有事から生まれた新たなコラボレーションによる共通価値の創造

 通常、高津紙器が新商品を発売する場合は、製品化まで半年〜1年を要していたのに比して、尋常でない早さであった。特許は高津紙器が単独出願した。手作業ではなく、国産で大量生産が可能な仕様にすることができたため、定価1枚98円(税別、送料別)という低価格を実現した。

 着想からわずか1カ月後の5月18日に、正式に販売がスタートした。5月19日にはHITO病院に初回100枚が納入された。HITO病院側は共同開発に携わったことで、高津紙器 から、割安かつ優先的にアイシールドの供給を受けることができた。

「マスクにつけれるアイシールド」商品パッケージ

 本製品の利点として、安価で、繰り返し利用可能に加えて、以下の点が挙げられる。

(1)頭に被るタイプと異なり上部が空いているのでムレが少ない
(2)裏面が曇り止め加工になっている
(3)視界の歪みを低減するために上部に折り線がある。折ることによりシールドが平面となり視界がよりクリアになる
(4)マスク、防護服、シールドなどは、これまで中国、ベトナムといった海外製がほとんどであった。本品は国産であり有事の供給網維持にも有益である

 病院と共同開発したということ自体も、類似製品との差別化を図ることができ、販売の上では強みとなった。HITO病院に投入された5月19日から、総合診療科の筆者もこのアイシールド装着で初診外来を日々行っている。特に診療に支障はなく、視界は良好で安心感があり、半日の診療を連続して行うことができている。一般的な外来での利用では、利便性と飛沫感染防護の良いバランスが取れている商品だと感じた。

 なお、発売前のプレスリリースの準備は、HITO病院の広報部門が全て行った。HITO病院が培ったメディアのネットワークを活用したことで、取材は7社を数え、新聞・テレビ・オンラインなど全国的に多くのメディアに「マスクにつけれるアイシールド」のことが取り上げられた。高津紙器は宣伝費をかけることなく、全国に新商品をアピールすることができた。その結果、販売初月の5月だけで20万枚以上の枚数で、全国30以上の病院からの受注を受けている(「マスクにつけれるアイシールド」は高津紙器ホームページや各種通販サイト、ドラッグストア、ホームセンターから購入可能)。

 1カ月で製品化に漕ぎつけたため、現場で使う中での課題は複数見つかっている。高津紙器では、HITO病院からのフィードバックを引き続き受けながら、より役に立つ商品へ改良を進めている。

 新型コロナウイルスの流行という有事は、既存の地場産業に打撃を与える一方で、その緊急の状況が、新しいコラボレーションにつながった。平時ならば時間がかかる商品開発や病院における商品採用も、ごく短時間で実行することができた。

アイシールドを装着し診療に従事する筆者

 HITO病院から見ると、地域社会にとって新たな事業の創出という価値あることをしながら、その商品を病院の診療で活用することで、より安全な医療を地域社会に提供することもできるし、調達コストを抑えることもできた。HITO病院の理念「HITOを中心に考え、社会に貢献する」を体現したCSV(共通価値の創造)であった。この経験をきっかけに、HITO病院では医療で地域社会に貢献することはもちろんのこと、今後も地域社会とwin-winとなるような価値の創造を目指していく。

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)


【筆者】

五十野 博基(いその・ひろき)<HITO病院 総合診療科 医長>
総合内科専門医・集中治療専門医・家庭医療専門医。新潟県出身。2008年筑波大学医学専門学群卒業後、筑波大学附属病院総合診療グループに所属しながら、2018年3月に筑波大学大学院で医学博士を、2020年3月に名古屋商科大学ビジネススクールで経営学修士を取得した。病院から患者さん、医療者、地域を笑顔にしたいという夢の実現に向けて、2020年4月より「いきるを支える」をコンセプトにしたHITO病院に夫婦で赴任して、現在に至る。