手術、薬物療法と並び、がんの三大治療の一角を占める放射線治療。中でも陽子線治療は病巣にピンポイントで照射できるため、現在の主流であるX線に比べて治療効果に優れ有害事象も少なく、最先端のがん治療として注目されているが、巨大かつ高額な装置を要することが普及のネックとなっている。ビードットメディカル(東京都江戸川区、代表取締役社長:古川卓司氏)は、超小型陽子線治療装置の開発によりこの壁を突破し、「がんの放射線治療=陽子線治療」の時代を創ることを目指す。

 同社は、日本の放射線医学研究をリードする量子科学技術研究開発機構量子医学・医療部門(旧・放射線医学総合研究所:放医研)発のベンチャーで、研究グループリーダーだった古川氏が、部下の早乙女直也氏(現・事業戦略・推進室室長)らとともに2017年に起業した。

ガントリーの改良で装置の小型化を図る

 日本では年間約30万人が放射線治療を受けており、X線治療装置は全国800施設に計1000台ほど導入されている。一方の陽子線治療で稼働している装置はまだ18台(2020年4月末現在)にすぎない。国内では1979年に放医研で陽子線の臨床研究がスタートし、1983年には筑波大学でも始まった。1998年に国立がん研究センター東病院に世界で2番目となる医療専用陽子線施設が設置されたのを皮切りに、病院併設施設の建設が進んだ。2016年に小児腫瘍に対する陽子線治療が保険適応となった後、前立腺癌、頭頸部癌、骨軟部腫瘍に適応が拡大し、年間3000人以上が治療を受けている。

 国内では、日立製作所、住友重機械工業の2社が陽子線治療装置を製造している。装置の重量は200トン以上と、いわゆる医療機器という範疇をはるかに超える巨大な装置だが、それは陽子線治療の特性と関わっている。

 生物効果(放射線が生体に与える影響)においては、陽子線はX線とほぼ同等で、X線において蓄積された効果や安全性の知見を利用しやすいとされる。一方、脊髄や神経などの重要器官を避けて高い線量を腫瘍に集中させるため、陽子線などの粒子線治療装置には「回転ガントリー」という技術が導入されている。これは照射ノズルや粒子線を輸送するための電磁石群を備えた装置で、患者を中心に360度回転することで任意の角度からの照射を可能としている。事前の治療計画に基づいて、複数の方向から分割照射することで、腫瘍に必要な線量を当てることができる。

開発中の陽子線治療装置のモックアップ
2019年11月に開催された日本放射線腫瘍学会学術大会展示ブースにて(写真:ビードットメディカル)

 ビードットメディカルが目指すブレークスルーは、ガントリーの改良で装置の小型化を図ろうというものだ。現在開発しているのが、360度回転させる代わりに、強い超伝導電磁石を偏向磁石に用いて陽子線を制御する半円型の非回転型ガントリーだ。半円型の非回転ガントリーは、上側70度、下側70度、合わせて140度までの角度から照射が可能で、さらに治療用ベッドの向きを半周回転させることで、逆側から同様に140度の照射も可能で治療には支障がない。重量は20トン程度だ。