2025年には人口のボリュームゾーンである団塊世代の全てが75歳以上となり、後期高齢者の割合は全人口の18%を占めることになる。厚労省は2012年との比較で、年金や医療、介護といった社会保障費の動きを推計。総額では109兆円から148兆円と約40兆円の増加を見込んでいる。

中でも介護分野の右肩上がりは激しい。8兆4000億円から、約2.3倍の19兆8000億円にもなるという。財政を圧迫する社会保障費の増加を押さえるため、様々な取り組みが始まっている。そのひとつが介護保険サービスと保険外サービスの融合だ。

利用者保護のための高いハードル

 認知機能が低下した人に向け、必要性の低いサービスの「押し売り」がもし横行すれば、利用者の不利益は計り知れない。儲かればそれで良し、とする悪意の過剰サービスを抑制するため、介護保険サービスと保険外サービスの併用については高いハードルが設けられている。

 特にデイサービスなどいわゆる通所介護の事業所では、様々なサービスを保険内サービスとして提供できるため、保険外サービスとして利用者から保険給付とは別に費用を徴収することは基本的に認められない。おかげでこれまで、同一の事業所内で、保険サービスと保険外サービスを同時併用する事業者はほぼ存在しなかった。

 しかし、時代は動いている。利用者の側からも、「もっと多様なサービスを選択したい」という要望も聞かれるようになった。保険外サービスが充実することで、利用者の利便性や健康維持への取り組みが向上するのであれば、悪いことではない。

リハビリ難民の受け皿に

 そこで誕生したのが保険外リハビリサービスと機能訓練型デイサービスの同時一体型の施設「ウェルビスタ ケアスタジオ」(東京都中野区)だ。同スタジオは介護保険サービスに加え、利用者の個別課題により深く向き合った保険外サービスを同時一体的に提供するサービスを実現した。

ユニマット リタイアメント・コミュニティ 新規事業推進室課長の白木優史氏(写真:末並 俊司)

 運営するユニマット リタイアメント・コミュニティ 新規事業推進室課長の白木優史氏は次のように語る。「昨年、診療報酬改定もあり、早期に医療保険でのリハビリから介護保険に移行する流れが加速しています。医療保険から介護保険に移行した途端に、リハビリの質や量が大きく低下しているのが現状です。それにより、リハビリをして社会復帰したくても、それがかなわない『リハビリ難民』の増加に対応することが社会における喫緊の課題と考えています。そのような方々の受け皿になりたい、という思いがあるのです」。

 6月1日オープンの同施設を訪問した。外観はおしゃれなカフェのようなしつらえだ。通常のデイサービス事業所を想像して探すと、素通りしてしまいそうになる。

 完全バリアフリーの明るい室内は、一面が鏡張りになっており、一見すると若者が集うスポーツジムのような雰囲気だ。入口近くには利用者が自由に利用できるカフェコーナーが設置されている。

ウェルビスタケアスタジオは、東京メトロ中野新橋駅から徒歩3分の位置にある(写真:ユニマット リタイアメント・コミュニティ、以下同)

 「弊社は2017年に『スイッチ宮前』(神奈川県川崎市)という機能訓練型のデイサービスをオープンしました。基礎体力の維持や向上を目指す利用者が多く、70~80歳代の方が中心ではありますが、中には40代、50代で脳血管疾患を患った方などもいらっしゃいます。そうした方々のお話をうかがっているうちに、もっと個別の課題に向きあったサービスがあるべきだ、と考えるようになったのです」(白木氏)。

サロン効果も期待大

 脳疾血管疾患のために四肢に麻痺の症状が残ったが、症状が安定すると病院に退院を迫られる、といった例が増えている。一定以上の入院日数を超えると、診療報酬が減額されるためだ。回復期リハビリテーション病院では、毎日120~180分のリハビリができていたのに、退院後にリハビリの質と量を維持できる機会がない。症状が安定したとはいえ、以前のような体力はない。社会復帰は難しいのだが、行き場がなく引きこもってしまう。こうしたケースが今後全国で多く見られるようになると考えられる。

 まさに前述のようなケースで悩んでいた方50歳代の男性に、担当のケアマネジャーが紹介したのが機能訓練型デイサービスのスイッチ宮前だった。40~64歳までの介護保険第二号被保険者でも、がんや筋萎縮性側索硬化症、脳血管疾患など、16種類の特定疾患であればデイサービスなどの介護保険サービスを使うことができる。

お互いに気軽に情報交換ができるような雰囲気を目指したカフェコーナー

 「『機能訓練型デイサービスで運動することで、人生に張りが出た』また『同じ疾患を持った同年代の人が集まり、励ましあえる。ここに来て仲間ができた』、そうした声をたくさん聞くようになったのです。実際みなさん仲良く楽しそうにお話をしている。これがまたいい。そのため、ウェルビスタ ケアスタジオでは、ご利用のみなさんがリハビリの前後にゆっくりくつろげる場所を提供したいと考え、カフェコーナーを設けました」(白木氏)。

 既述のように、ウェルビスタ ケアスタジオは、介護保険サービスと保険外サービスを同時一体的に提供するところに一番の特徴がある。介護保険外の機能訓練は1回120分で1万6800円(税別)だ。介護保険サービス利用者と保険外利用者へ、それぞれのメニューを一体的に提供してくれる。

 「もちろん利用者ごとに、個別の訓練メニューを作成します。最終的な目標は『社会復帰』ですので、四肢麻痺の回復訓練など基本的なものに加え、自動車の運転などについても、専用のリハビリシステムを用意しています。訓練は週に2回、これを2カ月程度続けることで一定の効果が期待できると考えています」(白木氏)

働く場所まで考える

 同スタジオの取り組みとして特に注目したいのが、「就労支援」だ。病気で体が不自由になっていたとしても、仕事をしたいといと思っている人は多いはず。希望する方には、リハビリ後、同社での仕事を紹介してくれる。

 「弊社は本社が東京ですが、全国に290余りの介護事業所を展開しております。リハビリ後の回復度合いにあわせて、まずは当社での就労可能な業務を創出して支援していきます」(白木氏)。

 明確な目標があれば、リハビリに対する気持ちも違ってくるはずだ。ウェルビスタ ケアスタジオでは、あらゆる状態の方に対応できるよう、多くのメニューを用意している。スタジオ内でまず目をひくのが「レッドコード」。天井に吊るされたコードを使って様々な日常生活の反復動作や姿勢の調整、ストレッチなどのトレーニングを行うことができる。

ノルウェー生まれのリハビリエクササイズの「レッドコード」

 「リハビリだけでなく、アスリートのトレーニングやエクササイズなど、多くのシーンで使われています。使用方法によって、筋力アップや体幹を鍛えるなど、期待できる効果は大きい」と白木氏は言う。同スタジオの保険外サービスでは、再び運転できるようになりたいという声も多いことから、認知機能向上も目的としたレッドコードは介護保険サービス利用者と保険外利用者の双方が使用可能となっている。

最新鋭のリハビリ機器

 レッドコード以外にも、トレーニングマシンが複数台用意されており、体力の回復をこれらの機器を使って支援する。また、ドライブシミュレータ「コグトレーナー」も設置されており、就労において運転が必要となる方に対して訓練を提供する。

 さらにユニークなのは、「IVES(アイビス)」という、微弱な電気刺激を筋肉に送るリハビリ機器を用意していること。「筋肉の動きを電気信号として読み取り、動きに応じた電気刺激を筋肉に与える。筋肉を少し動かしただけで、意図した動作が可能となり、今まで諦めかけていた動作を再学習することが可能となる」(白木氏)。

微弱な電気刺激で筋肉を活動させるIVES(アイビス)

 脳に障害が起こると、筋肉を動かす脳からの指令が弱まってしまうことがある。IVESは微弱な電気刺激を麻痺のある筋肉に伝えることで、麻痺した部分の活性化が期待できる。

 同スタジオに駐在する複数のリハビリ専門家により、こうした機器も使ってリハビリを続けることで、より高い効果ができるわけだ。「私たちは、リハビリによって身体的な自由を取り戻すサポートに加え、精神的・社会的にも良好な状態であるwell-beingの現実を目指しています。そのため、前向きになれる開放的な空間で仲間とくつろげるコミュニティの場をご用意し、さらには、当社での就労支援も支援することで、ご利用者をサポートしてまいります」(白木氏)。

 人生100年時代と言われる今、長生きだけを考えていたのでは幸福な老後は望めない。いかに元気で過ごすか、健康寿命の増進は火急の課題だ。

 そのためにも、個人が自由に選択できる保険外サービスのなおいっそうの充実が望まれる。また、保険サービスとの併用についても、さらなる議論が必要だ。後期高齢者が急増する2025年はもうすぐそこまで来ているのである。

(写真:末並 俊司)

(タイトル部のImage:ユニマット リタイアメント・コミュニティ)