興味深いところです。