医療や介護の現場に絵画・写真作品・音楽・ダンスといった芸術を導入する「ホスピタルアート」が広がりを見せている。一歩先んじる英国では、音楽療法により認知症患者の興奮を鎮めた結果、薬物の投与を削減できたという調査結果も出ている(英The Culture, Health and Wellbeing Allianceの報告書『Creative Health: the Arts for Health And Wellbeing July 2017』より)。

日本でもホスピタルアート導入の機運が少しずつ高まっている。大阪府堺市にある耳原総合病院は、ホスピタルアートに注力している病院の1つだ。2015年の新病棟建設をきっかけに本格導入を開始。国内でも有数の規模で展開しており、見学者が絶えないという。

「参加するアート」が院内を活性化

 その耳原総合病院でチーフアートディレクターとして活動しているのが、NPO法人アーツプロジェクト理事の室野愛子氏だ。2013年から同病院のアートディレクションに携わっている。

 室野氏のアートディレクションの特徴は、患者や病院のスタッフ、さらには地域の住民も巻き込んでいること。アートの企画・制作プロセスに参加してもらい、多様なステークホルダーの意見を汲み上げながら作品に反映させているのが特徴だ。

室野愛子(むろの・あいこ)氏。耳原総合病院チーフアートディレクター、NPO法人アーツプロジェクト理事。京都府宇治市に生まれ育つ。2004年NPO法人アーツプロジェクトに入会。2007年京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科卒業(芸術学士)、2009年にNPO法人アーツプロジェクト理事に就任。2013年に社会医療法人 同仁会耳原総合病院のアートディレクターに就任。2018年から現職。同病院にて虎頭加奈氏(音楽)、衞藤桃子氏(舞台芸術)、曽珍氏(ビジュアルアート)の4人で文化芸術の企画運営を担う(写真:室野愛子氏が提供)

 「アートが患者や職員の思いやりを表出できれば、優しい病院をつくることができる。そして院内、さらには院外とのコミュニケーションの媒体となる」と室野氏は語る。耳原総合病院におけるアートプロジェクトを通じて、医療活動を支援するアートの在り方を探る。

 室野氏は大学で芸術を専攻。「当時から『みんなが参加できるアート』の在り方を模索していた」と語る。

 耳原総合病院におけるアートプロジェクトのうち、特に参加型の色が濃いものをいくつか紹介しよう。まず1つ目は、2013年に実施した「新病院を想う・創る」。医局の壁面に、病院のシルエットをマスキングテープで描き、その中を職員が3原色の紙で埋めていくというものだ。

 耳原総合病院は当時、新病棟の建設計画を進めていた。新病棟に対する職員の関心をより強く喚起しようというのが狙いだった。紙には「どんな病院をつくっていきたいか」をひとこと書いてもらっている。

「新病院を想う・創る」。病院のシルエットの中に、「どんな病院にしたいか」をひとこと書いた紙を貼り込んでいく(写真:耳原総合病院が提供、以下同)

 当初、シルエットの中が紙で埋まるまでには6カ月くらいはかかるだろうと予想していた。だが奥村伸二病院長の呼びかけも功を奏し、予想に反して2~3カ月ほどで埋まったという。そこで今度は新病棟建設に関わっている建設会社の社員や近隣地域の住民など、外部から病院に関わっている人々にも呼びかけ、シルエットの外側に紙を貼ってもらうようにした。

 室野氏は「参加した皆さんは、自分自身がメッセージを書いて貼るという『表現』をしたことで、新しい病院への期待感をより具体的に意識できたのではないか」と見る。