SNSで話題を呼ぶ

公開した作品がSNSで話題を呼び、そこから大手レコード会社であるエイベックスとの契約、商業施設の「有楽町マルイ」での作品展開催などにつながったそうですね。

 最初はリハビリの一環として始めました。私は以前、妻が探して見つけてくれた大分県別府市の国立別府重度障害者センター(筆者注:厚生労働省の指定障害者支援施設)に入所して、リハビリに取り組んでいました。そこで口でも操作できるマウスの使い方を教わって、WordやExcelのスキル認定資格を取ったのです。

 その時、施設に来ていたパソコン講座のスタッフの1人が、「Wordで絵が描けますよ」と教えてくれて。そこから、少しずつ絵を描き始めたんです。

 最初に描いたのは、ネットで描き方が載っていたチューリップの絵です。次に、妻の誕生日に向けて絵を描こうと思って、単純な図形を組み合わせて、こんな感じで花束を描いたんです(筆者注:パソコンを操作し当時のイラストを示す)。娘には「アンパンマン」を描きました。ほかにも、アニメ映画「となりのトトロ」のトトロを描いてプレゼントしたら、娘はすごく喜んでくれましたね。

 さらには妻と娘を題材にしたイラストっぽい絵にも挑戦してみました。こちらは、髪の毛の雰囲気が出るように工夫しながら描きました。家族を喜ばせたくて。本格的にデジタルアートに取り組み始めたのは、そこからですね。まったく独学です。

パラアスリートをモチーフにした作品は、前田さんの代表作ですね。有楽町マルイでの作品展には、パラアスリートの作品が数多く飾られていました。

 パラアスリートを描き始めたきっかけはいくつかありますが、1つは、車いすバスケの大会ポスターの公募に応募してみたことでした。また、特に大きく心を動かされたのは、2012年に開催されたロンドンパラリンピックでした。車いすテニス選手である国枝慎吾選手など、多くの選手たちの活躍を見て、勇気づけられました。そこからパラスポーツ選手のイラストを描いていこうと思いました。

同じく東京・有楽町マルイにおける作品展より(写真提供:丸井グループ)
同じく東京・有楽町マルイにおける作品展より(写真提供:丸井グループ)
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 しばらくの間は公開することもなく、ただ描きたいという理由でパラスポーツ選手を描いていました。いくつも描いていたら、それを見た介護士さんの1人が「SNSで発信したらいいんじゃないか」とアドバイスしてくれました。そこからSNSのアカウントを作って作品を公開するようになりました。

 パラスポーツ選手の姿を描いてSNSに投稿する際には、大丈夫かなと心配しながらも(笑)、ご本人のお名前をタグ付けして。また、併せてそのパラスポーツ種目の紹介を添えることも心がけました。たくさんの種目があるパラスポーツの認知度向上に、少しでも貢献したいという理由からです。

 そうしたら徐々に反響の声をいただくようになりました。パラスポーツ関係者の方々とも少しずつご縁ができまして、アスリートご本人からもご連絡をいただくようになりました。SNSのプロフィール画像として使わせてほしいというご要望も複数いただきまして、これはうれしかったですね。

 また、パラスポーツのコーチの方々からご依頼を受け、コーチの姿をモデルにした作品を制作したこともあります。そのうちのお1人が、パラノルディックスキーのコーチである荒井秀樹さんです。荒井さんの書籍『情熱は磁石だ パラリンピックスキー20年の軌跡、そして未来へ』(旬報社)の裏表紙にも使っていただきました。

荒井秀樹氏の著書『情熱は磁石だ パラリンピックスキー20年の軌跡、そして未来へ』の裏表紙に使われた、前田氏のイラスト(画像提供:旬報社)
荒井秀樹氏の著書『情熱は磁石だ パラリンピックスキー20年の軌跡、そして未来へ』の裏表紙に使われた、前田氏のイラスト(画像提供:旬報社)
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 パラスポーツ分野のご縁を通じて各所にご紹介をいただいた結果、エイベックスさんと契約することになりました。2017年11月から2020年9月末までの契約期間中は、同社所属アスリートの公式イラストを制作していました。

今はライブ動画配信サイト「Mildom(ミルダム)」(運営はDouYo Japan)で、制作風景を公開していらっしゃいますね。私が視聴した時、視聴者のチャットに対する前田さんの軽快な返答が印象的でした。

 エイベックスとの契約が終了した後、これも人とのつながりでお声がけいただきました(筆者注:Mildomでの配信のスタートは2020年12月から)。今の活動の中心は、こちらですね。1日当たり約4時間、約3回に分けて動画の制作風景などを配信しています。

 フォロアーも1000人(筆者注:2021年4月末時点)を超えました。応援の声をいただくと制作意欲がわきますね。コメントしてくださる人には私と同じ車いすユーザーの方もいらっしゃいます。皆さんのお悩みなども受けつつ、最近はチャット人生相談所みたいな雰囲気にもなっていますが(笑)。