パナソニックの社内デザインチーム「FUTURE LIFE FACTORY」では、3月25日まで東京・銀座で「DIG UP! あなたと考えるプロトタイプ展」と題し、近年のプロジェクトを展示。その中で、入社7年目の白鳥真衣子氏と6年目の東江麻祐氏は、「性についての普通」に問いかけを発する「YOUR NORMAL」を発表した。男性、女性という固定概念を超え、個「性」に向き合う提案とは?(聞き手は米川 瑞穂=日経BP 総合研究所)

「美容家電=女性専用」ではない

 男性向けの体毛用のトリマーで脇毛の形を整える女性。美容家電のスチームを顔に当ててメイクをする男性。美容機能のついた最新ヘアドライヤーでひげを手入れする男性──。美容家電とともに展示されているこのヴィジュアル(下写真)を見て、一瞬、驚いた人もいるのではないだろうか。「これは男性用」「こちらは女性用」と、私たちは今まで製品を無意識のうちに区分し、それが「普通」であると認識しがちだった。

「DIG UP! あなたと考えるプロトタイプ展」に設けられた「YOUR NORMAL」のコーナー(写真:齋藤 暁経、以下同)
「DIG UP! あなたと考えるプロトタイプ展」に設けられた「YOUR NORMAL」のコーナー(写真:齋藤 暁経、以下同)
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 2020年4月に本格始動した「FUTURE LIFE FACTORY」は「人々の価値観の変化や社会課題に焦点を当て、これからの豊かなくらしとは何かを問い直す」というミッションを掲げている。その中で、白鳥真衣子氏と東江麻祐氏の若手女性社員2人が、プロジェクトのテーマを「性」に設定したのはなぜなのだろうか。

 「人間の三大欲求のひとつなのに、性について話すのがなんだか後ろめたいのはなぜだろう、と考えたのがきっかけです」と白鳥氏。成長過程で向き合う身体的な変化や男女の関係、ジェンダーバイアスなど、性の問題で悩みを抱える人は少なくない。

 「思春期になっても親には相談しづらい。カップルになっても、相手の身体に何が起こっているかわからない。性についてもっと知り、オープンに語れる社会にできないかと、さまざまな人たちとコミュニケーションを取りながら、プロジェクトに取り組んできました」(白鳥氏)

左から、パナソニック「FUTURE LIFE FACTORY」の白鳥 真衣子氏、東江 麻祐氏
左から、パナソニック「FUTURE LIFE FACTORY」の白鳥 真衣子氏、東江 麻祐氏
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幼児が遊びながら学ぶ性教育絵本

 まずは、今まで見過ごされてきた幼児期の性教育に着目した。子どもが周りの大人たちと性について話し、一緒に遊びながら学べるツールとして、対象年齢を2歳から6歳と想定した絵本『YOUR NORMAL きみを かんがえる ほん』のプロトタイプを製作。

 洋服や髪型をマグネットで付けられるページでは、着せ替えるたびに「似合うね!」といった歓声が電子音で上がり、「男の子が髪を伸ばしても、女の子がブルーの服を着てもいい」という自由な価値観を体感できる。一方、男女の身体の部位の名称を学ぶページでは、ブラックライトを当てると答えが浮かび上がり、他人に触れさせない方がいい「プライベートゾーン」には、シールの下着を貼ったり剥がしたりできるなど、「性差」について学べる。こうした遊びを通じて保護者と対話し、身体について学ぶことで、幼児期から性についての理解を自然に身につけられることをコンセプトにした。

『YOUR NORMAL きみを かんがえる ほん』のプロトタイプ
『YOUR NORMAL きみを かんがえる ほん』のプロトタイプ
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 「この本を使ってワークショップを実施したところ、子どもたちは私たちが思いつかないようなコーディネートをたくさん考え出してくれました。“男の子はスカートやピンクの靴を履かない”といったジェンダーバイアスがかかる前に、自分はそもそも何が好きなのかを考えて形にし、それを素敵だと評価してもらえる経験をしてもらえればと思います」(東江氏)

様々な「普通」を見せるショートムービー

 また、このプロジェクトの一環として制作し、現在、FUTURE LIFE FACTORY のホームページやYouTubeで公開しているショートムービーでは、同性のカップルやメイクにいそしむ男性、男性的な趣味を楽しむ女性など、5組の出演者が登場している。彼らは役者ではなく、動画は実際の日常を切り取ったものだという。

「YOUR NORMAL」で制作したコンセプトムービーはホームページとYouTubeで公開(画像提供:パナソニック)
「YOUR NORMAL」で制作したコンセプトムービーはホームページとYouTubeで公開(画像提供:パナソニック)
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 「このフィルムを見た人の反応はさまざまです。微笑ましいムービーとして受け止める人がいる一方で、ギョッとする人もいる。でも、皆が自分らしく、楽しく毎日を過ごしているという現実を伝えたかった。思春期には、学校などの狭いコミュニティの中“自分は普通でない”と感じると深く悩んでしまいがちですが、一歩外に出れば、世の中には色々な“普通”が存在します。“普通”のかたちはさまざまだということをテーマにしました」(白鳥氏)

パナソニックが性の多様性に取り組んだ理由

 1951年に家庭用洗濯機を発売して以降、幅広い製品を生み出し、多くの一般家庭に「豊かなくらし」を提供してきたパナソニック。その中で「性」をテーマにすることに、社内からの抵抗はなかったのだろうか。

 「最初に“性”という言葉を出したとき、社内で驚いた人がいたのは事実です。当初は生殖までテーマにするアイデアも出していたこともあり、これまでの社内会議ではありえないような単語が飛び出してきたので、“性”をタブー視してきた人たちにとっては衝撃だったと思います。ただ、これからの多様性のあり方を考える上で、“性”は避けては通れないと考えたのです。そして今、フェムテックがクローズアップされるなど、多様性を尊重しようという動きは一層の高まりを見せています。“性”をテーマにしたプロジェクトを、このタイミングに発表できてよかったと思います」(白鳥氏)

 社内では意見交換やヒアリングを重ね、言葉の選び方や表現には細心の注意を払ったという。そして事業部に相談して形にしたのが、冒頭のヴィジュアルだ。従来の「一般的なターゲット像」とは異なる人たちが、自分らしい美しさを求めて美容家電を使っている。

 「女性はわき毛を剃るか脱毛する」という一般論通りにせず、わき毛を伸ばしている女性にとって、男性向けボディトリマーは、毛の微妙な長さや量の調整にちょうどいいという。そして自己表現のひとつとしてメイクを楽しむ男性は、ベースとなる肌を整えるために美容家電のスチーマーを使っている。また華道家の男性は、髪の水分バランスを整えるナノイーを搭載したヘアドライヤーを自慢のひげに当てることで、自分のアイデンティティであるひげを、髪と同様サラサラに保つ。

 今までの常識にとらわれず、こうしたヴィジュアルイメージを提供することで、「こんな使い方もできるのか」と新たなターゲットの関心を引きつける可能性もあるだろう。消費者の多様性、価値観の変化に向き合うことで、企業イメージの向上だけでなく、新たな製品開発やマーケティングの可能性も広がるかもしれない。

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(タイトル部のImage:パナソニック)