ベンチャー社長解任後、柳沢氏から誘われる

 藤原氏は、東京大学大学院で獣医学を修め、中外製薬でバイオ新薬開発に携わるなどした後、いわゆる基盤技術型ベンチャーであるカイオム・バイオサイエンスの創業社長となり、2011年にマザーズ上場に導いた。その後、技術的な壁もあり、あらゆる手段を駆使して会社業績の回復を図ったが、2017年2月、育てた会社を突然事実上解任される。

 幸い、次なる仕事のオファーもあり、条件面なども申し分なく、そろそろ家族の意向に応えるべきとの思いもあって十中八九そちらに傾いていた。同時期に打診を受けていた睡眠ベンチャーの立ち上げには、断りのメールを書いていたが、それを見せた妻の助言で、1度だけ会ってみることにした。会ってしまうと、揺れる気持ちが押さえられなくなるかも、と予感しながら。

S’UIMIN最高執行責任者(COO)の藤原氏(写真:寺田 拓真、以下同)

 藤原氏を迎えたのは、筑波大の国際統合睡眠医科学研究機構の機構長で、脳内の睡眠関連物質オレキシンを発見するなど、睡眠の基礎医学研究で世界をリードする柳沢正史氏だ。その研究人生の原点は、大学院時代に強力な血管収縮物質であるエンドセリンを発見したことだった。実は1988年、中外製薬にいた藤原氏が、「すごい研究をやる人がいるな」と目を見張り、研究所内の論文抄読会で発表したのが、この論文だった。その一方的に憧れていた、1歳年上の柳沢氏が睡眠研究の第一人者となって目の前に現れ、熱く事業の構想を語っている。

 藤原氏の翻意は、柳沢氏に会った感激だけが理由ではない。もし、再度ベンチャーに挑戦するならば、2つのキーワードを絡めたいと思っていた。1つは、人工知能(AI)。そして、もう1つが、中枢神経だった。睡眠は、正にその2つのキーワードを射貫いていた。「ベンチャーはきついが、もう1回、より楽しいことをしてみたい」。

 2017年6月、藤原はまず、つくばグローバルイノベーション推進機構の職員となり、文部科学省に採択された「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」の統括者として、具体的な事業を担うベンチャーの起業時機を探っていた。

 参画から間もなく睡眠プロジェクト会議で、解析可能な脳波の生体電位が取れることが明らかになった。一方、解析する側のAIも、ベテラン検査技師の解析結果との一致率が8割を超えるまでになった。

 「これはのんびりしてられない」と夏休みに会社設立趣意書をまとめ、10月に起業、すべての時間をベンチャーに捧げる手はずが整った。社名のS’UIMINは、CEO(最高経営責任者)である柳沢氏の発案だが、これを「Sleep is Ultimate Intelligent Mechanism In Nature」の短縮形としたのは、藤原氏だ。1カ月ほど考え続けたある朝ひらめき、柳沢氏もうならせた。