ヤフーが導入した「マインドフルネス研修」。2016年夏から開始したこの取り組みは現在、参加者募集が抽選になるほどの人気ぶりだ。(関連記事:ヤフーが取り組むマインドフルネス研修とは?)。一方で、導入を推進した同社グッドコンディション推進室リーダーの中村悟氏は、課題の一つとして「継続性を高めるための対応」を挙げる。今回は、その課題解決を目的としたチャットボット(人工知能に基づく自動応答)によるサポートシステムの詳細および2020年1月から実施されたトライアルの結果などをレポートする。

 前回紹介したように、ヤフーのマインドフルネス研修は7回1セットのプログラムで構成され、1週ごとに開催される。参加者はここで習った様々なワークを生活習慣として日常的に取り組んでいくことで、自分のことを客観的・俯瞰的に認知する「メタ認知」の向上につなげていくことになる。

 しかし、新たな取り組みを習慣化することは容易ではない。実際、中村氏はこれまでの参加者に、強制しないレベルで日々の実践を推奨してきたが、「過去の参加者にアンケートをとると、実践頻度が週1以上は43%。逆に実践していない人は過半数を超えていた」と振り返る。

 そこで、中村氏は「三日坊主になることを前提に、何らかのテクノロジーを活用した仕組みで習慣化をサポートできないか」と解決策を模索。様々なアイデアを検討する中で、既にチャットボットによる肩こり・腰痛改善サービスを提供している、ITサービス開発運用会社のトラヴォスから、マインドフルネスの習慣化定着プログラムの開発が可能な旨の提案を受けると、実用化に向けて協力することにした。

 こうしてできあがったのが、「『マインドフル運動ガイド』チャットボットプログラム」だ。同プログラムは、対面で行うマインドフルネス研修をベースとした「マインドフル運動ガイド」を、ユーザーが任意設定した時刻にチャットで通知する仕組みを採用している。ガイドの内容としては、まずは研修で習った「ワークのおさらい」を実践してもらう。次に、書くことに集中する「ジャーナリング」を行うための質問が投げかけられるので、ユーザーはそれに応答すると返事がもらえる。その後、マインドフルな向き合い方、効果、効能などに関するメッセージが現れ、最後にはパフォーマンスの損失を示す指標の「プレゼンティーズム」を調査する設問も用意されている(図1)。

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図1●「マインドフル運動ガイド」チャットボットの概要(上)と画面イメージ(下)(出所:ヤフー)
図1●「マインドフル運動ガイド」チャットボットの概要(上)と画面イメージ(下)(出所:ヤフー)
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歯磨きのように「やらねば気持ち悪い」と感じるレベルになれるか

 プログラムが完成し、迎えた2020年1月、中村氏は、従来のマインドフルネス研修に、新たに「マインドフル運動ガイド」チャットボットプログラムを連動させ、マインドフルネスの習慣化の定着を目的とした8週間のトライアルをスタートさせた。

 トライアル終了後には効果測定のためにアンケートを実施。すると、結果は如実に表れた。実践頻度に関する調査では、週3回以上の実践者の割合がチャットボット使用前はわずか8%にとどまっていたものの、使用後は43%と跳ね上がった。また、「チャットボットでマインドフルネスの習慣化が定着したか」を尋ねたところ、10%が「そう思う」、43%が「どちらかといえばそう思う」と回答。「チャットボットがマインドフルネスの習慣化定着にどれだけ役立ったか?」という問いには、16%が「とても役立った」、43%が「どちらかといえば役立った」と答えた。全体の約50%が習慣化定着を実感し、約60%がその実現にチャットボットが役立ったと答えた結果に、中村氏は確かな「手応え」を感じている。

 参加者からは「短時間でも毎日継続することで定着化できた」「やっていない時に通知が来るとリマインドにつながる」「毎回違うガイドが来ることで徐々に理解が深まり、モチベーションになった」などのポジティブな声が寄せられた。チャットボットがサポートツールとして有効に機能した点は「おおむね狙い通り」と中村氏は自信をのぞかせる。

 ほかにも、「とても良かったので、今後なくなるとチャットボットロスを起こしそう」「起きる時間が一定になり、運動などの異なる習慣化にもつながった」「チャットボットによるリマインドは意識づけに役立った」「ジャーナリングのおかげで、普段では見過ごしてしまうようなことを意識する機会が増えた」などのコメントも挙げられたという。このような声が多かったこともあり、「このプログラムを誰かにオススメしたいか?」という質問には、25%が「そう思う」、47%が「どちらかといえばそう思う」と答え、合計72%が前向きな姿勢を示す結果となった。

 一方で、定着しなかった理由としては、「毎日同じ時間に通知が来ると、だんだん無視してしまう習慣がついてしまった」「仕事中や移動中、家族と一緒にいるときなどは実施が難しい」「書くマインドフルネスはハードルが高い」「忙しいとSNSを開けず、毎日は実践できなかった」などの意見があった。これについて中村氏は、リマインドスルーやSNS離れなどの要因で「今回のアプローチではフィットしない人もいることが分かった」と分析する。

 そのほか、プレゼンティーズムの設問では参加者の入力しやすさに配慮。「病気やけがのないときに発揮できる仕事の出来を100%として、過去4週間の自身の仕事を評価してください」という設問を用意し、チャットボット内で1から100を入力してもらうことで計測した。トライアルの8週間のうち、前半4週間は週次、後半4週間は日次で入力してもらったところ、前半の平均は「70.64」、後半の平均は「72.68」と、2ポイントの増加を認めた。とくに後半の4週間の傾向は、新型コロナウィルスの影響により、リモートワーク推奨期間が続く中でも、プレゼンティーズムが一定の値の範囲内でキープしていたのは、興味深い。

 このように、チャットボットを活用した今回のような取り組みが、習慣化定着に有効であることが見えてきた。これを踏まえた上で中村氏は、最終的に参加者が「マインドフルネスは自分にとって不可欠だ」と認知することの重要性を最大のポイントに挙げる。さらに、日々の歯磨きと同じような感覚で「やらないと気持ち悪い」と感じるようになれば、「スキルとして高まっている」とアドバイスする。

 一方で、マインドフルネスの必然性を理解しつつも「時間があればやりたい」という人は「結局やらなくなる」と指摘。その必然性をしっかり理解してもらうためのサポートツールとして、チャットボットを含む「様々なサービスを利用しながら、マインドフルネスの実践者が増えていくことで、グッドコンディションな人が増えていってほしい」と中村氏は期待を寄せた。

(タイトル部のImage:剣持 悠大)