新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を受けて、生活者も医療機関も、かつてない事態への対応を強いられている。そんな中、生活者と医療機関のそれぞれに寄り添う2つのソリューションをいち早く提供したのが、スタートアップのUbieだ(関連記事:あの“AI問診”のUbie、2つの新サービスでコロナに挑む)。同社 共同代表取締役で医師の阿部吉倫氏と、同社のソリューションを導入した松波総合病院(岐阜県羽島郡)に話を聞いた。

Ubie 共同代表取締役で医師の阿部吉倫氏(出所:Ubie)
Ubie 共同代表取締役で医師の阿部吉倫氏(出所:Ubie)
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 「発熱しているけれど、どの医療機関にかかれば良いか分からない」――。これは、不調を感じる生活者の切実な不安だ。どのタイミングで医療機関を受診すれば良いのか、受診するとしたらどこの医療機関に行けば良いのかなどの判断ができず、実際に適切な受診行動をとれない場合が出てきている。

 そこで、生活者の適切な受診行動を支援するために提供した第1のソリューションが、患者向け事前問診サービス「AI受診相談ユビー新型コロナウイルス版」。日本医療受診支援研究機構を通じて2020年4月28日に提供を開始し、同年5月22日時点で「15万人以上の人が利用している」(Ubieの阿部氏)という。

 スマートフォンやパソコンを使って症状に合わせた20問前後の質問に答えると、回答内容に応じて地域の医療機関や公的機関などの相談窓口を案内してくれるサービスだ。回答内容がCOVID-19の症状に該当する場合は、アラートを表示し、院内感染を防ぐために通院前の電話相談を促したり、厚生労働省などの公的な電話相談窓口を案内したりする。

(左)質問事項の画面イメージ、(右)回答結果の画面イメージ(出所:Ubie)
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(左)質問事項の画面イメージ、(右)回答結果の画面イメージ(出所:Ubie)
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(左)質問事項の画面イメージ、(右)回答結果の画面イメージ(出所:Ubie)

 これまで生活者は、不調を感じると、インターネットなどで集めた情報を基に行動を決定していたが、必ずしも信頼できる情報にたどり着けるわけではなく、適切な受診行動をとれないこともあった。AI受診相談ユビーでは、約5万件の医学論文から抽出したデータを使って構築されたシステムを応用しているため、生活者を適切な受診行動へ誘導することができるとする。

 当初は2020年夏のリリースに向けて開発を進めていたものだが、COVID-19の感染拡大を受けて急遽提供を開始した。「サービスを開発していた最中は、COVID-19の感染者数が指数関数的に増大する可能性も示唆されていた。待ったなしの状況に社内の全リソースをつぎ込んで、早急に提供することを目指した」と阿部氏は話す。

医療機関側の悩みに向けても新サービス

 一方、COVID-19感染疑いの有無に応じて院内の導線を分けたい医療機関では、来院時に事前問診や検温を行うといった手間に追われている。そこで、医療機関を支援するために提供を開始した第2のソリューションが、同社がこれまで手掛けていたサービス「AI問診Ubie」の追加機能、「COVID-19トリアージ支援システム」である。こちらも「4月初旬の着想から数週間で機能拡張を実現した」(Ubieの阿部氏)と、スピード感を重視して提供にこぎ着けた。

AI問診Ubie使用イメージ(出所:Ubie)
AI問診Ubie使用イメージ(出所:Ubie)
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 ベースとなったAI問診Ubieは、診察前の事前問診をタブレット端末で行えるサービス。約5万件の論文から抽出したデータを使って、患者の年齢や症状に合わせた質問を自動で生成・分析し、患者のスクリーニングを行うことができる(関連記事:これが“AI問診”の効果、「問診時間が1/3に」)。

 今回追加したCOVID-19トリアージ支援システムは、来院前または来院後に患者自身のスマートフォンやタブレット端末を使って事前問診を受けてもらい、COVID-19に関連する症状が含まれている場合は、医療スタッフにアラートを送ることができる機能だ。事前に患者のトリアージ(重症後や緊急性によって治療の優先度や診察場所を決定すること)を実施することで、院内感染を防ぐための導線を整備したり、患者の状態に応じた案内をしたりすることができる。

「COVID-19トリアージ支援システム」概要(出所:Ubie)
「COVID-19トリアージ支援システム」概要(出所:Ubie)
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 今回の機能拡張に当たり、COVID-19を疑う「発熱」や「熱」などの症状や、リスク因子である「糖尿病の既往」「喫煙習慣」「海外渡航歴」などのデータをAI問診Ubieに実装した。症状やリスク因子については、これまでに発表された論文などから抽出しており、新たな情報が発表されるたびにシステムもアップデートされる。

 現在までにAI問診Ubieを導入している200の医療機関にCOVID-19トリアージ支援システムの導入を提案しているという。さらに、これまでAI問診Ubieを導入していなかった医療機関からの問い合わせも増えている。「適切かつ効率的なトリアージの実施は、診療所や病院など医療機関の規模を問わずに抱えている問題だと実感した」と阿部氏は言う。

導入病院に聞く、そのメリット

 このCOVID-19トリアージ支援システムを2020年5月8日から利用しているのが、岐阜県羽島郡にある松波総合病院と、まつなみ健康増進クリニックだ。ベースとなるAI問診Ubie自体は2020年1月から導入していた。

松波総合病院のNORTH WING(北館) (出所:松波総合病院のホームページより引用)
松波総合病院のNORTH WING(北館) (出所:松波総合病院のホームページより引用)
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 松波総合病院では、発熱や呼吸器症状を訴える患者に対して、診療科ごとの受付窓口でAI問診Ubie用のタブレット端末を渡して事前問診を行っていた。しかし、このタブレット端末は院内のWi-Fiを使うため、病院の建物内で事前問診をしてもらう必要があった。

 まつなみ健康増進クリニックでは、同年3月末から入り口にサーモグラフィーを設置し、37℃以上の発熱の可能性がある人や呼吸器症状のある人には、発熱患者用の問診票を書いてもらうという対策をとっていた。患者のほとんどが自動車で来院するため、問診票の内容を医療スタッフが確認するまでは車内で待機してもらい、COVID-19感染疑いのある場合は通常とは違う入り口や診察室を案内していた。

 ただし、この方法では、問診票を受け取るために一度クリニックに入ってもらう必要があった。クリニックのホームページで問診票をダウンロードできるようにもしていたが、患者に印刷してもらう手間がかかった。

 そこで、来院前に自宅や車内でスマートフォンを使って事前問診ができないかと考え、AI問診Ubieのトリアージ機能を活用し始めた。ホームページ上に来院前AI問診が受けられるURLやQRコードを記載している。

 これによって、「紙を印刷しなくても家で事前問診ができるようになり、事前の問い合わせなく来院した患者には車内での事前問診が可能になった」と蘇西厚生会 松波総合病院 副院長(内科) 兼 FMDセンター長 PFM副センター長 イノベーション推進本部長 診療支援部 部長の草深裕光氏は話す。

 現在、医療スタッフは、感染症対策のために、ドアノブなど多くの人が触る場所の頻回な消毒や、感染疑いのある患者を診察する際のPPE(個人防護具)装着などを行っている。通常よりも業務が増えている状態において、「業務の効率化を図ることや、院内感染を防ぐために患者との接触時間を減らすことが最も重要」と草深氏は強調する。同氏が重視する双方の点において、AI問診Ubieが寄与しているという。

“with コロナ”時代、生活者と医療機関の架け橋に

 前述の生活者向けサービスであるAI受診相談ユビーで回答した内容は現在、AI問診Ubieを導入している医療機関にはテキストで共有することができる。医療機関にとっては、問い合わせを受けた時点で患者の状態をある程度把握できるというわけだ。今後、2020年夏までには、AI問診Ubieを導入していない医療機関にも、AI受診相談ユビーの回答内容を共有できる仕組みを完成させたいとしている。

 Ubieはこれまで、医療機関の業務効率化を図るサービスとしてAI問診Ubieを提供してきたが、「今後は生活者と医療機関をつなぐサービスにしていきたい」と阿部氏は意気込む。“with コロナ”の時代となれば、生活者の意識が変化し、不調を感じても受診を控える行動様式になることも予想される。今回発表した2つのサービスを軸として、生活者を症状に応じた医療機関につなぐことで、手遅れになることなく適切なタイミングでの受診を支援したい考えだ。

取材はオンラインで実施した。Ubieの阿部氏(写真:取材オンライン画面のキャプチャー)
取材はオンラインで実施した。Ubieの阿部氏(写真:取材オンライン画面のキャプチャー)
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(タイトル部のImage:出所はUbie)