「楽しく動く」から「身体機能改善」へ

 現行のRehaVRには指導者用のタブレットが付属しており、利用患者ごとに身長、体重、運動時の距離と時間、消費エネルギーなどが記録できる。

 また、利用患者がヘッドセットで見ている映像は、タブレットでも同時上映される。映像は利用患者の顔の向きや角度とも連動しているので「右に何がありますか?」「次はここまで行きましょうか」といった声かけも可能だ。

導入病院でのシーン
回復期リハビリ病棟を持つ病院での利用例。脳卒中の後遺症がある患者に理学療法士がつき、タブレットで同じ映像を見ながら声掛けをしている(写真:silvereye提供)

 映像は希望するものをダウンロードして使う。国内観光地をはじめ現在100本以上あり、今後も増やす予定という。

 システムの費用は本体、好きな動画のダウンロードを含むサブスクリプション方式で月3万円(税別、2020年3月時点)。初期費用は不要でダウンロード制限もない。

 今のところ病院や高齢者施設を対象にB to Bで展開しており、2019年9月の販売開始後、現在まで約半年で関東を中心に12施設が導入。今後、東海や関西にも販路を広げ、今年内に300施設の導入を目指す。

 「昔旅行した場所の景色が見られ、夢中でペダルを漕いでしまいました」(利用者)

 「浜辺の波打ち際を歩いたり、犬と散歩したりと、施設にいるとできないことを、仮想体験できて楽しかったです」(利用者)

 「同じ映像を見られるので、作業療法士や理学療法士からの患者指導がしやすくてよい」(医療・介護施設関係者)

 「将来的に、介護アウトカム評価の助けになることが期待される」(医療・介護施設関係者)など、導入施設や利用者からも好評だ。

 現状は、リハビリを続けるモチベーションを上げることが主な狙いになっており、リハビリ効果を向上するか、などの検証はこれからだ。とはいえ、一部の医療機関では、機能改善やADL(日常生活動作)向上、さらには在院期間の短縮を念頭においた試みも始まっているという。

ペダルをこぎながら、画面の奥から手前に飛んでくるボールの番号(画面では右の6のボール)を読み取る、など、二つの動作を同時に行うような訓練もできる(写真:大久保 惠造)

 「たとえば、数字が書いてある風船が飛んでくるといったオプションを景色の映像に付加して使ってもらっています。ペダルをこぎながら風船を目で追ったり、数字を読み取ったり、風船に手を伸ばしたりする動作が、実生活での自立度を上げるバランス制御(姿勢を保つ機能)や神経系(ものを認知し、働きかける機能)の改善につながるかどうかを、今後検証したいと思っています」(今泉教授)

 RehaVRの基本システムは、医療分野以外への応用も可能だ。「例えば教育分野。子どもたちが屋内で安全に体を動かして遊ぶのにも適していますので、放課後デイサービスなどの施設にプレゼンテーションを行っているところ。またVR技術は製造業や建設業現場の安全管理シミュレーションも得意。工場のレイアウトや動線の設計、作業者のトレーニングなどに役立てられる」(汲田社長)。同社ではVR/ARを使ったソリューションやプラットフォームを企画から開発まで手掛ける。多様な業種との連携にも積極的だ。

RehaVRの今後の展望
VRを導入することで、患者のモチベーションが上がり、それがリハビリを促進し、リハビリ自体の質も向上する。それにより患者の心身の機能向上やADLの向上が実現して、QOLアップにつながる(図:今泉教授の資料を基にBeyond Healthが作成)

 “高齢化先進国”の日本で、今後、世界的な普及が見込まれているVR技術が健康長寿にどれだけ貢献できるのか──。挑戦は始まったばかりだ。

注)
VR:「Virtual Reality」の略で、日本語では「仮想現実」と訳される。ディスプレイに映し出された仮想世界に、自分が実際にいるような体験ができる技術。

AR:「Augmented Reality」の略で、日本語では「拡張現実」と訳される。VRは「別の仮想空間」を作り出すのに対し、ARは現実世界にCGなどによるデジタル情報を付加、つまり、現実世界に仮想現実を反映し拡張させる技術といえる。

MR:「Mixed Reality」の略で、日本語では「複合現実」と訳される。現実世界の情報を、カメラなどを通して仮想世界に反映させる技術。同じMR空間にいる複数の人間が、同時にその情報を得たり、同じ体験ができたりする。

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)