高ストレス環境下で効果を発揮する可能性

日々の業務に取り組むビジネスパーソンにとって、この慈悲の瞑想や、セルフ・コンパッションのワークは、どのように活用できそうでしょうか。

 まずビジネスパーソン個人について言いますと、先に紹介した研究成果からもわかりますように、メンタルヘルスが向上します。また、高ストレス環境下において、ストレスの感じ方を軽くすることができます。

 コロナ禍の中で、ストレスにさらされ、精神的な面での悩みを抱える方が多くなっています。このセルフ・コンパッションに取り組み、自分に思いやりの気持ちを向けることで、落ち着いた状態に戻って、適切な判断をし、建設的に考え、効果的な行動を起こし、ストレス経験自体をバネにする、つまりレジリエンス(困難に直面した際の精神的回復力)が高まることが見込めます。セルフ・コンパッションを基本スキルとして備えるとよいのではないかと考えます。

 チームについて言いますと、人は高ストレス状態にあると、人間関係に問題が出やすくなります。その起点となるのは、自分です。自分に対する思いやりの気持ちが足りていないと、他者への思いやりの気持ちも持ちにくい。そのため、まず自分への思いやりを向けるセルフ・コンパッションは有効です。

 また、チームを率いるリーダーの在り方としても、セルフ・コンパッションの姿勢は有効です。例えば自分も部下も、悪いところばかりではなく良いところを見つけて励ますというチームのあり様も、セルフ・コンパッションの範ちゅうです。

 米グーグルなどが推奨しているようなマインドフルネスのトレーニングでも、セルフ・コンパッションに類する考え方に言及されており、望ましいチームには、それがあるとしています。例えば相手を理解し共感する「謙虚さ」の重要性が取り上げられています。この概念を通じて、単なるパフォーマンス向上を目指すだけではない、また社内で自分の能力を見せつけることでもない、お互いにサポートし合う心の持ちようの重要性を語っています。

 このような心の持ちようが良好なチームワークを助け、結果として業績アップにつながりやすいことは間違いないでしょう。

良好なサポートは、チームメンバーへの思いやりの心から生まれるということですね。

 はい。心理学では好循環をつくる状態を「希望」と言っています。例えば「将来の展望が開ける」という状態は、希望を持つことによってつくられます。(心の中に)希望が持てれば、チャンスが目に入ってきやすくなるためです。好循環に入っているチームや企業はまさに、希望がある状態であり、また、本当の創造性が発揮されている状態だといえます。

 企業の経営環境には当然波があって、調子の良い時もあれば、落ち込む時もあります。落ち込んだ時こそ、希望を見いだす力を引き出すセルフ・コンパッションが必要ではないでしょうか。


慈悲の瞑想の方法

 ここで解説する慈悲の瞑想は、自分や他者の幸せ、悩みや苦しみがなくなることを願う瞑想法である。「安全」「幸福」「健康」「心の平安」という4つのカテゴリーについてフレーズをゆっくり、優しく、丁寧に、繰り返し唱え、自分または他者を優しさで包み込んでいく。

 「優しさや愛情、感謝といった感情を経験すると共に、自分と他者は区別なく同じ生命という普遍的な事実に気づくこともできる」(有光氏)という。

 フレーズの冒頭を「私が」とした以下の慈悲の瞑想は、セルフ・コンパッションを向上させる基本的な瞑想法である。これを繰り返し唱えていった次に、恩人、好きな人、中性(好きでも嫌いでもどちらでもない)の人、嫌いな人、生きとし生けるものへと、徐々に対象を広げていく。

【「安全」のフレーズの例】
・私が安全でありますように
・私が危険でありませんように

【「幸福」】
・私が、幸せでありますように
・私が、優しい気持ちでありますように

【「健康」】
・私が、健康でありますように
・私の心と身体に、やすらぎが訪れますように

【「心の平安」】
・私の悩み苦しみがなくなりますよう
・私の欲、怒り、嫉妬がなくなりますように

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)