2030年には日本最大の産業になると言われているヘルスケア。産業としての成長は、国内での発展と同時に海外への産業輸出が大きな鍵となってくる。そんな中、多くの総合商社はヘルスケアビジネスに乗りだし、それぞれの強みを生かした展開を始めている。そんな中で早くからヘルスケアビジネスに携わってきた三菱商事のヘルスケアビジネスを追った。

 商社がヘルスケアビジネスに力を入れている。海外のヘルスケア産業は2013年の163兆円から2030年には525兆円にまで成長すると予測されている。様々な国の経済成長で人々の生活が安定し、寿命がのびる一方、人々の健康を支えていく医療や健康管理などのニーズはさらに高まっていく。さらには、ITの進化と普及により、病気予防、生活支援サービス、介護、健康管理などの可能性も広がりを見せている。

ヘルスケア産業の市場規模見通し(図:政府「日本再興戦略」の資料を基にBeyond Healthが作成)

 海外でも大きなマーケット拡大が見られるのは、アジアだ。例えば三井物産は、経済が急成長を遂げるアジアでの医療ニーズ拡大に向け、12カ国に広がるアジア最大級の民間病院グループIHH Healthcare Berhad(IHH)への出資をはじめた。2019年には約2200億円を出資し、筆頭株主となっている。

 ASEANの約8億人の人口を支えるべく、病院を中核としてビックデータを活用し、ヘルスケアエコシステムの構築を進めている。IHHは、年間600万人の外来患者と約60万人の入院患者をかかえる。そのビックデータを活用し、患者のニーズに応える医療サービスの開発や疾病管理、予後管理などにも役立てていく予定だという。

病院内部に隠れていた課題を常駐して発見

 巨大産業への成長を見込み、伊藤忠商事、住友商事、丸紅などの総合商社も次々とヘルスケアビジネスへの投資に力を入れている。そんな中で、早くからヘルスケアビジネスに携わってきたのが三菱商事だ。

 1970年代から医療機器の輸入販売や、国内メーカーの海外輸出などを行ってきた。その遍歴をヘルスケア本部戦略企画室長の三池正泰氏はこう説明する。「国内で医療機器を取り扱っているうちに、病院側から経営について相談を受けることが出てきました。病院経営が難しくなったのは近年のことではなく、実は30〜40年前からのことです。何か手伝うことができないかと思い、医療材料の発注や在庫管理などのサービスを始めました」

三菱商事 ヘルスケア本部戦略企画室長の三池正泰氏(写真:佐々木 睦)

 医療機器などを病院に納品するだけではなく、三菱商事の社員が出向先のエムシーヘルスケアから病院に常駐し、病院の抱えるさまざまな課題を目の当たりにして、解決に共に取り組みを始めたのだ。商社の社員が出向先を通じてではあるが、現場の第一線の病院に常駐する経験をするという新しい形は、病院側にも商社側にも多くの学びを生むことになった。そして、より円滑なサービス提供を行うために医療機器輸出入などをしていた子会社3社を、2010年4月にエム・シー・ヘルスケアとして会社として一本化した。

 例えば、治療に使う注射針を発注すると、100本一袋といった梱包状態で届くことがある。すると、それを医師や看護師が使いやすいように10本ずつ小分けにする。使う頻度の高いものを手前、低いものを奥にセッティングするといったようなこともあるという。そうした小さなこと一つひとつが積み重なると大きな時間と労働力のロスになっていく。時折商品を届けに訪問するだけでは見えなかったこうした課題が、病院内部で日々支援することで浮き彫りになってきたという。

 その結果として生まれたのが、院内物流管理システムであるSPD(Supply=供給、Processing=加工、Distribution=分配)である。「病院で日々使われている医療材料はサイズや種類が非常に多く、80年代、90年代は在庫管理や欠品を防ぐことに多くの時間を費やしていました。本来患者さんと向き合う時間をたくさんとるべき看護師さんやスタッフの方々が時間を取られていていたのです。そこで病院におけるいろんな種類の医療材料の発注管理・在庫管理を代わって引き受けようとはじめたのがSPDです」(三池氏)。

エム・シー・ヘルスケアを中心に病院経営のパートナーとして医療の最前線をサポートする(出所:三菱商事)

 SPDは、当時すでにアメリカでは提供されはじめていた。三菱商事は、そのコンセプトを日本に取り入れて事業化し、地域の中核となっているような全国の病院に展開した。これ以外にも、手術室の業務効率化支援や病院の改築や移転支援など、出てくるニーズに次々と対応してきたという。現在では、急性期病院が1500〜1700ある中の20〜25%に当たる約300施設にサービス提供を行っている。

ヘルスケア事業はサステナブルでなければいけない

 2007年からは、特別目的会社として設立した駒込SPC(Special Purpose Company)を通し、がんと感染症の専門病院である都立駒込病院のPFI(Private-Finance-Initiative=民間資金の活用による社会資本整備)事業に乗り出した。

 「患者さんを診療する行為以外の運営協力をしています。例えば、医療機器の保守管理、院内の物品管理(SPD)、ファシリティマネジメントといったものを、都立病院から駒込SPCに外注し、さらに駒込SPCが専門性の高い事業者に委託をして取りまとめています。都立駒込病院以外の公立病院でも、マイノリティとしてPFIに入って一緒に行っているところもあります」(三池氏)。

 医療機器や経営改善サービスを提供していくために、医療従事者と同じような知識や用語を理解してコミュニケーションできるよう継続的に勉強会を開いたり、新しい情報をアップデートしたりすることも欠かせない。また、そうした医療や介護現場に出向し、経験を積んだ社員が、また本社に現場の課題を持ち帰り、商社としていかに課題解決に貢献できるかを考えることも多いという。そこから新たなサービスやビジネスが生まれることもある。

 ヘルスケア分野には大きなビジネスチャンスがあるとはいえ、人の生死を支えていくという大きなミッションを持った特殊な産業だ。一過性のビジネスで終わってしまうものではいけないと三池氏は語る。「ヘルスケア事業の体制やシステムは、サステナブルでなければいけません。医療従事者や介護事業者の方達とずっと接していると、いかに持続可能なものにするかを皆さん真剣に考えているのを痛感します。私たちも同じ志や目線に立たないと事業を一緒にしていけないと感じています」。

 「やはりアジアは成長市場であり、総合商社各社とも非常に注目しています。その中で弊社は、病院の経営者や医療従事者の方々とコミュニケーションをとる中で必要な支援や新しい事業開発のヒントをいただいてきた歴史があります。今後、海外で医療事業を展開する上でも、現地の医療従事者の方々と足並みをそろえた事業展開を大事にしていきたいです」(三池氏)。

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)