約1カ月で製品化に漕ぎ着ける

 その中で、4月3日、紙おむつの取引があったエルモアブランドのカミ商事から石津部長に、マスクの内側に敷くシート(商品名:ズレにくい!マスク用インナーシート)ならば、1万枚を提供できるとの提案があった。この商品は、のちにアイシールドの共同開発を行う高津紙器が、感染対策商品として既に商品化していたものだった。4月9日カミ商事とともに、高津紙器の高津俊一郎社長がHITO病院を訪れた。

完成した自社のフェイスシールドを着ける高津社長と本社工場(写真:高津紙器)

 高津紙器は、明治15年創業の歴史ある老舗中小企業である。紙箱や紙管など厚紙の加工を得意にしており、以前から自社の技術をヘルスケア事業に生かしたいと考え、様々な研究、開発を進めていた。また、2019年夏のえひめ医療機器開発支援ネットワーク主催のHITO病院での展示会にも出展していた。並行して、ヘルスケア事業に参入するため、新工場も建設中であった。

 2020年3月ごろから高津紙器では、クリアファイルを使ってフェイスシールドの試作に取り掛かっていた。そして4月9日の場に、前述のインナーシートだけでなく、顔全体を覆うフェイスシールドの試作品を持ってきていたのだった。HITO病院と高津紙器とは、4月以前の付き合いはなかったものの、HITO病院ではフェイスシールドも在庫が不足していた。フェイスシールドが市内で新たに調達できるようになることは病院にとって願ってもないことだった。

フェイスシールドの試作品(写真:HITO病院、以下同)

 ただ、高津社長の持参した試作品は、まだまだ使いにくさがあった。そこで石津部長は、すぐに100円均一ショップで材料を買い求めて、即日病院側からの要望を高津社長に伝えたのだった。最初は、この頭から被るタイプのフェイスシールドをHITO病院感染管理室の医師・看護師が一緒に製作し、完成に至った。この経験から病院は、高津紙器が紙加工会社でありながら、PETを材料にしてシールドも作れることを認識した。完成したフェイスシールドは、重さ・ムレ・曇りから長時間の使用は過酷で、かつ高価(当時700円)と課題が多かった。

 より快適なマスク装置型のシールドも、市場に既製品はあったものの、マスクと一体型であった。マスクが汚染されたら、シールドごと破棄が必要であり、新型コロナウィルスの有事にはすぐに使い切ってしまう恐れがあった。それであればマスクが汚染してもシールド部分は破棄せず、繰り返し使用できるシールドが開発できないかと、4月15日に石津部長は高津社長に相談を持ちかけた。これがHITO病院と高津紙器による、アイシールドの共同開発が始まった瞬間である。

完成したフェイスシールド

 高津紙器は、何度かHITO病院の感染管理医師や看護師からのフィードバックをもらいながら、アイシールドの共同開発を進めた。高津紙器では、設計開発の藤田智也チームリーダーが中心となり、これまで箱の設計で蓄積した加工ノウハウをシールドに生かしながら、シールドの厚み、重さ、形状などテストを繰り返していった。試作品に対するHITO病院のフィードバックの早さもあって、約1カ月で「マスクにつけれるアイシールド」の名前で製品化に漕ぎ着けた。