新型コロナウイルス感染症の流行に伴い人々の健康への不安が増し、院内感染リスクの増大も懸念される中、オンライン医療相談・診療サービスが急速に広まっている。時限措置ではあるものの初診患者への適用も認められ、今まで主に通院が難しい患者の再診を補完する手段として用いられてきたオンライン診療を、病院の専門医療の実践に積極的に活用する医師も出てきた。

 東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市)心臓血管外科部長で、虎の門病院(東京都港区)循環器センター外科特任部長の田端実氏もその一人。勤務する病院などで循環器外科の専門性を生かした「オンラインメニュー」を提供している。そのメニューとは、(1)患者向け保険診療の「オンライン外来」、(2)患者向け自由診療の「オンラインセカンドオピニオン外来」、(3)患者向け無料サービスの「オンライン相談」、(4)医師向け無料サービスの「オンラインコンサルト」──の4つだ。「オンライン相談やオンラインセカンドオピニオン外来は既に2017年から行っていたが、4月から新たに患者向け保険診療と医師向けコンサルトのメニューを増やした」(田端氏)。

適切な治療のタイミングを逃さないために

 背景には、新型コロナウイルス感染症の影響で、受診をためらう患者や、他院への患者の紹介やコンサルトを控えている医師が増えているという現状があった。「新型コロナの拡大で通常診療を縮小する病院も少なくなく、手術のタイミングを逸して症状が悪化する患者が増えることを懸念した。こうした取り組みを始めたのは、単に接触による感染拡大を避けるという理由だけでなく、必要な患者や医師とコミュニケーションを取ることで、適切な治療のタイミングを逃さないようにしたいと考えたからだ」とオンラインメニューを増やした理由を田端氏は説明する。

 同氏は2017年に、東京ベイ・浦安市川医療センター心臓血管外科でメドレーのオンライン診療システム「CLINICS(クリニクス)オンライン診療」を導入し、自費診療の「セカンドオピニオン外来」と患者向け無料サービスの「オンライン相談」を始めていた。契機となったのは、厚生労働省が4月10日に出した事務連絡。時限的・特例的な措置ではあるが、これまで再診に限られていたオンライン診療を、疾患を問わず初診患者にも認めるという内容の通知だ。そこに新たなメニューとして、保険診療による「心臓血管外科オンライン外来」「弁膜症オンライン外来」を追加した。さらに6月には、狭心症・虚血性心疾患外来、末梢動脈疾患外来・足壊疽の治療外来、心房中隔欠損症・動脈管開存症・卵円孔開存症外来のオンライン外来も開始したという。

病院でのオンライン診療風景(提供:田端氏、以下同)

テクノロジー向上で診療精度を上げられるかが進展のカギ

 新型コロナの影響で、オンライン診療を取り巻く環境は大きく変化し、急拡大している。新たにオンライン診療システムを導入する医療機関も急増した。メドレー執行役員の田中大介氏は、「4月の医療機関からの資料請求件数は今年2月の8〜10倍に激増した」と話す。また、同社の第一四半期決算短信によれば、「CLINICSオンライン診療」の販売が増えた結果、診療予約からカルテ、レセプトまで統合したクラウド診療支援システムの利用医療機関数は前連結会計年度比7.1%増の1270件を突破したという。

 前述の「心臓血管外科オンライン外来」も、CLINICSのシステムを利用し、厚労省の事務連絡が出た1週間後に立ち上げたという。対象となるのは、心臓や大動脈の病気と既に診断された患者か、過去に心臓血管手術やカテーテル治療歴がある患者だ。初診の患者も受けられる。「実は心臓血管外科の診療はオンラインと相性が良い。そもそも心臓血管外科はある程度診断がついた人が受診するため、画像診断データなど必要なデータがそろっているケースがほとんどだからだ。一方で、心臓血管外科手術を行う医療機関には症例数や治療内容に地域差もあり、地域を越えてオンライン診療を行うことでそのギャップを埋めることも可能だ」と田端氏。

 4月末にサービスが立ち上がったばかりということもあり、実際にオンライン外来の利用者はまだ多くない。その一人である60代の男性患者は「非常事態のこの時期に初診でも診療を受けられ、待ち時間もなく診察してもらえたのがありがたかった。アプリの設定など、診察が始まるまでは家族とともに不安もあったが、画面を通してでも対面でき、緊張もほぐれた。居住地が遠方なので、できれば今後もオンライン外来の受診を続けたい」と話したという。

東京ベイ・浦安市川医療センター心臓血管外科部長の田端氏

 一方で、オンライン診療の弱点もある。「デメリットの一つは対面診療に比べて時間がかかること。これまでの経験からいうと、対面の1.5倍かかるイメージだ。また、対面ではイラストや模型などのツールを用いて説明するが、オンラインではその見せ方が難しい。さらに、患者本人だけでなく、家族も同席するのが通例だが、後ろにいる家族の顔が見えづらい場合もあり、表情などを確認して説明への理解を図るのも現状のオンラインツールでは難しい面もある。ただし、これらはすぐにテクノロジーで解決できるのではないか。また、オンライン診察では聴診や触診といった行為ができないが、これらも今後のテクノロジーで解決できる可能性がある」と田端氏はみる。

専門性高い診療科や疾病はオンライン診療に向く

 もう一つの新メニューである医師向けの「オンラインコンサルト」は、田端氏が代表理事を務める一般社団法人ハートアライアンスで行っている。ハートアライアンスは、心臓血管外科医と循環器内科医、麻酔科医、看護師、臨床工学技士、理学療法士などからなり、いわば、病院の垣根を越えたハートチーム(循環器治療チーム)。従来の常識にとらわれずに医療業務の効率化や働き方改革、人材育成、心臓手術の標準化などに取り組む組織だ。

 オンラインコンサルトでは、「手術が必要かもしれない」患者を抱えている医師に、手術の適応やタイミングなどを助言する。感染症拡大の中でもすぐに手術が必要なのか、数カ月待てる症例なのか、受診をした方がよいのかなどをアドバイスする。また、遠方の医療機関の場合には、地元でコンサルトや手術が可能な医療機関の情報なども提供する。「通常こうしたことは、面識のある専門医に相談することが多いが、それが難しい医師に活用してもらいたい」と田端氏。相談には、3つの病院に所属する15人の専門医が対応する。

 自由診療の「セカンドオピニオン外来」には、現在かかっている病院で手術しか治療がないといわれたが他に方法はないのか、かかりつけ医に勧められた手術がどのようなものなのか、といった内容の相談が多いという。田端氏は「より幅広い医療情報を求めており、遠方からの相談が多い。ただし、感染症の拡大に伴い、都内など近郊の人からの相談が増えた」と話す。

 患者負担は予約料の1080円に加え、10分ごとの診察料3240円。多くは30分程度の診察時間で1回の費用はおおよそ1万円強といったところだ。CLINICSではオンライン専門外来ネットワークを作り、てんかんと心臓血管外科領域でのセカンドオピニオン外来をメニュー化してきた。メドレーの田中氏は、「専門性が高く、地域の医療資源のギャップが大きい診療科や疾病については、オンライン診療のアドバンテージが高いと考えている。遠方の患者が直接診療を受けるには、交通費や時間の負担も大きく、それが軽減できる」という。

 「患者向け無料オンライン相談」というオンラインメニューは、東京ベイ・浦安市川医療センター、虎の門病院、ハートアライアンスそれぞれのホームページの相談フォームからアクセスできる。専門医がメールで回答する仕組みだ。相談内容は、心臓・血管の病気に関する受診の必要性や、検査、手術、カテーテル治療などの診療に関わるもので、診療は行わない。2017年以来、月に10件ほどのペースで相談があるという。

 新型コロナウイルス感染症の影響により一気に進展したオンライン診療やオンライン相談。今回の初診への保険診療の拡大などは時限措置で、今後保険の枠での診療ができないケースも出てくるだろう。しかし、専門性を生かしたオンライン診療の可能性が見えたことや、オンライン診療を経験した患者が感じた利便性が後押しとなり、加速の火は消えないと考えられる。

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